第12話 空洞
──死ぬのが怖い…………
僕は思った……
【一ヶ月前】
「ここか……」
噂に聞く通りだった。山頂付近のこの場所には、物凄い裂け目がある。
「これは凄いな」
ここは自殺の名所、そして心霊スポットとして有名な山奥の行き止まり。
この先は断崖絶壁になっている筈だが、その手前に裂け目がある。
昔からここの断崖や裂け目に、身を投げる人が多くいると聞く。もっと昔には、処刑場として裂け目を使っていたらしいが、本当の事は知らない。
そのせいでここは、マニアの間では〝出る〟場所、心霊スポットとして有名になっている。
残念だが、俺はそんなのは信じないタイプだ。
──それにしても、わざわざこんな所まで来て……
そこまで高くはないとはいえ、山の山頂。それなりに体力を使う。しかもこの場所は、藪をかき分けて進まないと辿り着かない。
大変な思いをして、わざわざ死にに来るなんて。飛び降りるなら他にもあるだろうに。
「さてと」
俺は準備に取り掛かる。
ここに来た理由、この汚い金を隠すため。奴らから奪った約二千万の汚い金。
俺を騙そうとした奴ら。馬鹿なあいつらは、俺が裏切りに気づいた事も、逆に俺が裏切った事も知らないだろう。
この金が盗まれたとわかった時、怒り狂った奴らの間抜けた顔といったら……
──滑稽過ぎる
隠し場所に選んだのは、ここに来るものは、死にに来るか、心霊目当てのマニア位だろう。近くに金が埋まってても、探す奴もいないだろう。単純にそう思ったから。
俺は裂け目の向こう側に飛び移った。裂け目の幅は二メートルぐらいか。少しびびったが、助走をつけて飛んだ。
断崖に囲まれたこの場所は、木が一本立っているだけで何も無い。
──何も無い………… いや……
あった…… 木からロープがぶら下がっている。輪っかの付いたロープが。さらに……
──おいおい
そのロープの真下に、たぶん服だったものだろう、ボロボロに朽ちた繊維がこびり付いた骨がある。人骨が。
よくわからないが、かなり古そうだ。わざわざ、ここまで来て首を吊ったのか?
何があったか知らないが、俺は自殺なんて考えたことも無い。何があっても何とかなる。適当に生きてきた。
──今回も上手くいく。絶対に! この金は俺のものだ!
──あれ?
裂け目から見える断崖の壁に、窪みがある。地面から裂け目の幅と同じ位、約二メートル下の断崖の壁に、直径五十センチメートル程の、動物の巣のような空洞がある。
穴でも掘って埋めて隠そうと思っていたが、
──いい場所があるじゃないの
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