#19 B級美少女が集う!(前)
前回のあらすじ。
普通の美少女、鈴木を家に連れ込んだらB級美少女こと稲荷とばったり会っちゃって修羅場(?)が勃発!
しかし、俺の巧みな説得によって血みどろな展開を回避し、鈴木と『ちょうどいい同盟』を組むことになったのだった!
……じゃねぇよ!?
我ながら結構アレなことしてない? 一晩経って冷静に考えたら、ヤバい気がしてきた。ラノベ仲間を見つけた喜びと一日の不運が報われたことへの高揚でテンションがおかしなことになっていたっぽい。
しかし、後悔は先に立たないし役にも立たない。
そんなこんなで――
「こ、これから吾妻の初エッチの相手がくるんだよね?」
――早くも今日、三人が集まることになった。
鈴木は軽く生徒会の仕事を片付けてから、小町は買い出しをしてからやってくるらしいので、今は稲荷と二人きり。流石に緊張しているようで、さっきからさわさわと前髪を弄っている。
……いや、それは好きな相手とのデート前とかにやるべきじゃない?
「緊張しすぎだろ……。あと、その『初エッチの相手』って言い方はやめようぜ。まるで俺が色んな女子とそういうことしてるみたいだろ」
「え、違うの?」真顔で稲荷が言う。「鈴音ちゃんを家に連れ込んじゃうし、あたしともエッチしてるしさ~。実は言ってないだけで他にもいるんじゃない?」
「それは……」言葉に詰まった。
他にエッチをした相手がいるわけじゃない。でも、たとえば文ちゃんは幼馴染だし、狛井や西園寺にもよく話しかけられてはいる。
隠してはいない。ただ、話す必要を感じていないだけ。だって自分からペラペラと『あの子と仲がよくて~』なんて話すのは痛いだろ?
「なーんてねっ! 吾妻がモテモテだとは思ってないから安心して!」
「おいこらどういう意味だ!?」
「そのまんまの意味だけど~? 吾妻はスルメ系男子だもん」
「……おいこらどういう意味だ?」同じ質問をトーンを変えて繰り返す。
「さあ、どーゆう意味でしょう?」稲荷は悪戯っぽく笑った。
くっそぅ、さてはからかわれてるな……?
俺が悔しがっている姿を見て満足そうに稲荷は頷く。そして、付け加えるようにぼそっと呟いた。
「まぁ、ちょうどいいってことだよ。B級って感じで」
「確かに、B級にはB級がお似合いだな」
「…………」
「…………」
俺たちは顔を見合わせて、言った。
「「誰がB級だ!?」」
ぷっ、と吹き出す。いや否定したいわけじゃないんだぞ? 実際、俺がB級だとはちゃんと自覚している。
でも人に言われるのと自分で思うのとは違うわけで。
「あたしはモテるもん! 告白されるもん!」
「なっ……お、俺だって告白されたことはある!」
「うっ、嘘!? 誰に告白されたの……!?」
「それは……」また言葉に詰まる。勢いで言ったはいいが、幼稚園時代のふーちゃんからの告白をカウントするわけにはいかない。「男の秘密だな」
「ふぅ~ん? 今の間、怪しい……。本当は告白なんかされたことないんじゃない?」
稲荷がじとーと疑いの眼差しをこちらに向ける。
嘘だったと言うのは悔しい。でも、架空の告白をでっちあげるのも虚しい。俺はジレンマに囚われていた。
……どう考えても『告白されたことはない』と白状するのが正解な気がしてきた。幼稚園の頃の告白を計算に入れていることが一番虚しい。
「何の話をしてるの……?」
「吾妻が本当は告白されたことないくせに、あるって嘘ついてるんだよ――って、鈴音ちゃん来てたの!?」
「は? 鈴木は遅れてくるって――え、いる?」
気付けば、鈴木がそこにいる。
あまりにも自然に、違和感も存在感もなくそこにいたから気付かなかった。ぱちぱち瞬きをする俺や稲荷を見て、鈴木が苦笑を浮かべる。
「え、ちょっと待って? 鈴音ちゃん、いつから入ってきてた!?」
「祈里ちゃんが吾妻くんをスルメ系男子って言い出した辺りかなぁ。上手い言い方するなぁって思ってたよ」
「そんなこと思ってる前に声をかけてよ!? 鈴音ちゃんを無視して話し続けてるめちゃくちゃ感じ悪い二人になっちゃってるじゃん!」
「そんなことないよ。影が薄くて気付かれないのには慣れてるから」
