第13話 別離の時

 なぜこんなドラゴンが町中にヒョッコリと現れたのか、理由はさっぱりわからなかった。


 人為的なものである可能性が高いらしいが、ちゃんと町に入る人間の拘禁器こうきんきくらいチェックしておいて欲しいものだ。


 とは言え、町の門番は優秀だ。そういったミスをするとは思えないので、引き起こした人間がいくらか上手だったのだろう。

 そうなると、まだ町中で何か企んでいるかも知れない。


 騎士達とそういう話になった時、マリスとミレニアがモルゴダらしき人形に襲われたという話が舞い込んできた。

 心配になった俺は、二人が向かったという避難所へと急いで向かうことにしたわけだ。


 空を見上げれば、もう星が夜空に踊りだしていた。

 ……そういや今日はどっちが晩飯当番だったかな、とか考えながら走る。


 避難所の出入り口に向かうと、ちょうど地下の階段からマリスとミレニアが登ってきているところだった。


「マリス! ミレニア!」


 大きな声で二人に呼びかけた。


「ディーノ君! よかった。無事でしたか!」

「ディーノさん!」


 すると、二人も笑顔で手を振り返してくる。

 仲良く手を繋いでいるし、元気もありそうだ。


 その姿を見て、思わず胸をなでおろす程に安心した。


「……あっ」


 だが、ミレニアはすぐ顔を俯かせて、手を降ろしてしまう。


 ……そうだった。俺はミレニアを怒らせてしまったばかりだった。

 忘れてたわけじゃない。頭の隅っこに追いやっていただけだ。ホワイトトネリコドラゴンの討伐とか、色々と大変であったわけだしな?


 だが、どんな言葉をかければいいか、全く持って考えていなかったのも事実だ。

 ……さて、どうするか。


 二人に近づきながらそんなことを考えていると、突如として頭に衝撃が走り、俺は意識を手放した。


     ◇


 避難所の出入り口から出てきたマリスとミレニア。

 いや、それだけじゃない。その場に居た全員が、あまりの出来事に、一瞬反応が取れなかった。


 


 あまりにも前触れ無く、地面に飛び知った血肉を前に、あっけにとられるしかなかったのだ。


「ディ――――」


 ディーノに駆け寄ろうとしたマリスだったが、手を繋いで居たはずのミレニアの手の感触が無くなっているのに気がついた。


 慌てて辺りを見回せば、ミレニアが口を抑えられ、老人に羽交い締めされているところだった。

 格式高い白い衣服は、どこぞの宗教に従事していそうな貫禄を思わせる。


 その老人を、マリスは知っていた。


「ドレミダ・ミルゲニア! マリスちゃんを離しなさい!」


 そう、天翔ける心姫ハート教団の教祖であり、昨晩ミレニアを返せと宣ったその人である。


「申し訳ないが、それを聞くことはできない。そもそもお前達との契約も、最初から守る気なんてさらさらないからな」


 ドレミダが口を開いた瞬間周りに居た騎士や冒険者達が襲いかかる。

 だが、ドレミダはそれらを難なく躱し、手刀一つで鎧ごと風穴を開け、ある者は地面に、ある者は壁に叩きつけられる。


 再び口を閉ざす頃には、十数人もの重症者が転がっている惨状を生み出していた。

 襲いかかった騎士や冒険者達は、決して弱い訳では無い。その場で連帯し、囚われたミレニアという少女を助け出そうとした優しき猛者達だ。


 それらをあまりにもあっけなくねじ伏せたドレミダは、マリスも唇を噛むほどの強者だと思い知らされる。


「それではさらばだ」

「待ちなさい!」


 立ち去ろうとするドレミダを、杖を構えて追いかけようとするマリス。


「待つことはないが、忠告を一つ。君の愛しき人が今にも死にそうだが、放って置いていいのかね?」


 その言葉に、マリスの動きに迷いが生じた。


(確かにミレニアちゃんは大事。でも、今彼らを助けないと、命が危ない――――)



 そう考えているマリスの視界に、ミレニアの姿が目に入る。

 口を押さえつけられていながらも、涙を流しながら手を伸ばしている、自分を慕う少女の姿が。


(今はこっち!)


