第9話 私はこの人の“◯◯”です
カイルの操る馬車には、魔族の少女が乗り込んでいた。この時の2人は、距離はあるものの背中合わせの状態にある。危なっかしい為、御者に務めるカイルは振り向いて彼女の状態を確認する事は叶わない。だが……先程からの彼女の講義もそうだが、少女の冷たい声音は動く馬車に乗っている状況でも一定としてブレる素振りなくカイルの耳に届いている。気のせいではない……魔族である彼女は、確実に荷台に乗り込んでいるのだ。
「あなたって本当に頭が足りてないのね。今の話を聞いていたの?」
「へ?! どう言う事??」
コレに、思わず疑問を隠しきれなかたカイルだったが……少女からは「そんなこともわからないのか?」と——呆れての物言いが飛ぶ。カイルの抱えた疑問の答えは、どうやら彼女の講義の中に隠れていたようだ。
「はぁぁ……反応1つでも尺に触る。だから、人間はキライなのよ……今すぐ殺してしまいたい」
「——ッ!?」
だが……
「……で、で、でも——こ、殺さないんだね……僕の事……」
明らかに少女は不機嫌そのものかのセリフを吐き出すが……カイルは果敢にもコレに反応して言い返す。先程の疑問の答えも判明していないが……今のカイルの言葉も、彼が抱える疑問の一つだ。だが、彼の発言は少女の言葉に対して逆立てる可能性を秘めている。これで殺されたとしてもおかしくはない筈——ただ……カイルは昨日の時点で彼女に殺されていた可能性だってあった。だからなのか——彼は死について少々感覚が麻痺しているようだ。それでも、『恐怖』を感じていないわけではない。その証拠にカイルの声は、どことなく震えている。
「それは、あなたに利用価値があるからよ……」
「り……利用価値?」
「ほら、前を見て……門よ。あなたの価値を証明して——あなたはその為に生かしているんだから……」
「…………」
しかし……少女の言葉は、決してカイルの疑問に答えてはくれない。理由は分からないが、彼女はヒントの一部を発するだけで皆までは語らない。
これは彼女の性格が原因か——
説明する気がないのか——
そもそも理由事態ないのか——
【魔族】のことが一層分からなくなる。
「オイ! そこの馬車、そこで止まれ——オマエら商人か? 許可書を持ってる奴はどいつだ!」
そして、馬車は街の周囲を取り囲む外壁……その出入口となっている門までやってきていた。
そこで、明らかに気性の荒い若い守衛の男に、馬車を止めるよう指示が出された。
「はい……僕が許可書を持ってます。商人です。」
「ぁあ……オマエが? で許可書は?」
「ええ〜とぉ……こ、これです」
「ッチ……おせぇーよ!! 門では通行のチェックがあることぐらい、商人なら分かってんだろう。直ぐに渡せるようにしとけよ馬鹿がッ——!!」
「す、すいません……」
カイルは守衛の男に商人の証である『許可書』を取り出すと、男はバシッ——とコレをひったくって奪う。
「んで——ああ〜とぉ……オマエ、昨日も通行履歴があるなぁ〜……仕事かぁあ?」
「はい……近くの村まで……商品を売りに……」
「はぁ〜〜?! 村だぁあ? 商人って言うと、デケ〜街にモノを売りに行くもんだろ? 何でココを拠点紛いにして、わざわざ小さな村まで商品を売りに行くんだよ?」
「それは……僕のポリシー……と言いますか……」
「ああん……ポリシー?? 普通仕事ってのは打算ありきでやるもんだろ? 経路の途中で立ち寄ったんなら分かるが……わざわざ、小さな村へ売りに行くとか、労力と売り上げが全然マッチしてねぇ〜——俺だって、儲かるから守衛をやってるぐれ〜だからよぉお! オマエ……怪しい奴だなぁあ……」
「……ッえ!?」
「何、驚いてんだ? やっぱり何か隠しって……」
カイルは守衛の男から懐疑的な視線を向けられた。
実は、カイルが小さな村に商品を売りに行く、イコール『ポリシー』——との発言は全くもって正しい答えだ。だが……この時のカイルが慌てる原因は彼のすぐ隣に……
「んで——そっちの嬢ちゃんは……」
守衛の男は、次にカイルのすぐ隣に……シーツを頭に巻いた少女へと意識をフォーカスさせる。
先ほどまで、荷台に乗っていた筈だが……彼女は門が見えると御者席の方まで這ってきてカイルのすぐ横に、どカッ——と座っていた。
カイルの心配とは彼女のこと——この少女の
一歩選択肢を間違えば、この門は血で染まることになるのだから……
「——ん? 私ですか?」
「ああ、そうだ。オマエだよ」
だが……
守衛に声を掛けられる彼女は、男の態度をものともしない——今の少女からは魔族である冷たさは感じ取れない。
「ええっとぉ……彼女はですね!」
「うるせぇ! 商人——オマエに聞いてねぇ〜んだよ! すっこんでろ!!」
「——ッ!?」
カイルは当然、守衛の意識を彼女から外そうと割って入るも、男から瞬間で黙らされる——と、言っても……カイルがここで彼女の正体を隠す明確な言い訳などできるとは思えない。喋ろうが喋らなかろうが……一緒だ。
「ええ〜と私はですね」
すると……その時だ——
カイルの発言が止められてしまった今——彼女は自分でこの場を納める必要に駆られてしまった。よって……次にカイルとの間柄を少女の口から放たれるのだが……
この発言で、この場にいる人間に衝撃が走ってしまう。
「私は、この人の“妻”です!」
カイルの肩に自分の首を預けるようにして、発したこの一言で……
「「——ッッッ妻ぁあ!!??」」
思わず、守衛の男とカイルから驚愕の声が上がる。
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