第5話 ミレニアちゃん、冒険者の夢に羽ばたく


「ミレニアちゃんのことで話があります」


 夜遅くに俺の寝室を訪れた寝巻きのマリスが、間髪入れずに真摯な顔つきで宣言した。

 実は別の事を期待していたので、真面目な話だと最初に言ってくれるのは助かる。

 マリスがベッドに腰掛けるのを見て、俺はその向かいにある机の椅子に座ることにした。


「ディーノ君、ディーノ君」


 だがマリスはそれが不満のようで、ベッドをポンポンと叩いている。

 どうやら、隣に座れと言っているらしい。


 別に断る理由もないし、俺はマリスの隣に座った。


「この家にミレニアちゃんが来て、早一ヶ月になりますね」

「ああ、そうなるな。最初と比べれば、ちょっとは打ち解けてきた……と、自惚れてもいいか?」

「そこは自信を持って下さいディーノ君」

「孤児院育ちで慣れてるお前と違って、俺は初めての連続なんだ。正解がわからん」


 投げ出すように両手を上げて、背をベッドに預ける

 そんな俺の腹を、マリスはポンポンと叩いた。まあ腹筋で押し返すんだが。


「子供だってそれぞれの対応があります。ミレニアちゃんなんて、頭もいいし身体能力も高いしで……」

「身体能力?」


 マリスに言われて、ふと最初に出会った時のことを思い出す。

 そういやミレニアのやつ、魔物から逃げて木に登り、更には枝から枝へと飛び移っていた形跡があったな……。


 だがマリスが改めて言うということは、他にも何かあるのかもしれない。


「はい。三人で一緒に買物に行ってから、積極的に散歩に出るようになったんですが……」

「ほう。いい傾向だな」


 いいニュースが耳に入り、思わず起き上がってしまう。

 外に出たがらない傾向のあるアイツが散歩か。俺が冒険者の仕事に言っている間、そんな事になっているとは。


「お前がいてくれてよかったよ。そういうことは、俺じゃできないことだ」

「いえ、それなんですが……」


 俺が上機嫌になる反面、マリスは気まずそうに目をそらしている……なんだ?


「冒険者になるために、体力をつけようとしているようなんです……」

「なんて???」

「ミレニアちゃん、冒険者の夢に羽ばたく」

「なんてこったい……!」


 頭を抱えざるをえない俺。マジでやめてくれ。十五歳になって成人になっても俺は認めんぞ絶対。


「この間、魔術を使わずに鬼ごっこをしたんですけど、物の見事に捕まりました。結構本気で走ったんですけど……」

「お前今年で十九歳になる冒険者だよな!? 肉体年齢で言えば十七ときた! 十五歳とかいう成人年齢に達してないガキに、ガチでやって負けるなよな!!」


「仕方ないじゃないですか! あの子木の枝を鉄棒代わりにグルグル回ったと思ったら、私のところに砲弾のごとく飛んでくるんですよ!? キャッチするしか無いじゃないですか!!」

「ちょっと何を言ってるかわからんな……」


 え? 最近の子供ってそんな身体能力高いのか? という眼でマリスを見るが、首を横に降る。


 やっぱりおかしいよなそれ……普通の冒険者でも、そんなことやれるの俺ぐらいしか思いつかないんだが、そんなのを魔術も使わずに子供の身体能力で? どういうことだ?


 ……ダメだ。頭が混乱してきた。


「ちょっとミレニアを叱ってくる。お前のやってること危ないって」

「私が叱ったので結構です。そしてここでの論点は、身体能力なんです」


 だよな。それはわかるよ。でもその身体能力が常軌を逸しているから、俺は混乱せざるをえないんだよマリス。


「いや、最初にあった時から身体能力は高いなと思ってはいたが……あれか? 文武両道の天才かアイツ?」

「どういう環境にいたらあんな完璧超人ができあがるんでしょうか……?」

「アイツに最適な教育ができてるか、ちょっと不安になってきたな……」


 狼狽する俺とマリス。


 ミレニアが実は王様の隠し子とか言われても、俺はもう驚かない自信がある。というか、ここまで来たら、そういう偉いやつが隠して育ててるとか言われたら、むしろ納得しちまう。


「そこで相談なんですけど」


 どうやらマリスは、ここからが本題らしい。

 こいつのことだ。一考の余地はある提案をしてくれることだろう。


「冒険者の仕事をさせてみませんか?」

「お前も却下側だっただろうが!?」


 才能か? 魔術や運動の才能があるからって、わざわざ危険な道を歩ませようってか? 俺はそんなのまっぴらゴメンだが?