 だが迷いを振り切った時にはもう遅く、ドレミダはミレニアを連れ去り姿をくらましている。

 指輪で魔法陣を展開し、周辺を捜索するが、痕跡は何一つとして残されてはいなかった。


「クソがッ!」


 思わず汚い言葉が漏れるが、マリスが気にしている余裕はない。


「こっちで老人が子供を誘拐してました!」

「クソ老人が騎士や冒険者達を殴り殺してます!」


 応援は市民がしている為、マリスは治療に専念することにした。


 マリスはまずディーノの元に駆け寄った。

 彼の頭は大部分が吹き飛んでおり、マリスでも苦戦を強いられるのは当然の惨状。並大抵の腕なら、もう死んでいるとみなして他の人間を診ようとすることだろう。


 それでも、彼女はディーノという男の命を諦められなかったのだ。


「……あれ?」


 だが、それは覆される。

 弾け飛んで地面に転がっていた血肉は、元の場所にすっかり収まっており、大きな傷ができている程度になっていたからだ。


 それでも重症は重症なのだが、先程と比べれば遥かにマシになっている。

 前触れもなくこんなことが起きるものだから、マリスが困惑するのも無理はないだろう。


「……うぅ」


 当の本人は、苦しそうに寝息を立てている。


(……そういえばこの人、時間を逆行させて怪我を治すとか普通にできるんだった)


 これまでも何回か傷を時間を逆行させて治していたことを思い出す。

 今回は完治こそしてはいないが、あまりに突然の出来事に、そこまで余裕が回っていなかったのだろうとマリスは結論づけた。


「……全く、人騒がせなんですから」


 呆れた物言いとは反対に、笑みが浮かんでいるのを彼女は隠せない。

 そのことに気がつく余裕もなく、マリスは治療に専念することにした。


 その命を、決して放さない為に。


    ◇


 俺が目を覚ますと、暗く狭い牢獄の中だった。

 見覚えがある。俺が父親に実験動物にされている際、詰め込まれていた部屋だ。


 ……はて、俺はマリスとミレニアに合流していたはずだし、この部屋はレイナがぶっ壊したからもう実在しないはずだ。

 


「うおおおお!? どういうことだ!? 今までのは夢か!? 俺に優しい彼女や、可愛い愛娘が夢オチか!? ふざけるな! どこまで現実逃避していたんだ俺はァーッ!!」


 あまりの現実に俺は頭を抱える。


 ……頭を抱える?


 あれ? この頃の俺、人の形をしてなかったから、頭を抱えるとか構造上できなかったはずなんだが。

 何なら手はなかったというか、前足だった気がする。


 見たくもない鏡を見ると、俺のよく知る俺が居た。

 つまり、金髪ロングで、ハンサムで、かっこいい体を見せない為にポンチョを着込んでいる俺である。


「ん? あれ? どういうことだこれは?」

「ここ精神世界なものですから、多分絶望中のディーノに影響されているのでは?」


 ここ最近、頭に響いていた声が話しかけてくる。

 その声の方を振り向けば、車椅子に腰掛け、黒い髪に黒い瞳のエルフがそこにいた。


 そんなエルフを、俺は一人しか知らない。


「こうやって対面するするのは久しぶりですね。元気してました? まあ全部知ってるんですけどね!」


 ああ、このぶっちゃけっぷりは間違いない。

 そのアイディアと功績で叡智の勇者と呼ばれ、俺の育ての母である、レイナ・ベネディクトゥスその人だ。


「……死に迷ったか?」

「ハハハハハ、このクソガキ。もう一度分からせて上げましょうか?」

「わかった。お前がレイナだってのはよくわかったから、その杖を下げろ。俺が悪かったから!」

「分かれば良いんです分かれば」


 俺に構えていた杖を懐にしまうと、殺風景な牢屋の中を見回す。


「せっかくの再会ですし、ちょっと趣向を変えましょうか」


 レイナが指を鳴らすと、世界の色が変わる。

 空には満天の星空、足元にはどこまでもそれを写し取る鏡のような水面だ。


 潮風らしきものが俺の頬を撫でるところから察するに、ここは海面の上か何かか?

