第7話 名乗りってやつは、聞きたいやつから名乗るのがマナーってやつなんだぜ?

 俺とマリスは、一日で帰れるような任務を受けることにした。

 近場の森で特定の魔物を討伐してこいとかいう、まあよくある討伐依頼……だったんだが、崖の上から見下ろしている俺達の目には、信じられない光景が写っていた。


「オイオイ見ろよマリス! あそこにはヘカトンケイル五十万ゼニー! こっちはリンネハウンド二十万ゼニーの大群だなんて、ボーナスタイムの大盤振る舞いってやつかよ!? って、オイオイ! あそこにカーバンクルグレイ四千五百万ゼニー居るぞ!? 赤子を抱くように、優しく捕獲しなくっちゃなァ!」

「ディーノ君。魔物を討伐証金額で言われても、私にはわかりませんから」

「俺にわかればいいんだよ!」


 そう、眼下に広がるのは金の群れ!


 ――――魔物の群れですよ?


 まずいな。涎が止まらん。特定部位をちゃんと分かるように殺さなくっちゃなぁ。


 ――――こ、この子……! 私へのツッコミを放棄する程、金に目がくらんでいる……!


「……おかしいですよディーノ君」

「俺は正常だ」

「ディーノ君が金に目がくらんでいるのはともかく、こんなに魔物が跋扈しているだなんておかしいじゃないですか」

「魔物なんざ、町の外を出歩ければ適当に出会うもんだろ? 今日はそれが多いってだけさ」


 いやぁ、日頃の行いがいい結果だな。かれこれ十八年、悪いことをせずに金稼ぎに邁進しているかいがあるってもんだ!


「それにしたって多すぎます。何らかの罠だと考えたほうが……」


 あ、まずい。カーバンクルグレイ四千五百万ゼニーが離れていく。


「待て! 俺のボーナス!」

「ああっ! ディーノ君!?」


 俺は魔物の群れにダイブする。

 目指すべきはカーバンクルグレイ四千五百万ゼニー一択!


 爪やら牙やら拳やらが押しかかってくるが、オールシカト! 最高級品を掴み取るのみよーッ!!


 普通の冒険者なら逃げられるが、俺は違う。自分自身の時間を加速させ、木々の間を駆け抜ける。町中にいるような猫のような体躯の魔物を射程内に収めると、俺はすかさずに手に取った。


「ハッハーッ! カーバンクルグレイ四千五百万ゼニー、ゲットー!」


 ――――カーバンクルグレイ。灰色のリスのような見た目の竜種ですが、その額にはマナが凝固した貴重な宝石マナタイトを宿しています。私も金策の為によく狩りました。


 レイナが刈り取りまくった歴史があるから、絶滅危惧種になってんだよなこいつ……。

 その御蔭で希少価値がさらにあがったから、今の俺にとってはありがたい話なんだが。


 まあいい。貴重な生き残りは、俺が金に還元するとしよう。

 そう心を切り替え、手の中に眠るカーバンクルグレイ四千五百万ゼニーの額を――――……額、を? ん? うーん???


「……無い」


 額にあるはずの、マナが凝固した貴重な結晶マナタイトが無い。


 落とすだなんてことはありえない。外すのにはコツが必要で、誰かが意図的に外そうとしなければ、こいつの額に宿るマナタイトが取れることはないのだ。


 つまりこいつは、一度誰かに捕獲されていた、ってことになる。


 そして一度マナタイトを取られてしまったら、再びその額に宿ることはない。

 マナタイトがないこいつの価値は、千ゼニー……。


「俺の……俺のボーナスタイムが……ッ!!」


 思わずカーバンクルグレイ千ゼニーを手から溢れ落とし、大きな声が喉から飛び出してしまう。

 魔物の群れが俺に襲いかかるが、そんなことを気にする余裕もない。


 あ、ダメだ。

 頑張って捕まえたのに無価値だとわかって、俺のテンションと脳の働きがだだ下がりしている。無理もない。俺にとっては、さながら赤ん坊が満足する前に、離乳食を取り上げられるかのような所業なのだから。


