第8話 レーヴァテインは目覚めることなく②

てるから言われちゃ、出てこないわけにはいかないな。

 剣の神になれる俺は、どんな剣でも扱える」


 そらの青髪が風に揺れる。

 校庭のトラックでは、3年生のクラス対抗リレーが始まっているが、2年1組の誰も体育祭の本編には目を向けない。

 そこに、きらが一歩前に出た。


「レーヴァテインは……、持つべき人がいるんだ。

 スルトにソウルアップできる、4組にいる……」


 煌は、4組の応援席に目をやる。

 陽翔がそこから動けないものの、物々しい雰囲気になっている1組のほうを気にしているように見えた。


「あの陽翔が、俺が部室に行った時、レーヴァテインで一緒に戦いたいって言ってたんだ。

 相手が違うんだ。

 睦だって、リレーの結果に自分を追い込んでる。

 こんな状況でユナイトできると、俺は思えない」


「こっちだって、そのスポットで生まれた魂だ。

 それに、剣神に操れない剣なんてないって、大出先生に言われたからな」


「いくら同じスポットだからって、お互いの気持ちが一つにならなかったら、ユナイトなんてできない。

 バーニングカイザーで戦う俺が証明する」



 煌は、宙に目を細めた。

 だが、宙は煌から目を反らして、睦の前に立った。


「同じソウルスポットの魂が、ほんの少しでも触れたらユナイトだよな。

 さ、睦。

 ミラーストーンを太陽にかざしな」


「宙!

 俺はやめろって言っ……」


「大丈夫だって!

 レーヴァテインの力を知ったら、ソウルアップを解くから!」


 宙がミラーストーンを高く上げ、睦の手がそれに続いた。



「「アルターソウル、合体ユナイト!」」



 同時に叫んだ、宙と睦。

 二つのミラーストーンが、眩しい光が包まれる。

 それぞれの力を持つ者が、己の別の魂アルターソウルを心に抱いた。



「テュールソーディアン! スタブ・ザ・ソード!」


「レーヴァテイン! ……」



 睦の叫びが、少しだけ短く空を切った。

 「レーヴァテイン」の先が、小声で聞こえない。


「えっ……、ええええっ……」


 違う……。

 なんか、違くね……?



 睦を包み込んだ白い光が、宙から解き放たれた光と交わることなく、太陽の光の中に消えていく。

 そして現れたのは、白い光。


「これ……、ユナイトになってない……」



 白い光の中にうっすら浮かび上がったのは、鋼鉄に包まれた巨大な剣士ロボット。

 マントを翻しながら左手に太い剣を持つ姿は、北欧神話の剣神の雰囲気を解き放つ。

 歴戦を制した、勇気に満ちた神がそこにはいた。


 そして、隣にもう一つ光が浮かび上がる。



「睦……!」



 あれがレーヴァテインかよ……。

 剣の魂を擬人化したんじゃなくて、本当に剣……。

 てか、持つべきアルターソウルがいないってことは……。



「ソウルアップ・コンプリート!」



 それぞれの白い光が上下に弾け、剣を持った1体の剣神と、1本の剣が現れた。

 そして、持つ相手がいないレーヴァテインは、そのまま地上に落下――。


 俺がソウルアップしてたら、間に合わない!


「みんな、この場から離れろ!」



 ちょうど3年生のリレーが終わって、トラックはがらんとした時間だ。

 そこに、1本の剣が着弾しようとしている。

 長さ5mをはるかに超える剣の落下に、全ての生徒が空を見上げ、なるべくトラックから離れた。


 そして、高い金属音と砂嵐が校庭を襲った。



「マジ重そう!」



 煌が口を開いたと同時に、静まり返っていた応援席が、再びざわつき出す。



――レーヴァテインって、擬人化かと思ったよ。


――案外、普通の剣みたい!


――ゲームで手にするレーヴァテインって、実写だとこんな形してたんだ!



