第8話 レーヴァテインは目覚めることなく③

「炎の剣・レーヴァテインにこんなことするなんて、俺は許せない!」


 きらの声が、バーニングカイザーからあふれ出す。

 その声をも裂くように、テュールソーディアンが左手に構えた剣を真っ直ぐ突き出した。


「単純に弱ぇからな。

 睦だから、っていうのもあるかも知れないけど」


「それでも、レーヴァテインの魂がかわいそうだ!」


神門みかどは、どこまで睦のことを気にすればいいんだか。

 まぁ、バーニングカイザーになった時点で、俺の力を試すいい相手が現れたってことで」



 テュールソーディアンの持つ太い剣が、太陽の光に幾重にも反射する。

 右手でバーニングカイザーに手招くしぐさを見せた。


「必殺技、剣だろ。

 剣で俺を倒してみろよ。

 俺、もと剣道部だからな」


「俺だって……、バーニングソードで多くの敵を倒してきたっ!」


 バーニングカイザーが右手を前に伸ばし、指を軽く丸めた。

 煌の声が、空気を裂く。


「バーニングソード! ブレイズアップ!」


 バーニングカイザーの左腕を覆う、先の尖った四重の装甲、そして金色のつば

 格納された柄とともに、肩から前に押し出される。

 四重の装甲が、燃え上がるように1段1段前に伸び、1本の長い剣が出現。

 カーブを描きながら、柄がバーニングカイザーの右手に吸い込まれ、炎に満ちたその手でがっしりと掴む。


「燃え上がれえええええええ!」


 手に宿った熱で、鍔から上がる激しい炎。

 あっという間に、バーニングソードのブレードを炎で包みこんだ。



「そうこなくっちゃ!」


 バーニングカイザーが剣を手にする間に、後ろにジャンプし、十分に助走をつけるところまで下がったテュールソーディアン。

 太い剣を、右手に持ち変える。

 光り輝く剣先は、バーニングカイザーの胸に向けられたままだ。


「俺を止めてみろ!」


「うおおおおおおお!」


 相手の足が動き出した瞬間、両手で剣を持ったバーニングカイザー。

 剣を包む火力が、一気にパワーアップする。

 迫る相手の剣を止めるように、バーニングソードを縦に構えた。



「ブレイクスラアアアアアアッシュ!」


 テュールソーディアンが振り下ろした太い剣が白く輝き、バーニングソードに激突。


「ぐっ……」


 ぶつかった剣の勢いで、バーニングソードが手前に傾いた。

 だが、ブレードで燃え上がる炎は、衰えるどころかさらに火力を増す。


「この程度で、俺の炎は怯まない!」


 炎が盾のように、テュールソーディアンの勢いを止める。

 押されていたバーニングソードを戻した。


「なかなかやるな!」


 いったん引いて、再びバーニングソードに叩きつける太い剣。

 だが、今度は相手の剣をサイドで止め、炎のパワーで押していく。


「さすがは、灼熱の勇者を名乗るだけある……。

 だが、こっちだってもう1本……」



 大きく後ろにジャンプしたテュールソーディアン。

 一度は強く踏みつけたレーヴァテインの前に立つ。


「まさか……」


 後を追うバーニングカイザーが、校庭に落ちたままのレーヴァテインを見た。

 それから1秒も経たないうちに、テュールソーディアンがレーヴァテイン再び蹴り上げた。

 レーヴァテインが、剣神の左手に収める。



「睦。

 お前の敵は……、あのバーニングカイザーだと言ってたよな!」



「……はい」



 睦の声は、重かった。

 それでも、テュールソーディアンが左手のレーヴァテインに力を入れる。


「こっちの炎の剣を受けてみろ……!」


 再び走り出したテュールソーディアン。

 足裏のブースターで迫るバーニングカイザーに向け、2本の剣を構える。



「ツインブレイカアアアア!」


「振り切れえええええ!」


 テュールソーディアンに向けて剣を振り下ろすバーニングカイザー。

 相手がオリジナルで持つ太い剣にバーニングソードを力強く叩きつけ、ぐいぐいと押す。


 だが、その後ろから別の剣が押さえつけた。


「さぁ、炎を手にした!

 レーヴァテイン、その力を見せろ!」


 左手に力を入れるテュールソーディアン。

 レーヴァテインの赤褐色のブレードが、バーニングソードの炎を受ける。


「レーヴァテインには、ダメージを食らわせるわけにはいかない!」


 押さえつけてきたレーヴァテインを振りほどくことができない、バーニングカイザー。

 レーヴァテインの力が、バーニングソードに食い込み始める。


「俺が落とす剣は、1本だけだ!」


 バーニングカイザーが一旦後ろに下がり、剣を両手で強く構えた。

 炎を剣全体に燃やし、再びテュールソーディアンに向け、ブースターで発進。


「バースト……、ブレイカアアアアアアアアア!」


 力強い叫びとともに、炎が唸りを上げるバーニングソード。

 両手でがっしりと構えたバーニングカイザーが、一気にテュールソーディアンに迫る。

 激しく燃える剣を相手の太い剣に叩きつけ、炎に飲み込んで砕く。


「なんてパワーだ……!」


 テュールソーディアンが、左手に持つレーヴァテインでバーニングソードを押さえつけようとする。

 だが、バーニングカイザーがうまくかわし、テュールソーディアンの硬い鋼鉄を切り刻んだ。

 斬り裂かれた体に火が回り、テュールソーディアンの体が激しい爆音を立てて砕け散る!


