第8話 ロープ
──噂通りだ……
私はそう感じた。
ここは人里離れた山の奥。地元では自死する人が多い事で有名な場所。
実際に目の当たりにして見ると、とても神秘的だ。
この山自体は、そこまで高い山ではないのだが、藪をかき分けて、やっと辿り着いたこの場所。山頂付近の少しひらけた場所。
突然、地面に亀裂が現れる。それは、とても深く底が見えない。暗く深い裂け目。
行き止まりの断崖絶壁。その手前に現れる裂け目。それは、六畳程のスペースを残して、地面を分断している。
まるで、この世とあの世を分断する境い目みたいだと思った。大勢の人が死んだ場所ではあるが、絶景だとも思った。
よくこの状態を保っているなと、見れば見るほど不思議に思える。今にも崩れ落ちそうだが、遠い昔からこの状態を保っているらしい。
裂け目の幅は、大股で2歩分程度か?
──頑張れば、跳べるな
私は助走をつけ、裂け目を飛び越えた。そして分断された土地に降り立った。
別にこっちに来ても、何かある訳でもない。裂け目のこちら側と向こう側、ただそれだけの事だ。あとは木が一本、生えているだけ。
なぜ私が、ここに来たのか……
もちろん死ぬつもりで来た。ここを選んだのは、まぁ有名な場所だったし、一度この噂に聞く、裂け目というやつを見てみたかった。そんなところだ。
いろいろあったが…… もうどうでもいい。どうせ死ぬんだから……
小さな島みたいになっているこの場所。それを囲む断崖。下から冷たい風を感じて、首を伸ばして覗いてみる。
──…………
声を出してはいけない気がしたので、押し殺した。
見てしまった……
私は無言で、六畳分程の島をゆっくりと一周しながら、確認するように裂け目と断崖を覗く。
──…………
島を囲む断崖を、数え切れない程の亡霊が、よじ登ろうとしている。
亡霊なのかどうかは、わからないが人のような形はしている。それが、びっしりと断崖に……
身体の色は変色し、手や足が無い者、頭や顔の一部が欠損している者、中には溶け崩れて原形を留めて無い者達。それぞれが何かを訴えるように、大きく口を開いてうごめいている。
さすがにこれは怖すぎる……
まさに地獄絵図。そんな言葉がぴったりだ。
そういえば、ここは大昔に処刑場として利用されていたらしい。今見えているものが錯覚で無ければ、きっとその頃に亡くなった人達の、変わり果てた姿なのだろう。
私は恐怖と気持ち悪さで、その場で嘔吐した。
フラフラと後退っていると、
「っ! 痛っ!」
私は何かを踏んで転倒した。
──ロープ?
草に隠れて見えづらかったが、太いロープが地面を這っている。
このロープを踏んで倒れたようだ。
ロープを見ると片方の端は、島の木に括り付けられ、もう一方は裂け目に垂れ下がっている。
──なにこれ……
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