 応援席のロープに多くの生徒が駆け寄る。

 ロープから一番近くに立っていた煌は、生徒たちに押されるように最前列でその姿を見た。

 バーニングカイザーと北欧神話の伝説が「最強の炎の剣」と語った、レーヴァテインの姿を。


「これが……、レーヴァテイン……」


 睦の濃い茶髪の色をより濃くしたような、赤褐色の剣身。

 数多くの空洞が、円状の鍔に見え隠れする。

 バーニングソードと比べれば、やや大きく、やや太めの剣と言ったところだろうか。


 だが、地上に落ちて10秒。

 レーヴァテインが炎を見せることはなかった。

 それどころか、落ちたところから1ミリも動かない。


「まさか……、校庭に叩きつけられたから動けない……?」


 煌は、ロープを乗り越えて、落ちたレーヴァテインのもとに向かった。

 だが、トラックを横切ろうとしたところで、テュールソーディアンの影が大きくなり、着地。

 鋼鉄の足が、煌とレーヴァテインを隔てる。



「これが、最強とされる炎の剣か。

 動けないのダサっ!」


 テュールソーディアンが右足を後ろに傾け、レーヴァテインを狙う。

 煌はテュールソーディアンの正面に移り、大きく首を横に振った。


「レーヴァテインを、この状態でどうするつもりだよ!」


「とりあえず、俺の持ち物にしなきゃ剣神の名が泣くだろ?」


 テュールソーディアンの足がレーヴァテインを高く蹴り上げた。

 煌のすぐ上を回転しながら、炎の剣が舞う。

 応援席の前まで下がった煌が振り返ると、テュールソーディアンが体を曲げてレーヴァテインをキャッチ。

 右手で握りしめる。



「は?

 持っても炎が出ないし、力も感じない。

 これでレーヴァテイン?」



 やっぱりか……。

 いや……、宙、これは言いすぎだろ!


 煌が、テュールソーディアンの右手を見ながら震え上がる。

 剣神の右手に収まった炎の剣は、死んだように動かなかった。


「何もできない睦がレーヴァテインとかほざいた時点で、胡散臭うさんくさいと思ったけどさ。

 睦がソウルアップしたからって、ここまで力のない剣とは思わなかった。

 偽物? それとも、伝説が間違って広まった?」


「宙!

 レーヴァテインは、やっぱり持つべき魂が必要なんだよ……!

 破壊の剣って言われるその力を持てるのは、限られてるかも知れない」


 煌が、テュールソーディアンの顔を見上げる。

 だが、煌の声は剣神の意思に響かない。



「こんなものをよこしやがって!

 出来損ないの……、炎の剣!」



 テュールソーディアンが、レーヴァテインを投げ落とした。

 煌の手前に、スピンしながら落ちていく伝説の剣。

 再び、金属音が校庭に散った。


「睦……!」


 再び地上に落とされたレーヴァテインに駆け寄る煌。

 そこに、聞き慣れた声が校庭に響き、煌の足が止まる。



「こんなのが、戸畑さんが言ってたアルターソウルだったなんて……。

 やっぱり、私だから何もできない……。

 もし強い剣だったら、私はこんな扱いじゃなかった……」


「そんなの、間違ってるよ!」


 煌は、首を左右に振る。

 レーヴァテインには、見えているのだろうか。


「睦、俺は分かってるよ。

 少なくとも、こんな状況でソウルアップしたら……、本来の力なんて出せないんだ。

 俺、睦がその気になったらって言ったのに……」


 10mほど離れた、煌と睦。

 お互いの声が響き合う。

 だが、テュールソーディアンの足がレーヴァテインの真上に迫った。


「うっせぇ!」



 砂交じりの校庭と、ロボットを支える鋼鉄の足に板挟みになったレーヴァテイン。

 煌の目から、完全に見えなくなる。


 力を持っていたはずの剣身から、悲しき悲鳴が上がった。



「剣は……、サンドバッグじゃねぇっ!!!!」



 煌はついに、ミラーストーンをポケットから取り出し、テュールソーディアンを睨みつけたまま高くかざした。



「アルターソウル、解放リベレーション!」



 ミラーストーンが眩しい光に包まれ、その光に向かって煌が叫ぶ。



「バーニングカイザー! ゴオオオオオオ・ファイアアアアアアア!!!!」



 ミラーストーンの眩しい光が反射した方向へ、煌の体が吸い込まれた。

 光の中から、バーニングカイザーのシルエットが現れ、煌の目の前に迫る。

 その胸に描かれた炎のエンブレムに、煌の体が正面から衝突。

 同時に、金属のようなものに体が突き上げられた。



「ソウルアップ・コンプリート!」



 熱き心を胸に燃やし 輝く炎のエンブレム

 拳に勇気の火をまとい 燃えるやいばで悪を斬る

 燃え上がるは正義の魂 炎の皇帝、ここに立つ!



「灼熱の勇者、バーニングカイザー!」



 白い光が上下に弾け、バーニングカイザーがテュールソーディアンの前に降り立つ。

 応援席にいた生徒が、さらにロープの前で前のめりになり、クラスによってはロープで支えきれなくなった。



――今年も、体育祭のクライマックスはロボ戦なんでしょうか。

  2年1組の剣神、対、2年1組の皇帝。

  いま、バトルが始まります。

  あ、危険を感じたら、逃げてください。



 2つのロボが向き合うさなか、放送部のアナウンスが響き渡った。

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