「あー」俺は思わず納得の声を漏らしてしまう。「確かに分かる気がする」
西園寺が俺と話をしているときも、基本は喋らず隣に控えているだけだった。
「鈴木は酸素みたいなんだよな。……って、昨日仲良くなったばっかりの俺が言ってもしょうがないだろうけど」
「「…………」」鈴木と、あと何故か稲荷も俺を見つめてくる。
「今のはなしで。我ながらたとえ話が痛かったわ」
降参だと伝えるように、俺は両手を挙げて見せる。
しかし鈴木は小さく微笑むと、ふるふる首を横に振った。
「やだよ。その言葉は受け付けません。同盟でいる限り、覚えておくね」
「えぇ……」俺は苦笑する。
「吾妻くんは私を酸素だと思いながら仲良くしてくれるってことでいいんだよね?」
「酸素だと思いながら仲良くするってなに!?」
「吾妻、やらし~」
「今の会話のどこにやらしい要素があった!? てか、あったとしても原因は鈴木だろ!」
言ってから、ぷくっ、と三人で噴き出した。
ひとしきり笑ってから、「そろそろかな」と鈴木が言う。
「吾妻の初エッチの相手?」
「うん、私に下着を貸してくれた子」
「アレな呼び方は更に追加されてるんだよなぁ……」
俺の初エッチの相手であり、鈴木に下着を貸してもいる。
……うーむ、これだけ聞くと小町がだいぶエキセントリックな存在に思えてきたぞ。
「じゃあ、その子のことは呼べばいいの? 吾妻くんが考えてほしいな」
「そーだよ。吾妻が会ってからのお楽しみとか言って、名前を教えてくれなかったんじゃん」
「すぐに名前も分かるんだし、よくないか?」
「よくないよ」「よくない!」二人の声が重なる。
「そうですか……」
ここは多数派の意見を尊重するしかない。いつまでもアレな呼び方をされるとまた拗れそうだからな。……その拗れっぷりがツボってた昨日って、だいぶ頭おかしかったのでは?
「なら本人が来るまではB子とでも呼んでやってくれ」
「B子」稲荷が怪訝な顔をする。「ダサっ」
「別にいいだろ仮なんだから!」
「吾妻はやっとの思いで捕まえたボクモンに仮だからってセンスのセの字の破片すらないようなニックネームをつけるの? つけないでしょ!」
「それ以前にネーミングセンスへの罵倒が酷すぎる!」
センスの欠片よりも更にミクロなレベルのものさえ存在しないとか、どんだけダサいんだよB子……。
「B子のBって、なんのBなの?」鈴木が素朴に訊いてくる。
「B級のBだな」
「……B級?」
「B級美少女。B級グルメみたいなもんだな。ちなみにこの呼び方を考えたのは、俺じゃなくて稲荷だ」
「……なるほど」
「その『あ、納得した』って感じの声はなに!?」
「えっ」鈴木は口元を抑える。「ご、ごめん。祈里ちゃんみたいな子をB級美少女って呼ぶのが、すごくしっくりきたから」
「B級美少女がしっくりくる女だって言われてる……!?」
「まんまそう言ってるな。どんまい」
「うがぁぁ~!」
やけくそになった稲荷が吠える。俺と鈴木はつい噴き出す。
悔しそうに「むぐぐ……」と唸った稲荷は、びしっと鈴木を指さした。
「鈴音ちゃんもB級美少女じゃん! だよね、吾妻っ?」
「それはそう。稲荷とは違うベクトルでB級だよな」
「……少し自分でも思ってはいたけど、二人に言われるとちょっぴり不服だなぁ」
「でしょ!?」「だろ!?」
揃いも揃って、俺たちはB級だった。
「まぁ私がB級美少女かどうかはさておくとして……そのB子ちゃんも、B級美少女ってことでいいのかな?」
「そうなるな。たぶん二人も納得すると思うぞ」
「あたしたちも納得する? 誰だろ……?」
そんなやり取りをしていると、ちょうど部屋の呼び鈴が鳴った。十中八九、小町だろう。
俺が出迎えようと席を立てば、稲荷と鈴木もついてくる。すぐにでも相手の顔を見たいらしい。焦らすことでもないと思うので、一緒にいくことにした。
そして――
「あ~!」「なるほど」
「……え、その反応なに?」
B級美少女三人が玄関先で邂逅したのだった。
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