 それでも頭を必死に頭を回し、導き出した結論は――――


「まずいぞマリス! こいつは罠だ!」

「それ、もう私が言いましたよね?」


 いつの間にか俺の傍にまで来ていたマリス。周りの魔物は既にマリスが蹴散らしていたらしく、さながら山のように積み重なっている。


「この魔物達、テイマー等で調教されてます。統率された動きをしていました」

「そんなわけがあるか。俺はノーダメージだぞ?」

「普通はアレで死にますし、ディーノ君はノーダメではなく、それなりに怪我してますから、ねっ!」

「アウチッ!?」


 首元に消毒液をかけられ、思わず体を震わせてしてしまう。

 手鏡を取り出して首元を見てみると、牙の噛み跡があった。


「いつのまに……なるほど。俺の隙を突ける、逸材達だったようだな」

「先程まで隙だらけでしたよ」

「俺に隙なんて無いが……?」

「金に目がくらんでる時は別ですよね?」


 時間を逆行させて傷を治しながら、他愛のない会話を交わす。

 俺もだいぶ金の欲が落ち着いてきた。会話を投げかけてくれるマリスに感謝だな。


 懐からいくつもの針が取り付けられ、数字が描かれている円盤、マナ濃度計を取り出す。

 マナ、自然界にある魔力エネルギーの濃度を、数値化して確認する為のものだ。


 この辺りのマナ濃度は2.4……まあ駄弁っても大丈夫な数値だろう。


 魔物はマナが濃い場所を好む傾向にある。やつらにとって過ごしやすく、自然と集まりやすい。逆に、マナ濃度が低い場所には寄り付こうとしない。

 町の外であれば、マナ濃度レベル2.4はとても低く、よほどのことがない限り魔物が寄ってくることはないだろう。


 この数値が高すぎると、生命体に影響を与えてしまい、人体に影響を及ぼし、下手すると魔物になってしまう! なんてこともある。


 ……ああうん。この濃度であんなに群がってるの、確かにおかしいな。自然的にはありえないことだ。


「とにかく、こいつらは全員人為的に用意された魔物ってことか」

「そうでしょうね。そのカーバンクルグレイも、マナタイトが抜き取られているようですし、ディーノ君用の罠なのでしょう」

「こんなので釣られると思われてるのか……」

「釣られてましたから、敵の目論見は大当たりでしたね」


 痛いところを突かれた俺は、マリスから目をそらす。

 その視線の先には、マリスが倒した魔物の山があった。


「とりあえず、ヘカトンケイル五十万ゼニーだけでも持って帰るか」

「……それ一匹だけですからね? 罠だって判明してるんですからね?」

「わかったわかった」


 俺は手のひらサイズの箱、拘禁器こうきんきを取り出す。

 こいつのボタンを押すと、ヘカトンケイル五十万ゼニーが吸い込まれるように拘禁器こうきんきの中へと収まった。


 これは魔物を捕獲する為のもので、箱の中の距離や広さなどを歪める、結構ハイテクな空属性の魔導具だ。生け捕りなら抵抗力を抑えるために錠前などをあわせて使うが、今回は討伐証明の為の死体である為必要なし。


