第14話 想定外


──はぁ…… はぁ……


「まったく! 何だってんだよ!」


 

 バッグを空洞に隠してから、一月半ほど経っていた。俺は山を登り、藪をかき分けて、あの裂け目を目指している。


「くそっ! 想定外だ!」


──頼むぞ! 無事であってくれよ!


 

 こんなに早く、戻る羽目になるとは…… 


──はぁ…… はぁ……




「おいおい………… まじかよ!」


 裂け目を見て、俺は愕然とした……





“ ◯日、午後◯時◯分ごろ、◯◯県で震度5弱を観測する地震がありました。この地震による津波の心配はありません。付近で土砂災害の恐れ…… ”


 二日前のニュースだ。俺はこれを聞いて、ちょっとの間だが思考が停止した。


──まさか、あの裂け目……


「最悪だ!」俺は取り乱した。

 




 そして今日、俺は再びこの山に来た。俺の前に現れた裂け目は……




 裂け目の向こう側の、断崖の島は無事に残っていた。崩れてなかった。崩れてはない……


 あの形のまま残っている…… 残ってはいるが、裂け目が大きく開いている! 前回みたいに、簡単に飛び移れる距離ではない。


 四、五メートルはあるだろうか。裂け目は豪快に口を広げていた。



「畜生! まじかよ!」


 俺は力が抜け、その場に座り込んで、裂け目を見詰めていた。



 しかし、あの空洞は無事で、奥にバッグも見える。


 そして、ロープも括り付けたままになっている。


 ただ、そのロープは裂け目が開いたせいで、たわんだ箇所は無くなり、木と木の間にピンと張られている。


 

 まるで、断崖に張られた〝綱渡り〟のロープみたいに……


 

──ん?


 無造作に脱ぎ捨てられた、スーツの上着が落ちている。側には革靴と靴下も。これも無造作に…… 


──新しそうだな。最期くらい揃えて逝けよ……



 しばらく、放心してロープを眺めていたが、俺は気持ちを切り替える事にした。

 道具があれば、なんとかなると考えた。ひとまず、バッグが無事であっただけで、良しとしよう。



 なんとなく裂け目が気になり、うつ伏せに寝そべって、首を伸ばして下を覗いた。


 


「うっ! うわー!!」


 俺は大声で悲鳴をあげた!!


 


 断崖の底の方から、無数の化け物が這い上がろうとしている!

 半分透けたような青白さで、声は聴こえないが大きく口を開けてうごめき、溶けかけたろうのような状態の者もいる。


 かろうじて、もともと人間だったと思われるその姿は、おぞましく、気持ちが悪い!

 

 

 俺は立ち上がり、振り向いた!


「わっ!!」

 また、声をあげてしまった。




──こ、今度は、なんだよ!


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