#20 B級美少女が集う!(中)

 そういうわけで、俺たちは四人揃ってリビングに集まっていた。……昨日もこんな流れだった気がする。ちょっとは展開に捻りがあってもいいのでは?


「なるほど~。B子ちゃんって、小町ちゃんだったんだね」

「……その呼び方を考えたの、吾妻でしょ」

「どうして一発で分かるんだよ……!?」

「安直だし、ダサいから」

「うぐっ」


 そんなにストレートに言わなくてもよくない? 即興で考えた名前なので安直なのはしょうがないと思う。

 こほんと咳払いをして誤魔化し、まずは話を進めてしまうことにする。


「ま、まぁ、とりあえず挨拶を――」

「あ、その流れは面倒だからスキップで」

「吾妻はお口チャ~ック!」

「昨日もやった流れを繰り返すのも面倒だしね」

「お、おう……」


 あっさりと司会の役を奪われてしまった。この三人、俺の扱いが酷くない?

 男子ってのは不思議なもので、女子の比率が多くなるほどに自然と肩身が狭くなっていく生き物らしい。……まぁ、これはこれで嫌なわけじゃないけど。

 そんなことを考えている間に、三人はそれぞれ挨拶を済ませていく。


「二年C組、狛井小町。A組の舞の双子の姉。好きなことは運動で、吾妻とはよく一緒にスポーツをして遊んでる」

「へぇ、運動か~! あっ、あたしはB組の稲荷祈里だよっ! 吾妻とはゲーム友達って感じかな~」

「じゃあ、最後は私かな。……二年E組の鈴木鈴音、です。吾妻くんとは昨日知り合ったばっかりだから、何をしてるってわけじゃないけど……ラノベが好きで意気投合した感じかなぁ」


 ――と三人。

 その様子を眺めていた俺は、とある考えを口にしそうになった。だが、この場で言うのは気まずすぎるので堪える。


「自己紹介してて思ったけど、まるで吾妻の元カノが集まってるみたいじゃない?」

「それ言っちゃうのかよ!?」食い気味でツッコんだ。


 せっかく俺が『三人とも俺の元カノみたいな自己紹介するよな』って言うのを我慢したのに、稲荷がはっきりと言いやがった。


「だって事実じゃん」と小町。

「だとしてもダメだろ!」言ってからハッとする。「いや、そもそも事実でもないからな!」

「つまりあたしたち全員が今カノってこと~?」

「どう解釈したらそうなるんだよ……! というか、ツッコむのも疲れてきたんだが?」

「吾妻くん、はしゃぎすぎだよ」

「俺が注意されんの!?」うんうん、と頷く鈴木。


 そして三人は、ぷっと可笑しそうに噴き出した。

 くつくつ、けらけらと弾けるみたいに笑っている。ちょっとこの子たち、すぐに打ち解けすぎじゃないですかね? 俺の立つ瀬がないんですけど……。

 俺も釣られて笑っていると、稲荷がしみじみと言った。


「でもあれだよね~」小町と鈴木を見ながら続ける。「B級美少女が三人も集まるのって、結構レアじゃない!? 鈴音ちゃんも小町ちゃんも、知ってるけどあんまり話したことなかったもん」

「ま、ね。私は基本、あんまり人と関わらないし」

「そうだよねっ? 舞ちゃんとは話したことあるんだけど……」

「舞は昔から燃費がすごい生き方してるからね。その分、私が省エネしてるの」

「省エネってほどエネルギーを省いてはないと思うけどな」


 むしろ目標を持たずひたすらその日やりたいスポーツをして体力を消費している分、小町の方がエネルギーを無駄遣いしている節すらある。

 俺が茶々を入れると、「うっさい」と小町が唇を尖らせた。可愛いなぁ、おい。


「私の場合は、シンプルに目立たないからなぁ」

「そんなことは……」否定しかける稲荷。だが、小町が来る前のやり取りを思い出したのだろう。苦笑しながら頷いた。「あるよねぇ~」

「確かに。正直、こうして話してても見失いそうになる」

「そこまでじゃないと思うよ!? ……ち、違うよね?」

「ん、冗談」

「よ、よかった……って、あれ? 普通に酷いこと言われてない?」

「気のせい――」

「こら、小町。鈴木で遊ぼうとするんじゃない」


 真顔で鈴木を騙そうとする小町に、俺は的確にチョップを入れた。

 見てる分には楽しいけど、流石に鈴木が不憫だったからな……。

 何はともあれ、この三人が集まるのがレアなのは事実だ。


「せっかくB級美少女が三人も集まったんだし、何かやろうよ!」

「何か、って?」

「B級美少女にしかできないようなことだよ!」

「みんなでB級グルメを食べるとかかな」

「あ、じゃあB級映画でも見るか?」

「……その二つを先に取られたら、もう何も思いつかないんだけど」

「大喜利じゃないよっ!?」

「「違うの?」」「違うのか」

「このメンツって、事あるごとにふざけ倒しちゃわない!?」

「それはそう」


 ツッコミ役に回ると気付くよな。稲荷や小町と二人でいるときでさえ、くだらないことでだらだらと駄弁っていたりした。そこに聞き上手の鈴木も加わっているのだから、おふざけが止まらないに決まっている。


