第17話 私を抱いてみる?
「『月氷花草』は薬草だってのは流石にわかるわね?」
「……うん。まぁ……」
「あの薬草は含有する魔素が膨大なのよ」
「……へぇ〜〜」
「つまり、そういうことよ」
「……え?! どういうことよ??」
エリスの悪い癖が発動する。カイルはまだ答えにいきつかない。
「はぁぁ……だから、魔族の根幹ってナニ……?」
「魔族の根幹? 確か以前エリスが……言って……あ? そういうこと??」
「そういうことよ」
ようやく、カイルは納得をした。
つまり……
「魔族の根幹は魔力……つまり魔素——『聖女の多鏡薬』によって『月氷花草』の薬効成分を高め、大量の魔素を摂取することで助かった——と?」
「——そ……だからワタシは一命を取り留めた。殆ど偶然が折り重なった奇跡に近い事よ——カイル……」
「…………」
エリスはカイルに微笑む。いつもは目の笑っていない彼女だが……この時のエリスは瞳に一瞬……ほんの一刹那だが……カイルには輝きが見えた気がしたという。
「この事について言えば、アナタを褒めてあげるわカイル。だから……殺す時は一撃で苦しまずに殺してあげるからね……ふふふ……」
「——ッ!? なんだよ! 結局、殺されんのか僕!!」
だが……そんな輝きなどエリスの次の言葉で忘れてしまう。結局、彼女は魔族なのだ。あんな輝きは致命傷の重症が薬草で治ってしまう以上の奇跡の輝き……いや、もしかしたらアレはカイルの思い過ごしだったのかもしれない。
「なに……不満?」
「あ、当たり前だろ!? 当然じゃん!!」
「当然? よく分からないわね」
「なんでだよ! エリス、頭良いのにどうしてそこは分からないんだよ!!」
「そんなの分かりきっているでしょ? ワタシは魔族で……アナタは人間……でしょ?」
「——ッ!? ああ〜〜はいはい……そうでしたね魔王様……」
そして、カイルは諦めた。冷ややかに嘲笑してエリスから視線を外す。
「——ふむ……」
魔王に対して無礼極まりない態度だが……カイルは彼女の扱いに慣れつつあるのか、これぐらいでは『怒らせることはない』と分かっているかの態度だった。
その証明とは分からないが……カイルの言葉を聞いたエリスは唇に指を当て何やら思案している。
すると……
「——カイル……」
「……? なに?」
「なら、ワタシを抱いてみる?」
「……………ッふぁ????」
予想だにしない一言がカイルの耳に届いた。この時の彼は耳を疑い何を言われたのか全く理解していなかった。
「——何を????」
「だから……ワタシを抱いてみるっか、て——」
「……ッッッ——はァァアア嗚呼あああ!!!!????」
再び、聞き返す。しかし返ってくる答えは変わらない。漸くといった感覚で、カイルは何を言われたのか理解して絶叫した。
「これでもワタシは、アナタに感謝している。これは本当よ。なら、ここは『人間』に習ってお礼をしてあげようと思ったの」
「——ッそこからなんで……ダ〜〜ッッ〜〜って事になると??!!」
「人族には、『身体で払う』——との言葉があるそうね。つまり、これを実践しようということよ」
「……な、なんでそうなる?」
「意味は当然……理解できるでしょ?」
「……い、意味は分かるけど——ッそもそも! 魔族である君が人間である僕とその……アニョ〜……ボソボソ……」
「……よく聞き取れない?」
「……いや……そういった関係って……嫌がるものじゃないのか? 虫唾が走るとか——」
カイルは誤魔化す様に話の根本から遠ざける。最後は声を張り上げ緊張する感情を押し殺して平静を保とうとするも、彼の顔は火を吹く勢いで紅潮している。カイルはそんな顔を余程見られたくないのか正面ではエリスをとらえず、横目でチラチラと彼女を確認していた。
「うん……確かに、虫唾が走るよ」
「——ッなら!!」
「でも、魔族は知識欲に飢えた存在なの」
「……え?」
「魔族は人の形を生まれた瞬間から忠実に形成している。ツノがある事を除けば、殆ど人間と同じ。でもね……この時、男か女かなんて関係がない。何故なら魔族は交配では生まれることはないからよ——あくまで魔力と思念の塊の様なモノ」
「そ……それが、なんだって?」
「だから、大して人間と『交配』による行為に興じるのに否定も肯定もない。殆ど意識は向いていないのよ。むしろ、人間を知ろうとして進んで交わる者だって……魔族は人間より遥かに寿命が長いから如何なる知識には飢えているものなんだよ」
「…………」
「かく言うワタシも……人間の交配は以前から興味があった。カイル……君なら、ワタシの命を助けた殊勝な心に免じ、特別に許すよ。好きにすると良い……」
「——ッ!?」
「コレを『礼』として君に送るよ」
カイルの目に飛び込んできた彼女(エリス)の姿はベットに横たわった状態だった。片手を胸の前におき、もう片方の腕をカイル目掛けて伸ばす姿には、まるで「おいで」と言っているかの様に誘っている。表情は普段は起伏の少ない彼女にしては珍しい微笑みを見せ、どこか面妖な印象。美少女とあって口元に覗く八重歯が対比を作り相乗的に彼女の魅力を引き立てた。しまいに、彼女の纏った衣類は漆黒のドレス。相変わらず出会った当初から脇腹に穴が空いている(普段、表ではベルトの様に布を巻いて破れ跡を隠している)のだが、横たわってる事により重力によって布地が身体に張り付き、体のラインはくっきりとしていた。
その全てにおいてカイルの羞恥を大いに掻き立てる。
そして……
「——ッッお〜〜〜〜ッッッ女の子が、そんな事を軽はずみで言ってはいけませぇええーーん!!!!」
気づくと、カイルは赤面しながら叫んでいた。
「……女の子? 何を言ってるの? 魔族の見た目は生まれた時から固定よ? ワタシは魔王だから、魔族の中でも特に長命だし……遠慮しているなら、気にしないで……」
「うるさぁああい!! そう言った問題じゃないんじゃぁああ!! ぼけぇええ!!」
「——ッ!? アナタ……またワタシのこと『ボケ』って言ったわね。知力で言えば……アナタの方が……」
「また、それ?! 言っとくけど、人間の感情論については、てんで分かってないからね! 頭良いのにアホの子に見えるからね!!」
「…………はぁあ?!」
「兎に角——僕はエリスに手は出しません! 女の子はもっと自分の事を大切にしてください! 以上——終わり!!」
カイルは怒気を強めて、以上を吐き捨てると大きな麻袋を取り出して包まった。そして、その状態で床に不貞腐れて寝てしまう。就寝にはまだ若干早いが今の出来事を忘れてしまおうとの措置であるようだ。
「…………」
エリスはそんな彼をベットの上から眉間に皺を寄せ暫く見つめ続けたが……やがて、フンッ——と鼻を鳴らすと……こちらもシーツに包まり寝てしまう。
こうして……
カイルとエリス——2人の意識はこの日を後にした。
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