 どんな魔法理論を使えばこんなことが……いや、精神世界だとか言ってたような気がする。気にしないほうが良いのかも知れない。


「ロマンチックでしょう?」

「俺に何を求めているんだアンタは」

「もー! 素直じゃないんですからヤダー!」


 ケラケラと笑うレイナの前には、いつの間にか紅茶が備えられているテーブルと椅子があった。


「さ、どうぞ」


 レイナに誘導され、俺は仕方なく椅子に座る。

 備え付けられている紅茶を飲むが、昔レイナがよく入れてくれた温かいお茶の味と匂いがした。


「それで、これはどういうことだ」

「その説明をする前に、今の銀河の状況を理解する必要があります。少し長くなりますよ?」

「世界?」

「……ああ、ミレニアちゃんがいたもんだから、つい語録を。今のは忘れて下さい」


 頭を抱えているレイナだが、アンタがわけわからない事言うのは昔からだから、ミレニアは関係ないぞ。ということを言わない親切心が俺にはあった。


「これは前提ですが、私って死んだ後ディーノに取り憑いちゃったんですよね」

「悪霊じゃないか!!」

「いぐざくとりー! そんなわけで、今までディーノのがんばりっぷりを中から見ていたわけです」


 ああ、最近頭に聞こえていた声は、俺の子育て疲れからくる幻聴ではなく、取り憑いていたレイナが俺に呼びかけていたってことか……!


「……待て。見ていたって、どこからどこまで」

「マリスさんとしけこんでるところまで。良いですよね、致してる相手の全身を鏡で見るの」

「いっそ殺せ!!」


 性癖が網羅されているレベルじゃないだろ!

 育ての親でもやって良いことと悪いことがあるだろが! せめて別の言葉をチョイスするなり、気を使ったりしてくれよな!!


「えー、やめてくださいよ。私一生懸命ディーノを蘇生してあげたんですから」

「……蘇生?」


 そういえば意識を失う前、殴られたような衝撃があったような……。


「そうそう。ディーノったら、不意打ちでワンキルされてますからね?」

「は?」


 俺が? 不意打ちで?


「正確には、気が付かれる前に空間移動で頭を砕かれてました」

「なんだそいつは」


 思わず体が震え上がる。

 どれだけの技量があればそんなことが実現できるのか、さっぱり想像ができない。

 指輪やそれに類する魔道具に演算を任せていたとしても、俺が気取られること無く殺すことができる人物は、化け物と呼ぶしか無い。


「相手は天翔ける心姫ハート教団の教祖、ドレミダ・ミルゲニアです。その後皆さん為す術もなく、ミレニアちゃんが連れ去られてしまいました。十三施錠の拘禁器こうきんきを扱いきれなかったのか、どうやら元々のプランに軌道修正したようですね」