 バーニングカイザーが、爆発した相手に剣先を降ろす。

 剣の炎は、まだ燃え上がっていた。


「……あっ!」


 再び持ち主を失ったレーヴァテインが三たび校庭に落ち、白い光に飲み込まれて消えていった。

 同時に煌は、バーニングカイザーの声を感じ取った。



『レーヴァテインには、我が剣をはるかに超える力が眠っている。

 力を解放できれば、文字通り最強の炎の剣となるだろう』


「バーニングカイザーは分かるんだ……。

 全然パワーを出せなかったのに」


 バーニングカイザーの見下ろす先に、人間の姿に戻った睦が応援席で立ったまま動けなかった。

 自らを破ったロボットへ振り向くことなしに。


『我が炎が触れた時、レーヴァテインに鼓動を感じたからな。

 今すぐにでも我が力にしたいものだ』


「そうか……」


 相手を打ち破った剣の炎が、少しずつ消えていく。

 ほとんど炎が上がらなくなったバーニングソードを、勇者は見た。


「バーニングカイザーの力を最も出せる剣は、バーニングソード。

 俺は、使うたびにそれを感じるよ。

 勇ましさに満ちた、とてつもない炎の力を」


『そうか……。

 魂を操る者の感覚は、また違ってくるのかも知れないな』



 バーニングカイザーの体が、白い光に飲み込まれる。

 そこでようやく、睦が振り返ったように見えた。



~~~~~~~~



「萌と睦。

 ちょっと、前に出なさい」


 体育祭が終わったその日の北欧神話部で、部長の聖名せいなが女子2人を呼んだ。

 萌は睦に振り向き、不服そうな表情を浮かべる。

 一方の睦は、うつむきながらも普段通りの歩幅で聖名のもとに向かった。


 物々しい雰囲気で始まった部活。

 その空気を和らげる顧問・大出はこの場にいない。



「残念だけど、あなたたちは北欧神話部の戦力にならない」


「えっ……」


 部室がどよめく。

 2人とも困惑した表情を浮かべた。


「強いアルターソウルがあると言ったのに、期待外れね。

 まず、萌はそもそもミラーストーンが反応しなかった。

 私、この前チャリで通ったとき、慌ててる萌を見たから」


「あれ、見てたの?

 たまたま変身できなかっただけなのに!」


 萌が聖名に食らいつく。

 それから、その時に一緒にいた睦を一目見た。


「ミラーストーンは、スポットに合った魂と太陽の光があれば、どんな状況でも反応する。

 それがなかったということは、萌にはロキの魂などなかったことになるの。

 すぐにでも証明できると思うけど、どう」


 聖名が、白く輝くソウルスポットを指差す。

 萌は、自分のミラーストーンを持ったままスポットの前にしゃがみ、石を置いた。


「ロキの力を……、感じない……」


「でしょ。

 あなた、自分でロキの魂があるって言ったから、この部に入れたの。

 それが出せるまでは、いらないと言われてもおかしくないでしょ」


「私は、ロキなのに……」


 萌を引き留めるような声は、部員たちの間から出てこない。

 輝も、席を立ちかけるが、そこで止まるしかなかった。

 ファンタジーの世界に興味があっただけのオタク女子は、スポットの前でうなだれた。


 それを見届けてから、聖名は睦の前に立った。



「睦。

 あなたこそ、もっとたちが悪いわ。

 何なの、あの名前にして弱い剣って」


「弱い剣……」


 睦から言葉が出てこない。

 聖名が、首を横に振る。


「たしかに、レーヴァテインのアルターソウルを持ってはいた。

 でも、炎すら出せなかった。

 北欧神話の伝説が崩れるわ」



「それは間違ってる!」


 一人の生徒の手が、高く挙がった。

 白い髪を揺らす、4組の陽翔はるとだ。


「何が間違いよ」


「剣は……、正しい持ち主じゃなければ装備できない。

 僕は、そう思ってる。

 僕こそが、レーヴァテインの持ち主なんだ」


「何を言い出すと思ったら。

 私、あなたの本当の魂、大出先生から聞いたけど」


 聖名が、陽翔の前にゆっくりと近づく。

 部室の緊張感が、さらに高まった。


「それでも、僕はスルト!

 ラグナロクを終わらせた神……って、バーニングカイザーが言ってたの、僕は信じてるから」


「仲間じゃない魂の言葉に、何の根拠があるの。

 くだらない」


 聖名が、陽翔に背を向ける。

 同時に睦が下を向き、涙を浮かべた。



「剣のせいだ……!

 こんな魂が宿ってるから強い剣って言われて、期待外れって言われて捨てられる……」



 崩れ落ちて、わんわんと泣き出す睦。

 聖名はその真上から見下ろすことしかしない。


「泣いて済むなら、泣き続けなさい」



 睦の視界は、完全に涙で消えた。

 ぼやけた視界の先には、ただ一人レーヴァテインに変身するのを止めたヒーローが、はっきりと映っていた。



~~~~~~~~



【今週のアルターソウル】


テュールソーディアン

 北欧神話の剣神テュールが巨大化した姿で、宙のアルターソウル。

 どんな剣でも巧みに操り、二刀流はお手の物。

 元剣道部の素早い動きと、太い剣から生まれるパワーで、相手を圧倒する。



【次回予告】


俺様、赤木 隼徒!

レーヴァテインが力にならなくて落ち込む睦。

名前が牧島睦だから、俺様「マキシマム」ってあだ名をつけた。

けど、モエピーや輝が「マキシマム罪」なんて言っちゃってさ。

俺様の一言が、北欧神話部でのいじめを生んでしまうなんてあり得ねぇ。


次回、灼熱の勇者バーニングカイザーMAX。

「強きが弱きをいじめても」

睦、気を落とすなって!

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