 災害級の魔物を生け捕りする場合だと、何百人もの人間が十の錠前を使って封じ込めたりする。

 要は錠前が必要な数ほど強い魔物だという物差しになっており、何施錠分だなんて強さの表現もあったりする程だ。


 一応写真も撮りながら、俺達は獣道へと飛び出す。

 罠だとわかっているんだから、そりゃ長く在中するのは悪手ってもんだ。


 ――――だったら魔物を捕まえずに逃げればよかったじゃないですか。


 金が少しでも欲しかったんだ。反省はしている。


 脳内で反省会を広げていると、何やら気配を感じ取った。


「……ニキロメートルぐらいか? 誰かこっちに向かってきている」

「ここに来るまでの道のりは、この獣道しかありません。この先にあるのは湖ぐらいですし、商業馬車というわけでもなさそうですね」

「さらに追加情報だが、明らかに俺達に視線を向けている」

「んー、まだそれだと推定無罪ですね。他の冒険者だったら問題になりますし」


 冒険者とは蛮族ではない。少し怪しいからという理由で人に危害を加えれば、信用はガタ落ちするし、罪に問われる。

 だが俺とマリスの勘は、タイミング的にこいつは怪しいと考えていた為、さっさと片付けておきたいところだった。


 どうしたものかとマリスと悩んでいると、気配を感じ取った場所から木が飛んでくる。


 あっちから仕掛けてきてくれたのか。助かる。

 俺は前に出ると、わざと木を頭に――――って痛ァッ!?


「思ったより勢いあったぞこれ! ほら見ろ、俺の頭から血が出たぞ!」

「油断しすぎです。それに、普通はミンチなんですからね」


 首を鳴らす。思ったよりダメージ入ってるなこれ。大人しくキャッチしておけばよかった。


 あたりを見回せば、先程の木の投擲で俺達の気をそらしている間に、そそくさと近づいたらしい。

 敵意がチラホラと木々の間から溢れているのを感じる。


 俺はそれをマリスに手のサインで伝えると、即座に杖を振るい魔法陣を展開させる。


「【握られし水源よ、一条に舞え】!」


 魔法陣から圧縮された水が溢れ出す。いわゆる水圧カッターってやつだ。


 すると、木々の間から血肉が吹き飛ぶのが見えたり、必死に避けようとする音が聞こえた。


「半分ってところか」

「そうですね。不意打ちされる前で簡単に片付けられました。引き続き、慢心せず片付けるとしましょうか」

「ハッ! 余裕だね! 一人五秒で片付けてやるとしようか!」

「それは余裕ではなく、油断や慢心っていうんですよ」


 俺達が知的に推定敵性勢力の片付け方を考えていると、何者かが走り寄ってくるの感じ取る。色々と考慮するに、先程木を投げてきたやつだ。


「お? 生きてんのか? 木を投げつけられたらそこは死んどけよ!」


 ケラケラと笑い声が聞こえる。


 木々の間から俺達の前へ現れたのは、ニメートルは超える巨漢だった。

 何やら格式高そうな白い鎧を着込んでいるが、ここらへんの領地の騎士のものじゃない。意匠的には、どこぞの宗教に従事しているような人間か?


 頭から角を生やしていることから、オーガということが分かる。背中にはオーガらしく、金砕棒を背負っていた。


「オイオイ、それは人を殺そうとする、人でなしのセリフじゃないなァッ!」


 さっさとへし折ってやろうと、オーガの首に蹴りを叩きつける。


「おう、痛いじゃねえか」


 だが無傷。腕を組んだまま余裕のスタイルだ。大分舐められている。


「俺も痛かったんだが?」


 すかさず拳を叩きつける俺。


「悪い悪い。死ぬと思ってな!」


 だが向こうも棒立ちではない。徒手空拳で応戦してくる。


「殺されるのも迷惑だってわかりなッ!!」


 蹴りと突きの攻防が続く。

 ……まずいな。こいつ強い。多分襲ってきた奴らの中では、こいつがぶっちぎりのNo.1だ。


 マリスに目配せして、残りの奴らを任せると伝える。

 それに気がついたマリスは、杖を構えて森の中へと入っていった。

 お前のそういう判断の早いところ、俺は好きだよ。


「いいねぇお前!! 名前なんだっけ? 『時間泥棒』ってあだ名の方は覚えてるんだけどよ!」


 俺の気に入っていない方の二つ名出してきたなこのオーガ。どうせなら『時龍帝』とか、かっこいい方の二つ名で呼んでくれないもんだろうか。


 ――――クソダサネーミングセンスは直しなさいって、しっかり言ったじゃないですか……。


 いや、『時龍帝』はかっこいいだろ。


「オイオイ、名乗りってやつは、聞きたいやつから名乗るのがマナーってやつなんだぜ? 名前と所属を言いなッ!」

「マジかよ!」

「マジの話さ!」


 とにかく口数と徒手空拳で、それに対応させるよう誘導する。


 絶対に金砕棒を引き抜く隙は与えない。この馬鹿力がそんな武器を振るってみろ。

 魔術なしでも俺の骨が粉砕されるのは間違いない。


 だが、向こうも馬鹿じゃない。俺の隙をついて武器を取り出そうとするだろう。


「俺の名前はモルゴダ・ラディック! 『天翔ける心姫ハート教団』の神奉仕軍、一番隊隊長だ!」


 ……よしッ、こいつはバカ決定だ!


