第6話 驚愕の光景


 さっきまで恐ろしい程に無表情だった者達、今は満面の笑みを浮かべている。引きつったような顔の者、目を見開き口の端を吊り上げている者、それぞれに満面の笑みを。嬉しそうに。 

 特に中心に立っている者……

 



 僕は相変わらず、バタバタしながら揺れるロープの上でバランスを取り続けている。どれ程の時間、こうしているのだろうか? 足裏に食い込むロープ。ふくらはぎも、太腿も、お尻もかなり疲れてきている。


 距離的には、ジャンプすれば、余裕で届く距離だが、さすがにこの状態で跳ぶ勇気は無い。全てが台無しになってしまう。


「今更言ってもおそいけどさぁ 後悔するよ…… こっち来たら」


──遅いよ! でもいいんだよ!


「あ、そっか。どうせ死ぬんだからいいのか」


──余計なお世話だよ!



 しかし彼女のおかげ(イライラさせてくれた)? も、あってゴールは目の前だ。



 しばらく忘れていたあの風を感じ、少し冷静さを取り戻した。


 僕は、ゆっくりと長く息を吐いた。


 そして、最後の一歩。


 裸足の足が、土と草の感触を捉える。ずいぶん感覚が麻痺しているが、間違いなく片足が地面に着地した。


 と同時にラグビーの、タックルをするような格好で前のめりに倒れ込み、ゴロンと転がり仰向けになった。

 気付くと全身、汗びっしょりだった。下半身もぶるぶると痙攣している。


 生まれて初めてやった綱渡りを、なぜか成功出来てしまった。

 人生で何かを成功させたことも生まれて初めてかもしれない。


 空を見上げ、しばらく放心していた。


──これで心置き無く死ねる……



「死ぬの?」



 声を掛けられ、彼女を見ずに応えた。


「ええ。これで死ねます」


「そっか…… どのみち、もう帰れないと思うんだけどね」


「え?」彼女を見る。


「ほら、あれ見て」彼女は指をさしている。


 指をさす方向は、今渡ってきた裂け目の向こう側。




 僕は、その光景に驚愕した……


「え…… 何ですか? あれは……」




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