「そうは言っても、町中で仕事をさせる、ということです。建物の掃除や、猫探しといった仕事です」


 冒険者は金の稼ぎと共に、信用を稼ぐ仕事だ。

 まだなりたての冒険者は、町中の簡単な仕事から始め、客を通して、ちゃんと言いつけを守れるのか、真面目に仕事をするのかなどを、ギルド側が信用できるか、能力がある人間かを判断する。


 これをランクと呼び、ライセンスに描かれる星の数程、ギルドが信用している冒険者だという証明になる。星が一つであれば初心者、二つであれば町の外の仕事が可能。三つあれば一人前。四つあれば一流。五つアレば偉人や英雄レベルの信用……といった風にランク付けされるわけだ。


 そうやって初めて、危険である町の外での依頼を、頼れる先輩冒険者と一緒に任される。先輩冒険者の指導の元、未開拓地を調査したり、魔物を退治する仕事のノウハウを積み重ねていくのだ。


 もっとも、魔物と戦いたくなかったり、町中の仕事を専門とする冒険者もいるが。


「そんな冒険者なら誰でもやるような仕事をやらせて、一体何の得がある?」

「町の人達に顔を覚えてもらえること、町の人達から信頼を稼げること、団体行動の大切さ、交友関係の拡大が見込めます。これらは冒険者にならずとも、この町で仕事をするのであれば、とても大事になってきます」


 マリスのやつ、急に正論の塊で殴ってきたな?

 どれも仰る通りですとしかいえないじゃないか……!


「……だが、ランクが上がって、勝手に外の仕事をされる心配がある」

「保護者が一緒に登録すれば、保護者の許可が出るまで、町の外や危険な仕事ができないようになりますよ?」


 なにだそれ。初耳なんだが。


「それ、最近できた制度か?」

「それほど最近でもない制度だったはずですけど……」


 ……そういえば、俺が冒険者になった時、レイナは既に死んでいて、金稼ぎの為にガムシャラだった。だから、そういった制度の印象も薄れてしまったのかもしれない。


「……そういう制度があるなら、まあ、今度一緒に登録してやらないこともない」

「ありがとうございます……あっ」


 咄嗟にお礼を言ったマリスだったが、失言したと言わんばかりに口を手で隠す。


 ……ははーん、こいつ、ミレニアから俺の許可を取るよう、頼まれてたな?

 どう説得されたかは知らないが、随分とまあ信頼されているようで。


 ――――それはディーノが信用されていないということでは?


 口を閉じな! イマジナリーレイナ!!


