第15話 無の底


──な、何なんだよ!


「何だ! お前ら!」


 

 俺はかなり混乱しているが、無理に強がって叫んだ。


 どこから来た? いつ来た? 何者だよこいつら…… 本当に何なんだよ!


 

 振り向いた俺の前にいるもの。


 十数人の人間が、横に並んで俺を見ている。まるで、俺を取り囲むように。無表情でただじっと、俺を見ている……



 もう一度、振り向いて裂け目をを覗く。やはりあの化け物がいる。錯覚などではない。そして、こいつら。


「な、なん…… おい! てめぇら…… え…………」


 相手は無反応で、こちらをじっと見ているだけ。




──え? 嘘だ…… まさか、こいつら…………



 違和感を感じた……


 その違和感の正体。並んでいるのは、若い者も年寄りもいる。男も女もいる。ただ、服装や髪型が奇妙だ。


 現代のその辺でよく見るファッションから、スーツ姿、昭和の写真やテレビで見たことがあるような服装や髪型。もっと古そうな年代の姿、さらに

着物を着ている者までいる。


 時代がバラバラだ…… 



 違和感と同時に感じた事。


──幽霊…… なのか。

  本当に〝出る〟のか……

  本当に〝出た〟のか……



「ば、馬鹿な! 何だよ! 何のようだ!」


 俺は恐怖でその場から動けずにいたが、怯えて震えながらも虚勢を張り怒鳴った。


 怒鳴ったところで、反応はない。相変わらずただじっと見ているだけ。ただただ〝無〟だ。




──……? 


 ふと気付くと奴らの周囲に、チリチリと灰のような物が舞っている。黒く小さな霧のような何かが奴らを覆っている。それはまるで、テレビのノイスみたいだと思った。


 俺は目がおかしくなったと思い、まばたきをして目をこすって、もう一度しっかり目をつむってから、また奴らを見た。




──ひっ!


 奴らの姿は、みるみるうちに変貌していった!


 服がボロボロの者。全身が傷だらけ、血塗ちまみれの者。刃物のような切り傷や、火傷の跡。髪の毛が抜け落ちたり、身体の一部がない者。それぞれが無惨で痛々しい姿をしている。


 全ての者に共通して言えることは、肌の色は黄みがかった青白さ。頬や露出した腕や太腿には、不気味な青い血管が、蜘蛛の巣のように透けて見える。


 腕は人形のように、ただ身体にぶら下がっているだけ。だらしなく開いた口は、あの空洞のようだ。



 こちらを見つめている眼は……


──黒い

 

 黒い………… いや暗い。闇そのものみたいな暗い眼。それは墨の黒さとも違う、光が一切とどかない暗い暗い黒の闇。目が空洞という訳では無い。眼球の代わりにあるのは、闇のかたまり……




──〝そこ




 俺はそう感じ、思わず後退ってしまった……



「あっ!!」



─しまった!!


「うわぁー!!!!」



 



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