「あのクソジジイがァ……!」


 恐怖という氷塊が、憎悪という炎で沸騰する感覚が全身に走る。


 それと同時に、どことなく納得があった。

 俺がアイツと初めて会った時、俺は敵だと思いもしなかった。こういった油断に潜り込むことこそ、あいつの十八番なのかも知れない。


「私が生きてる頃にぶっ潰すべき組織だったんですが……昔は結構頭が回ってまして、明確な証拠が泣く逮捕も処刑もできなかったのです。申し訳ありません」

「何やら因縁があるような感じだな」

「私が妖精の技術を発展させて、精霊信仰に持続的全体攻撃。信仰は死んだ!!」


 そういやそんなことしてたなこいつ……。

 職業妖精や家具妖精、これらの構造は精霊と同質であり、その違いはエネルギーの規模ぐらいのものだ。


 人類は妖精を通すことで、マナ濃度の調節を昔よりも楽に行えるようになった。

 結果、マナ濃度の調整技術を独占していた精霊信仰の数々は、権威を奈落のそこへと落としていったというわけだ。


 マリスが出かけた先でそんな雑学をミレニアに話していた気がする。


「でも私の研究を先に排斥してきたのはあっちです。どっこいどっこいですね」


 そんな子供っぽい理由で信仰揺るがされちゃあっちもたまらないだろうよ。

 まあ、そうでもしなきゃ人類の文明は、今ほど発展してなかっただろうが。


「それで、どうします?」

「……何が?」

「いや、起きた後の話です」

「ミレニアを助けに行く」


 何当たり前のことを言ってるんだレイナは。


「いや、ちょっと動機がわからないんですよね。ミレニアちゃんは私にとっても可愛い孫なんですけど、別にディーノが命をかける必要までありますか?」


 こういう意地悪な物言いも久しぶりだな。

 なら断言してやろう。


「アンタがしてくれたことを、俺もしたくなった。それじゃダメか?」

「ダメですね」

「ダメですね!?」


 指でペケマークを作り、頬を膨らませるレイナ。

 な、何がダメだったんだ!? 間違いなく俺の本心だぞ!?


「もっと、自分に素直になって!」

「す、素直?」

「そう、素直です! 私を言い訳にしないで、ディーノの素直な気持ちを聞かせて下さい!」


 そうは言われてもな……。

 え? 何言えば良いんだ?


「……放っておけないんだよ」

「それは、どうして?」

「そりゃあ……俺はアイツのお父さんだからな」

「フフフッ、まあいいでしょう。ギリギリ合格にしてあげます」


 俺の答えが気に入ったのか、腕で大きなマルを作ってご満悦なレイナ。

 ……全く、こんな確認に何の意味があるのやら。


「今、現実世界ではマリスちゃんが治療してくれています。あなたもそろそろこの夢からも覚める頃でしょう」

「……つまり、もうお別れってことか」

「はい。アナタを蘇生して力もすっからかんですし、もう茶々を入れることはできなくなるかも知れません」


 茶々入れてる自覚はあったのか。


 ――――ありました。


 やかましいわ。


 頭に直接語りかけてくる声を振り払う。

 これが最後になるなら、言っておかなければならないことがある。


「レイナ……」

「はい?」

「……母、さん」

「……はいい!?」


 顔を赤くして慌てふためくレイナ。

 怒っている様子じゃないし、このまま言わせてもらう。

 でないと、もう一生言えなさそうだしな。


「俺を育ててくれてありがとう。ろくな親孝行もできなくて、ごめん」


 そう言って、俺は頭を下げた。


「まったく、全くもう! ……顔を上げて下さい」


 言われて、顔を上げる。


「親孝行だとかなんだとか、そんなものはディーノが元気なだけで――――お母さんは満足なんですから」


 そこには、満点の笑顔のレイナの姿があった。

 彼女の背後から朝日が登っているのもかけ合わさって、なんともまあキレイな画が出来上がっている。

 手元にカメラがないのが惜しいほどだ。


 その光を浴びていると、帰らなければいけないという思いが湧き上がってくる。


「行ってきます」

「はい、行ってらっしゃい」


 席を立って最後の挨拶を交わすと、俺は夢から現実へと歩きだした。


「あ、そうだ。ミレニアちゃんって、マジの異世界転移者だと思います。多分地球の日本国出身ですねー。私も異世界転生者なので、そこらへんわかっちゃうんですよ。ちなみに私も地球の日本国出身だったりします! ナハハハハハ!」


 は?


    ◇


「それは先に言えや!!」


 絶叫とともに起き上がる。

 にしても、なんだかいい夢を見ていた気がする。


 なんだっけ? ミレニアがガチ異世界人かも知れない?

