第7話

 わたし、堪えてたんだ。わたしが頑張るしかない、って。それから黒川コンビは少しずつ距離を縮めて行った。少しスーパーより高いけど、毎日何かしか切らす日用品を、わたしは仕事帰りのあのコンビニで調達する事に決めていた。

 ある日、残業なうえあの嫌な上司に叱られた。理不尽な八つ当たり。浮かない気分、黒川サンも居ないだろうし、それでもお腹減ったな。子供たちには作り置きしといたし、おにぎりでもひとつ、と立ち寄ったあのコンビニ。彼が居た。何故だかわたしはその時、彼がずっと待っててくれた様な気がして「ちょっと待ってて!」と急いでコンビニに駆け込みおにぎりひとつ買ってすぐに出てきた。息を切らして。

 「お待たせ」あれ?わたし、何言ってんだろう?


「黒川…、いや、アサミさん。まるで待ち合わせみたいだね」


 タガはこの時外れていた。そんな意地悪言って愉しそうな彼に、なんだか腹が立って、「この時間、珍しいなと思って」とすました。

 「今日バイト休みなんですよ。あ、良かったら飯どうです?おごりますよ、安いのなら」子供たちが、と言いかけてやめた。「うん。二度とないかも知れないし」わたしも意地悪返し。「それ、どういう意味です?」彼はあのひんやりした笑みを浮かべた。そして、「アサミさん、彼氏居るの?」何?いきなり?「あ、居たら良くないかな、と思って」「ご想像にお任せします」煙に巻く自信があった。


この時までは。

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