「さて、俺はもう寝る。お前はミレニアの寝顔を見てから寝たらどうだ?」

「あ、あはははは……そうします。おやすみなさい、ディーノ君」

「ああ、おやすみマリス」


 挨拶を終えると、マリスはそそくさと俺の部屋から出ていった。


『冒険者になる許可が出ましたよ。町中で、という限定でですが』

『本当ですか!? ありがとうございます、マリスさん!』


 どこかでこんな会話とか、ハイタッチする音が鳴り響いたらしいな。俺は寝てたので知らんが。


 ――――ちゃっかり風魔術使ってまで聞き耳立てておいて、素直じゃないですねこの子。


 イマジナリーレイナがなにかほざいてるが、俺は知らんったら知らん。



     ◇



「魔術を使ってみたいです」


 リビングで今日の分の勉強を見終わると、ミレニアがそんな事を言いだした。


 確かに魔法理論の勉強はさせているが、あくまで理論ばかり。魔力の使い方なんてのは、妖精に譲渡する方法しか教えていない。


 時間は昼前。午後を魔術行使の練習に費やすのも悪くはないだろう。


「……構わんが、場所をどうするかな」


 初めての魔術の行使だなんて、暴発が当たり前だと思った方がいい。

 うちにある雀の涙程度の庭では、お隣さんに迷惑が出る可能性がある。


 それが出来ない場合、俺が取れる選択肢は二つ。冒険者ギルドで練習場を借りるか、町の外でやるかだ。


 ギルドの練習場でやる分には料金を取られるが、外敵に襲われる心配もなく練習できる。町の外でやるならば予約も金も必要ないが、魔物や野盗なんかに襲われるリスクが有る。


 ……いや、これは考えるまでもなかったな。


「ここらだと、冒険者ギルドでやったほうが良いな。準備しろ」

「はい。わかりました」

「ついでに冒険者の登録でもするか」

「はい……はい!?」


 俺の提案に驚くミレニア。


「何だ。嫌だったのか?」

「い、いえ! します! したいです!」


 跳ねながら挙手して主張するミレニア。

 それでいて、瞳が輝いているように見えるぐらい喜んでいるんだがら、思わず笑みがこぼれ落ちる。


「わかったわかった。さっさと準備をしてこい」

「わかりました!」


 ミレニアは嬉しそうに返事をすると、「やった! やった!」とつぶやきながら、急いで自室へと走っていった。


 ……やれやれ、思ったよりお転婆になってきたな。


     ◇


 冒険者ギルドは町を出入りする門の近くにある。

 古い石製の建物だが、管理が行き届いている為か、古臭いと言うよりかは、長い年月を積み重ねてきた伝統を感じさせる。さすが一番最初に建てられた冒険者ギルドと言われるだけはあるな。


 ミレニアの手を引いてギルドの中に入ると、窓口がずらりと並んで出迎える。空いている窓口に並ぶと、俺の知っている受付嬢だった。


「ようメリッサ、子供に冒険者登録をさせたいんだが、」

「子供……?」


 赤い髪を一纏めにしている女、受付嬢のメリッサが視線を下げてミレニアを見ると、目を丸くさせた。


「そんな! マリスさんに産ませた赤子を、魔術で急成長させて手駒にしたって噂……本当だったんだ! 外道! 犯罪者!」

「そんな大声でホラを吹くんじゃあないぞ! 養子だ! よ・う・し! 必要書類持ってきたから、ちゃんと確認しろよな!」


 変な噂が広まる前に、いかがわしくないという証明を踏まえ、冒険者登録に必要な書類を提出する。

 別に無くても冒険者登録自体は可能だが、身分を証明するものがあれば、最初の信用度が向上するのであるにこしたことはない。


「……はい、確認いたしました」

「なんで残念そうなんだお前」


 そんなこんなで、サインが必要な書類や、保護者の許可が出るまで、町の外や危険な仕事ができないようにする手続きなどをこなしていく。書かれていることにこれと言った問題や、疑問点も少なかったので、思っていたよりも早く手続きは終わった。


「それでは最後に、体内オド計での測定をお願いします」


 黒い石の板に、『火・水・風・地・雷・緑・光・闇・空』と書かれており、メモリの刻まれているガラス棒の中がある。その上には色のついた液体が入っていた。

 この道具『体内オド計』とは、体内魔力であるオドが、どんな属性の魔術が適しているかを測ってくれるものだ。


 基本的にどんな人間にも、あらゆる属性の魔術を使えるが、それは均等ではなく、人によって属性の偏りが存在する。

 それを計測するのが、この『体内オド計』だ。


「はい」


 ミレニアが体内オド計を手に取ると、即座に結果が現れた。

 ……おかしいな。本来であれば、数十秒ぐらいはかかるんだが。オドを入れすぎたか?


「見て下さいディーノさん! 私、空と風です! ディーノさんと同じ、空属性があります!」

「……マジか」


 結果を見て大喜びするミレニアと、頭を抱える俺。

 どう説明したもんかなと考えたが、変に誤魔化すよりも、ミレニアには普通に説明した方がいいと結論づける。


「……よく聞いて欲しいミレニア。空属性っていうのは、空間や時間を操る属性だ。そしてその空属性に適正があるやつってのは、他の属性と比べて非常に少ない。国に指で数えられる程いれば大金星ってレベルだ」

