第12話 空洞


──死ぬのが怖い…………

 僕は思った……






 【一ヶ月前】



「ここか……」


 噂に聞く通りだった。山頂付近のこの場所には、物凄い裂け目がある。


「これは凄いな」



 田辺たなべ 洋輔ようすけ 三十二歳


 ここは自殺の名所、そして心霊スポットとして有名な山奥の行き止まり。

この先は断崖絶壁になっている筈だが、その手前に裂け目がある。


 昔からここの断崖や裂け目に、身を投げる人が多くいると聞く。もっと昔には、処刑場として裂け目を使っていたらしいが、本当の事は知らない。


 そのせいでここは、マニアの間では〝出る〟場所、心霊スポットとして有名になっている。


 残念だが、俺はそんなのは信じないタイプだ。



──それにしても、わざわざこんな所まで来て……


 

 そこまで高くはないとはいえ、山の山頂。それなりに体力を使う。しかもこの場所は、藪をかき分けて進まないと辿り着かない。


 大変な思いをして、わざわざ死にに来るなんて。飛び降りるなら他にもあるだろうに。




「さてと」


 俺は準備に取り掛かる。



 ここに来た理由、この汚い金を隠すため。奴らから奪った約二千万の汚い金。

 俺を騙そうとした奴ら。馬鹿なあいつらは、俺が裏切りに気づいた事も、逆に俺が裏切った事も知らないだろう。


 この金が盗まれたとわかった時、怒り狂った奴らの間抜けた顔といったら…… 


──滑稽過ぎる



 隠し場所に選んだのは、ここに来るものは、死にに来るか、心霊目当てのマニア位だろう。近くに金が埋まってても、探す奴もいないだろう。単純にそう思ったから。




 俺は裂け目の向こう側に飛び移った。裂け目の幅は二メートルぐらいか。少しびびったが、助走をつけて飛んだ。


 断崖に囲まれたこの場所は、木が一本立っているだけで何も無い。



──何も無い………… いや……



 あった…… 木からロープがぶら下がっている。輪っかの付いたロープが。さらに……


──おいおい


 そのロープの真下に、たぶん服だったものだろう、ボロボロに朽ちた繊維がこびり付いた骨がある。人骨が。



 よくわからないが、かなり古そうだ。わざわざ、ここまで来て首を吊ったのか? 


 何があったか知らないが、俺は自殺なんて考えたことも無い。何があっても何とかなる。適当に生きてきた。


──今回も上手くいく。絶対に! この金は俺のものだ!

 



──あれ?


 裂け目から見える断崖の壁に、窪みがある。地面から裂け目の幅と同じ位、約二メートル下の断崖の壁に、直径五十センチメートル程の、動物の巣のような空洞がある。



 穴でも掘って埋めて隠そうと思っていたが、


──いい場所があるじゃないの




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