第10話 終わらない静寂


夜が更ける……


 不気味な静けさ。月明かりに浮かびあがる、邪悪な者達……


 虫の声、動物の鳴き声なども聴こえない。この山の全ての生物、木や草までも息を潜めているような静寂。



 相変わらず表情は無く、身動きひとつしない。ただじっと、私を見ている……


 

 私も身動き出来ず、目を逸らすことも出来ない。身体も心も疲れ切っているのに、横になる事も出来ない……

 動いてしまったら、何かされそうで怖い……



──怖い……



 後悔している。ここに来た事を。自ら死を選んだ事を…… 



 周りが少しずつ明るくなる。日が昇る。夜が明ける。朝になる。


 

 太陽が照らし出す新しい一日。これで、亡者達も消えていくのか…… 長い長い悪夢のような時間から、私は開放されるのか……


 


 

 まだいる…… 明けない恐怖。終わらない静寂。


 朝になってもあの者達は、変わらずそこにいる。


 望んでは無かったが、周囲が明るくなったせいで、姿がはっきりと見えてしまう。

 顔色は血の気の無い薄い黄色。両腕は、ただぶら下がっているだけのようにダランと垂れている。

 よく見ると着ている服、着物の様子から、年代もさまざまなようだ。


 何より、あの邪悪な眼……


 あの眼を見ていると、真っ黒な闇の底、地獄よりも恐ろしい闇の底に引きずり込まれてしまうような気がしてくる。



 疲れた…… 何も考えられない…… 考えたくない…… 




──耐えられない…… 

  

  もう死にたい……



 まるで抜け殻になった私は、そう思ってロープを掴む。そして適当な長さの所で輪っかを作った。それを投げて、丈夫そうな木の枝に引っ掛けた。


 木によじ登り、ロープの輪っかに首を通した……



 そこからは、あまり覚えていないが、私が最期に見たものは……


 さっきまで恐ろしい程に無表情だった者達、今は満面の笑みを浮かべている。引きつったような顔の者、目を見開き口の端を吊り上げている者、それぞれに満面の笑みを。嬉しそうに。


 

  


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