第4話

 彼はいつもは深夜のアルバイトに来てるそうだ。時々昼間のアルバイトに欠員出た時に来て、顔を合わせるのはその時だけ。おっとりしていて、普段は良く冗談言って笑いながら作業してる印象だった。わたしは気弱な人の良さで失敗した様な元夫を見限れずにいたし、何より余裕がなくて男性に目なんか行かなかったんだけど、今思えば最初から気になっていたのかもしれない。わたしだって歳の割にはかわいくて捨てたもんじゃないと思うけど、彼は何歳なんだろう?そうわたしと変わらない感じはするけど、若く見える。わたしより年下だろうか?

 彼が昼間来るのは火曜日か木曜日だから、その日には彼を探すようになっていた。かといって、お互い顔を見知ってるだけで名前も知らない。だけど現実の色恋に疲れていたわたしにはそれくらいがちょうど良く、心地良かったのかも知れない。

 今では後悔している。彼の、あの歌に気付いてしまった事に。他の誰かより先に、わたしが気付いてしまった事に。


きら きら ひかる よぞらの ほしよ


きら きら ひかる よぞらの ほしよ


きら きら ひかる よぞらの ほしよ


「ママ、何それ?間違ってるよ」

 娘に言われ、我に帰る。ふふん、と笑ったけれど、洗濯物を干すベランダから見上げた夜空に星は無かった。間違っていた。また、間違えたんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る