「じゃあ、名前をつけてみるのはどうだ? 『勝利の女神』とか『鉄の王女様』みたいなやつ。B子じゃ不満みたいだしな」

「……いいかも。稲荷さんのネーミングセンス、気に入ってるんだよね。B級美少女とか、『ちょうどいい同盟』とか」

「そ、そうなんだ? 照れちゃうなぁ~。よしっ、お近づきの印にいい感じの名前をつけてあげるっ!」えっへんと胸を張る稲荷。

「私もお願いしていいかな……? せっかくだから」

「もちろん――って言いたいけど、あたしだけが決めちゃうのも違う気がする! みんなで決め合おうよ」


 稲荷の提案に否やの声は上がらない。確かにそっちのほうが面白そうだ。

 話し合いの結果――稲荷は小町に、小町は鈴木に、鈴木は何故か俺に、そして俺は稲荷に名前をつけることになった。


「小町ちゃんはね――『不健全アスリート』でどう!?」

「……私って不健全?」

「えっ、だって吾妻とエッチしてるし……あと、口元のほくろが色っぽいなぁ~って」

「……そう?」小町の視線がこちらに向く。

「ま、まあ。エロいとは思う」隠してもしょうがないので白状した。

「「吾妻のエッチ」」

「小町はともかく、稲荷に言われるのは納得できない!」


 俺の反論も虚しく、鈴木の「エッチだね」という一言でトドメを刺された。

 シてない女子に言われるのは素で凹むぞ……。

 ってか、小町の艶ぼくろは満場一致でエロいだろうが!


「ま、いいや。『不健全アスリート』ね。『勝利の女神』よりはずっといい」

「これから小町ちゃんのことをもっと知れたら、また別の名前を考えるね!」

「ん、よろしく」小町が小さく笑った。


 俺を犠牲にしたことで話が綺麗にまとまったようだ。続いて、小町が鈴木に名前をつける番になる。

 小町は鈴木をじっと見つめてから口を開いた。


「『モブデレラ』」

「ぶふぅぅぅっ!?」噴いた。

「……」鈴木がジト目を向けてくる。「吾妻くん、笑い過ぎじゃないかな」

「わ、悪い悪い。でも『モブデレラ』はズルいだろ!」


 笑っちゃいけないと思えば思うほど、笑いが奥底からこみ上げてくる。

 『モブデレラ』――言うまでもなくモブとシンデレラを掛けた名前だろう。『奴隷おそろっち』などというセンスの欠片もない言葉を考えた奴から捻り出されたとは思えないくらい、いい感じだった。


「……まぁ、私も気に入ったんだけどね。ありがとう、小町さん」

「う、うん……気に入るんだ……」戸惑いながら呟く小町。「鈴木さんがいいならそれでいいけど。普通に見えて、意外と変?」

「そんなことはないと思うよ?」小町は腑に落ちない顔をする。「ま、いいや。よろしくね」

「うん、よろしく」


 このペアはこのペアで、面白い感じになってるなぁ。

 ちなみに俺から言わせてもらえば、どっちもだいぶ変だと思う。少なくとも普通ではない。


「次は私だよね」と鈴木が俺を見る。


 そうだった。俺も何故か名前をつけられることになったのだ。B級美少女じゃないのに。

「おう」と言って鈴木の案を待つ。

 すると――


「うーん、『巨人』かな」

「ただの身長いじりかよ!?」

「確かに。吾妻って結構大きいよね~」

「いいじゃん、的確に特徴を表してるし」

「だとしてももうちょっとなんかあるだろ……? 『チビ』とか『のっぽ』と同じレベルじゃん、『巨人』って」


 別に名前をつけてほしかったわけじゃないが、いざつけてもらうとなると、やっぱりちゃんとしたやつがいい。

 俺が不満を漏らすと、「じゃあ」と鈴木が次なる案を口にした。


「『ちょうどいい巨人』にしようかな」

「うん、もうそれでいいや……」


 鈴木がほとんど頭を使わずに言ってる気がするけど、きっと気のせいだろう。短い付き合いなりに考えて答えを出してくれたはずだ。

 『ちょうどいい巨人』である自分を受け入れ、俺は残された稲荷のほうを向く。

 考える時間は要らなかった。実はとびきりの名案が浮かんでいたのだ。


「――『学園のバラドル』で」

「どういう意味だぁ!?」

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