「はい!」


 俺の説明に合いの手を入れるミレニア。

 そうだよな。希少ってことはすごいってことだと思うよな。めちゃくちゃ強いって感じるわな。でもな。現実は少しばかし違うんだ。


「だから、ノウハウがあまりに無い。自由度が低いんだ」

「……あー」


 納得してくれたらしい。

 そう。試行錯誤をするやつが少なければ、それで得られる情報も少ない。自分の得意な属性を研究するのがもっぱらなので、空属性の研究は他の属性と比べると遅れていると言わざるを得ないのだ。


 ――――私も空属性の比率が多めなんですが、計測しにくい現象なのでもう何が何やらなんですよ。


 とは、叡智の勇者のお言葉である。

 つまり、歴史的な偉人であろうとも、さじを投げ出すレベルの高難易度属性魔術なのだ。


 ――――さじは投げてないです! 投げてないですから!


「……でも、ディーノさんが教えてくれますよね?」


 そりゃそうだ。空属性の魔法理論を戦闘に使える程度に教えられるのは、国内には俺ぐらいしかいないだろうよ。


「ああ、時間魔術の秘法・極意を叩き込んでやる!」


 ちょっと脅かそうとおどろおどろしく言ってみたが、ミレニアの目の輝きは増す一方だ。

 ……時間魔術、拡張性無いから、本当にやめておいたほうが良いんだがなぁ。


     ◇


 まばらに人の座っている観客席に囲まれている中、整備されたグラウンドの上に俺達は移動していた。ここを使うことはあまりないが、大会等が行われる時に荒稼ぎさせてもらっている。


 周りには他にも練習している奴らは老若男女といた。俺達のように玄人が新人に魔術を教えている様子や、自分が使う新魔術の開発に勤しむものも居る。


 肝心のミレニアはと言うと、何やら頬を膨らませ、不満げな表情を浮かべていた。


「さっき、時間魔術を教えてくれるって言いましたよね?」

「ああ、言ったな」

「でもこの術式、『手に炎を浮かばせる』って術式ですよね?」

「ああ、よくわかったな。術式の理解度が髙い」

「話が違うじゃないですか!」


 疑いの眼差しで俺を睨んでくるミレニア。

 なるほど。さっき俺が時間魔術を教えると言っておいて、最初に火属性魔術を教えようとしているのが不満らしい。

 だが、これにはきちんと理由がある。


「炎のほうがイメージしやすいだろ」

「魔術って術式という計算式をオドで発信する、マナに対する専用命令言語じゃないんですか? どうしてイメージなんてものがでてくるんです?」

「正しい認識だ。だが実際やってみると、コツってもんがある」

「……コツ、ですか」


 先程の疑いの眼差しはどこへやら。コツと聞いた途端、ミレニアはわかりやすく食いついてきた。

 ……ああ! 尊敬の眼差しが心地良い! そういうのはもっとくれ!


 確かに、魔術とはオドを使ってマナに命令することで発現する現象だ。

 その命令文がオドを使った数式、つまるところ術式なわけだが、ここでイメージを添えることで、マナ側にもどういった意図のものかを理解し易くさせる。

 その結果、発動時間が短縮されたり、自分の思うような魔術の効力を発揮するわけだ。


「どうしてそんな事が起きるんですか?」


 俺が説明してやると、ミレニアが一つ疑問を提示してきた。

 疑問をわかったフリにしない姿勢、俺は嫌いじゃない。


「例えばだが、教科書に図式が無くて文章だけだったら、理解に時間がかかるだろう? そういう理屈だ」

「マナにも意識があるんですか?」

「それは違う。刺激が起こればそれに感化される物質というだけだ。その刺激が、自然現象であったり、オドであったりする。より命令を明確化させる為に、術式と共にイメージを添えるってだけの話だ」

「なるほど……あれ? もしかしてオドとマナの関係って、リモコンとラジコン……?」


 ラジコンとはなんぞや。

 と、話がそれ過ぎたな。関係ない話になってきている。


「話はこの辺にして、とりあえずやってみろ。時間は有限だからな」

「はい!」


 ミレニアは元気よく返事をすると、右手で本に書かれた術式を脳で咀嚼し、オドを通してマナに術式を送る。

 左手からは、赤い火の玉が、みるみる大きくなっていき……なっていき?


 いや待て、それはデカすぎる!

 一瞬で全長五〇メートル火玉はバカでかいと表現する他無いだろう!? 想定外にも程がある!!