 薄々わかっていたが、やはり『天翔ける心姫ハート教団』関連か! ブラフなどの可能性もあるが、その時はその時だ。


 モルゴダが名乗りながら金砕棒を引き抜こうとする。なんでそんな隙を与えちまったかって? あまりに堂々と名乗るもんだから、あっけにとられちまったのさ!


 だが、俺もただでそれを許す男じゃない。武器を引き抜こうとする隙に、その土手っ腹に時間を加速させた突きの猛攻を叩き込む。


 鎧は砕け散り、俺の拳の猛攻はモルゴダの筋肉にめり込む。

 ハッハァーッ! 貫きこそはしなかったが、オーガであろうとも致死量分のダメージ! 勝利は俺の物だーッ!!


「……だから、痛いっつってんだろ!」


 だが、モルゴダはそんなコトなど気にもとめず、俺を蹴り飛ばす。

 ……マズイマズイマズイマズイ! 今のが通じていない!? こいつ、俺の想定より強いぞ!? 明らかに俺じゃあ決定打が足りていない!


「【風は沈黙する】!」


 空気の時間を、壁の形に切り抜くように止める。位置情報は固定したまま。普段なにげなく吸っている空気だが、それも物質の一つ。時間を止めてしまえば、それは強固な障害となる。


 そんなこともつゆ知らず、モルゴダの金砕棒は、時が停止した空気に阻まれ、苦い金属音を鳴らしながら弾き飛ばされた。


 俺とてただ傍観するわけじゃない。そのうちに付かず離れずの距離を取っておく。


「うおおうッ! いってぇなァ! スッゲェな! マジで時間魔術を使ってやがる!」


 弾き飛ばされても手放さなかった金砕棒の調子を確かめながら、モルゴダは高らかに笑う。


「でも魔法理論で構築されてるんだ――――なら崩せる」


 再び振るった金砕棒は、ゴリッと削れるような音を鳴らして砕かれた。


 マナ破壊、色素抜き、妨害術式……・どういう理屈かは知らないが、魔法理論的に砕いてきやがったってことか?

 いや、そんな疑問は今はどうでもいい。今はそれを前提に、どう戦うかの思考を――――


 瞬く間にも満たない時間、かなりの距離があったはずなのだが、いつの間にかモルゴダと俺の距離は目と鼻の先となっている。


「死ねやああああああッ!!」


 咄嗟の防御も間に合わず、モルゴダの金砕棒が横薙ぎに叩きつけられた。凄まじい勢いで体が空へと放り出され、俺の血肉やら骨やらが、体の中で砕ける音が嫌ってほど鼓膜に響き渡る。


 ……俺が慢心したらろくな目に合わないとマリスは言うが、これはさすがに常軌を逸しているだろう!?


「うおっしゃ! 俺の勝利!」


 モルゴダも慢心しているのが聞こえる。

 血肉や骨を砕いて、空に放り出した程度で、俺から勝利もぎ取れるとでも? 甘いと言わざるを得ないが、俺からすればありがたい話だ。どうか死ぬまで甘くあってくれ。


「――――【俺は反逆する】」


 俺の時間が逆行し、怪我はまるで無かったかのように元通りになり、今までの慣性など知ったことじゃないと言わんばかりに元の位置へ戻って行く。


 時間が戻っていく中で、手足を動かす。

 よし、うまく術式の計算があっているな。今は位置情報の時間だけが逆行している形だ。


「【風は沈黙する】!」


 先程壁を作ったように、再び空気を切り取るようにどでかい塊を作る。今度は位置情報の時間を止めないのと、町一つぶっ壊せる質量だということぐらいか。


 時が止まった空気を、モルゴダに向けて足の底に押し付ける。


「お前、今のから復帰できんの!? すげーなオイ! ミンチにしても大丈夫なんじゃねえの!?」


 向こうも俺の様子に気がついたのか、襲いかかる俺に対し、再び金砕棒を構えた。

 ……ほう、俺を正面から再び粉砕しようと?