 ……いや、今はそんなことどうでもいい。


 辺りを見回すと、空はもう日が差していた。

 部屋には俺のようなけが人がベッドに寝転がっている。よくよく見れば、俺は彼ら以上に体をぎっちりと固定されている。特に頭とか。


 俺のベッドの傍には、マリスが椅子に座って眠りこけていた。


 ……全く、そんなにデカい乳をぶら下げてるのに、よくもまあ背筋よく眠っていられるもんだ。


「おいマリス。起きろ。そんな体勢は体を痛めるぞ」

「あ……ん? でぃ、でぃーのくん」


 まだ寝ぼけているらしい。

 とりあえず、脇に置いてある台に乗っかっている水筒を渡すと、マリスはごくごくとそれを飲み、目をぱっちりと開いた。


「ディーノ君、大変です! ミレニアちゃんが……!」

「ドレミダに誘拐されたんだろ? 知ってる」

「はい、そうなんです」


 ……ん? なんで知ってるんだ俺? まあ細かいことはいいか。


「それで、もう騎士団が動いていると思うんだが……ミレニアはどうなった?」

「騎士団ですが……動いていません」

「は?」


 俺は騎士団に情報を提供し、次の日にでも逮捕するという話になっていたはずだ。

 それが一体どうしてそんな事になっているのか。


「現在、ホワイトトネリコドラゴンがベネディクトゥス領の各地で出現してまして……騎士団はそちらの対応に追われています」

「冒険者は?」

「冒険者に依頼をしてもなお手が足りないとのことで……」


 どれだけあんなのを所持してたんだ天翔ける心姫ハート教団。

 いやアイツラのせいと決まったわけじゃないが、まあ状況証拠的にそういうことだろう。


「な、今この町にホワイトトネリコドラゴンが出てないんだろう?」

「はい、ですが騎士達も町を守らないといけませんし、天翔ける心姫ハート教団の勢力を考えるに、数は足りないとのことで……」

「……そうか」


 状況は思ったよりも悪いらしい。


 怪我が治るのも待ってられないな。

 治癒能力の時間を加速させて、ギプスを外してベッドから降りる。


「どこに行くんですか!?」

「決まってる。ミレニアを助けに行くんだよ」

「二人じゃ無茶です!」


 お前が行くのは確定かよ。


「何笑ってるんですか」

「笑ってない」


 口元を抑える。笑ってたな俺。


「何、ちゃんと作戦は用意してある。何、今晩にでも取り返してやるとしようじゃないか」


 俺は胸を叩いて、自信満々に断言した。


 ……正直な話、ドレミダに関しちゃ出たとこ勝負になるよな。

 全く、俺より強い相手と戦うのは楽しみだが、こういう時に関しちゃ御免被る気分だ。


 だが、泣き言も言ってる暇もない。

 さっさとドレミダをぶん殴って、ミレニアを助け出してやらないとな。


     ◇


 ディーノの心の中心で、私はその様子を見ていた。

 どうやら私との会話は、全て持ち越すことはできなかったらしい。


 ……ああ、力を使ってしまった代償で、自分という魂が矮小な存在になっていくのを感じる。


 うーん、このままだと、私の魂は消えてしまうかもしれませんねぇ。

 困りました。まだ色々とやり残したことはあるのですが……。


 ……でもまあ、もう一度同じことがあれば絶対蘇生しますし、それを後悔することは決して無いでしょう。


 「がんばれディーノ! おばあちゃん……いえ、お母さんは応援してます!」


 ディーノの心の中心で、私は自分の思いを声にして伝える。

 それがどこまで届くのか、どんな影響をディーノに及ぼすかはわからない。


「例え、あなたにもう会えなくなっていようとも、私だけはその歩みを祝福しましょう」


 それでも私は思いを伝える。


 だって、私は彼のお母さんであり、ミレニアちゃんのおばあちゃんですから、心配で心配でしょうがないのです。

 守護霊をしているのですから、消えてしまうその時まで、お節介を焼くのは仕方がないのです。


 ……マリス? あの子はまあ一番殺意が高いですし、嫁と姑ですから? 心配する必要はないでしょう。ええ。


 そんなふうに物思いにふけっていると、ディーノがとんでもない行動に出て、私は思わずむせた。


「げふっ、ごほっ!? だからってそこまでします!?」


 ……変なところで私に似てしまったなぁ。


 私は甘いのか苦いのかわからない笑みを浮かべながら、ディーノの行く末を見守るのでした。

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