「な、なにこれ……!?」


 大きくなった火の玉を天に掲げている本人も困惑している。

 動揺は魔術行使において致命的だ。このままだとコントロールを失い、暴発する可能性が大いにある。そうなれば辺り一面吹き飛ぶ可能性大いに有り!


「俺が対処する! 干渉してくれるな!」


 他の奴らに大声で忠告し、ミレニアをかばいながら火の玉に手を突っ込む。

 熱い。が、俺の体はこの程度じゃ火傷にもならん。


 それに全体像は把握できた。


「――――【時よ、逆行しろ】」


 火の玉の時間が戻っていく。

 みるみるうちに火の玉は小さくなっていき、最後には手のひらサイズとなったので、時間の逆光を止めて握りつぶす。


「すげー! あの魔法を一瞬で消しちまった!」

「現象的に時間を逆行させたのか。大したもんだな」

「さすがは時間泥棒だな……」


 パチパチと、周りから称賛の拍手が飛ぶ。

 目に見えてやばいものを、俺一人で解決した事によるものだろう。もしくは時間魔術の希少さからか? まあそこらへんはどうでいいが。


 俺はどうもすいませんと頭を下げながら、グラウンドの端っこへとミレニアを連れて行った。

 腰を下ろしてミレニアと目線を合わせると、ミレニアは今にも泣きそうな顔をしていた。


 ……正直な話、ちゃんと本に書かれた通りに行使しろと説教するつもりだった。

 だが、こんな顔を見せられたら、それも吹っ飛んでしまう。


「……ミレニア、怪我は?」

「……無い、無いです」

「ならよかった」


 後でギルドに居る医者に診てもらうとして、とりあえず一安心。暴走しコントロールを失った魔術は、術者本人を傷つけることもあるからな。


 なら、とりあえず真意を聞き出さなければならない。


「ミレニア、お前はどうして本通りの魔力量よりも過剰に入れてしまったんだ?」


 今回の暴走は、明らかにオド側の魔力をマナが過剰摂取してしまったことによるものだ。術式の構築自体は完璧と言ってもいい。そうでなければ、もっと早く暴発していたことだろう。


「料理と同じで、何でもかんでも強火にしろってものじゃないんだ。ちゃんと本の通りにしないと、今みたいな危険が発生する。これからは、魔力量に関しても本の記述通りの量を――――」

「私、ちゃんとした!」


 俺の声を遮るように、大きな声で訴えるミレニア。


「ちゃんと、ディーノさんから貰った本の通りに、魔力量を調節した! ちゃんと、した……したんです!」


 そう言うと、ミレニアは泣き出してしまった。


「そうか。そうだったのか。それは俺が悪かった」


 俺はミレニアを優しく抱きしめると、あやすように頭を撫でる。

 今のは俺が悪かった。俺の意見ばかりを押し通そうとして、こいつの言い分を聞いてやろうとしなかった。


 しかし、それが事実なら、どういうことだ? 魔力量の出し方は、家で練習してきている。あそこまで暴走するほど、魔力操作を失敗するということは考えにくい。


 ふと、体内オド計が、想定よりも早く測定を終えたことを思い出す。

 俺はそれを、オドを注入しすぎたと解釈したが、もしかすると……。


 ミレニアが落ち着いてきたのを見て、俺はすかさず質問をしてみる。


「なあミレニア。お前、家事妖精に対する魔力、既定の量通りに入れているか?」

「……え? いえ、すぐに満たんになるので、大体百文の一ぐらいにしてます」


 規定の量の百分の一の魔力。

 ……色々と過程をすっ飛ばした仮説になるが、今一番考えられるのは一つだ。


「……ミレニア、お前の魔力、どうやらすごい燃費が良いらしいぞ」


 たまにいるんだ。魔力の性質が他の人間とは明確に違うやつが。


「燃費って概念が、あるんですか……!?」

「……ん? あるぞ。魔力の燃費がいいとか、よく言うだろ?」

「そうなんですか……」


 どこに驚いてるんだこいつは。

 だがいつもの調子を取り戻したようだし、ひとまずは良しとするか。


 ――――お母さん、もといおばあちゃん気になるんですけど! もっと、もっと深く切り込んで下さい!


 またレイナの声が聞こえる……疲れてるのか、俺?

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