 オイオイオイオイ! このディーノ・ベネディクトゥスが、同じ轍をニ度も踏むと思うなよな!


 さて、ここで大前提を話そう。空気なんてのは透明だ。視覚で捉えようとしても、できるようなもんじゃない。


 だがモルゴダは、俺が足の裏で押し付けている空気を、ものの見事に金砕棒で捉え、あろうことかそのまま粉砕して振り抜いた。

 本当にどういう理屈だ? 筋肉だけでやってるなら俺は魔法理論を捨てるぞ!


 モルゴダの表情からは、勝利を確信したような笑みが読み取れた。


 そうか、それがお前の最期の表情か。


 俺の体は、時が止まった空気が壊れても、そのままモルゴダの元へ突き進んでいく。

 そう、俺の位置情報は時間が逆行しているだけで、足の裏のものが粉砕されようとも、何一つ影響を受けずに元の位置へ戻っていく。


「いいね!」


 再び金砕棒を構え、俺を打ち砕かんとするモルゴダ。


 だがその願いは叶わない。なぜなら俺が、モルゴダ肘の軌道上に、位置情報ごと時間停止させた空気の塊を、魔術で作ったからだ。


「お!? やってくれるなぁ!」


 肘から鈍い音がして、モルゴダの動きがよろめいた。



 その隙を逃さぬよう、俺は自分の時間を正常に戻してから、勢いを増すために時間を加速させる。


「ハハ! ハハハハハ――――ッ!」


 その結果、俺の足は、何やら歓喜しているモルゴダの首を踏み抜いた。


 俺が着地すると同時に、モルゴダの血肉が降り注ぐ。

 ああ、なんて汚い赤い花びらだろう。風情のかけらもありゃしない。


 残心を解かずにモルゴダの様子を見るが、ミンチより酷い目が当てられない惨状と化していた。

 ……これで生きてたら、俺はもうどうすればいいかわからん。


「勝ち取ったのは、俺だったようだな」


 自分を鼓舞させて、なんとか魔術で作った高火力の火に、その残骸を焚べる。

 こうでもしないと起き上がってきそうで怖いんだよこいつ。


「次があるなら、相手は選ぶんだなァ! アーハハハハハ!」


 だがしかし、強敵を倒した後ってのは、どんな時だろうとどんなやつでも、まっこといい気分だ! 気分が頂点をぶっちぎるぜ! しかもこいつ、俺より断然強いじゃないか! そりゃ勝利の味は格別にもなるってもんさ!!


「ディーノ君」

「あっ、はい」


 俺の背後から背筋の凍る声が聞こえ、思わず直立してしまう。

 ゆっくりと振り向けば、そこにはご存知マリスの姿があった。その頬は不満げだと言わんばかりに膨らましている。


「高笑いしてる暇、あります?」

「……無いです」

「反省してくださいね?」

「はい……」

「ミレニアちゃんを迎えに行きますよ」

「はい」


 俺はマリスに水の魔術で血肉を洗い流して貰いながらの問答を終えると、すぐさま帰路へと走っていく。

 帰り道は、マリスが水の魔術で作ったクレーターがたくさんあったが、いつものことだ。


 被害状況の全てに写真を撮りながら、俺達はミレニアの元へと急ぐ。


 ……急いでるなら写真を撮るな? ギルドや役所に届け出を出す際に、写真を提出したほうが話が早いんだよ!


 ――――まあ私のかわいい孫も、そこら辺は理解してくれることでしょう。


 なにやら満足げにつぶやくレイナの声が、どこからか聞こえた気がした。

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