第13話 ブランコ


──いい場所を見つけたが、これは危険か?


 金を隠すには、うってつけの空洞。しかし断崖の壁、空洞は地面から二メートル程、下にある。この裂け目に落ちたら、まず命は無いだろう。


 辺りを見回す。




──ロープ……

 

 ロープがある。いいのがあった。俺はついている。



 さっそく木に近付き、改めてロープを凝視する。


──ふん、気味悪いな!


 これで人間が首を吊ったと思うと、さすがに気味が悪い。しかも、おそらくだがその人間の骨まである。


 よく見ると、骨にこびり付いているボロボロの繊維は、ワンピースのような形に、色褪せた水玉の模様がうっすら残っている。


──女か……

 


 俺は呪いや祟、迷信とか幽霊なんて信じない。そんなもの馬鹿げている。だからこのロープを使う事も、全く気にならない。



 

 手際よくロープを木から外す。地面に叩き付けてみたり、引っ張ったりしてみる。


 古そうではあるが、しっかりしていて丈夫そうだった。



「ちょっと借りるから」


 俺はロープを持って、また助走をつけて裂け目を飛び越えた。


 適当な木を選び、括り付ける。ピンと張らずにロープをたわませて括り付けた。強く引っ張って、しっかり括られているか確認する。


「よし!」


 そしてたわんだ部分を、裂け目に垂らす。ロープは裂け目に、ブランコのような形を作った。ブランコの高さも、空洞に対して丁度いい高さだ。



 面白いように上手くいっている。



「ふっ! なんてこった」


 思わず笑ってしまった。


 ブランコの一部に、偶然にもあの〝輪っか〟がある。あの首吊り用の輪っかが……


 それが、うまい具合に足場になっている。


 俺はあの女? の骨を見て、


「ナイス!」ニヤけてそう言った。




 改めて裂け目を覗くと、底が見えない。間違いなく落ちたら死ぬ。そう思ったが、なぜか気持ちは高揚していた。



 現金の入ったバッグを肩にかけ、ロープをしっかり掴み、慎重に足を降ろす。輪っかに左足を突っ込む。


 ググッと、ロープが軋む。体が沈み、輪っかが左足を締め付ける。



──ふぅ…………



 予想以上に沈んだので、少し焦った。



 空洞を見る。ブランコとの高さは、正にベストだ。空洞はすっぽりと開いた口みたいだ。大きな石などが、抜け落ちた穴だろう。


 バッグを空洞にそっと置く。足で奥まで押し込む。そして安定している事を確認した。


「はは! よしよし!」




 全身に力を込め、ロープを掴んで這い上がる。




「ははは! ざまあ見ろ!」


 自分をおとしいれようとした奴らの、間抜けな顔が目に浮かぶ。




「また来るから待ってろよ」


 裂け目に向かって、そう呟いた。




──ロープの女も、助かったよ……


 最後に白骨を見て、その場を跡にした。





『待ってるから…………』



 



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