第7話 初めての直接対決③

「いよいよ……、直接対決か」


 右手に持った杖の先に、白く輝く巨大な光を灯したグランゼウス。

 半径10mを超える白い光が、バリアのように正面にそびえ立った。


「こっちだって!」


 力強く叫ぶキングバーニングカイザー。

 胸のエンブレムが赤く輝きだす。



「燃え上がれ! 王なる炎鳥キングバーニングバード!」



 胸に刻まれたファルコンから炎が上がり、キングバーニングカイザーから解き放たれた。

 その炎が瞬く間に大きくなり、巨大な鳥の形へと変わる。



「バーニングバード……、ブレイザアアアアアアアアッ!」



「スフィア……、ユーフォリア!」



 キングバーニングカイザーから火の鳥が解き放たれた瞬間、杖に宿っていた白い光を巨大なバリアに変えるグランゼウス。

 バリアが一気に拡張し、襲い掛かる炎を正面から叩きつけた。


「なにっ……!」


 バリアをスピードで突き破ろうとした火の鳥が、内側から解き放たれる光に飲み込まれていく。

 あっという間に、半径100mを超す巨大なバリアが、キングバーニングカイザーの前に立ちふさがった。



「さっすがラスボス!

 ガチ強いって!」


隼徒はやと

 俺たちは、このユナイトを2戦目で消すわけにはいかないんだ!

 ユナイトは、負けたら二度と復活できない!」


 きらの声が機体からこぼれた時、キングバーニングカイザーの右手の指が軽く曲がる。



「キングバーニングソード!」



 キングバーニングカイザーの左腕を覆う、先の尖った四重の装甲が格納された柄とともに押し出される。

 四重の装甲が、燃え上がるように1段1段前に伸び、1本の長い剣が出現。

 刃の全てを輝くオレンジに染め、カーブを描きながら、柄がキングバーニングカイザーの右手に吸い込まれる。


「燃え上がれっ!

 キイイイイング・オブ・ファイヤアアアアアアアアッ!!!!」


 手に宿った熱で激しい炎に包まれる、キングバーニングソード。

 剣が解き放つ勇ましき力は、まさに炎の王者!

 激しく燃える剣を、グランゼウスの正面に向ける。



「こんな程度で、俺たちは怯まねぇ!」


 背中のジェットを燃やし、剣を上に構えたままバリアに迫るキングバーニングカイザー。

 あっという間に、バリアの端を捕らえた。



「うおおおおおおっ!」



 キングバーニングソードの圧倒的火力で、バリアの端を粉砕。

 そのまま剣先を正面に向けたまま、本体へと突き進む。



「そうはさせない!」


 右手の杖を一振りするグランゼウス。

 杖の先からバリアの外に向かって電撃が解き放たれた。


「うおおおおっ!」


 キングバーニングカイザーが、電撃に向かって剣を振り下ろす。

 手ごたえはあった。


 だが……。



「弾き飛ばされるっ!」



 中からの爆風とも言えるような力で、キングバーニングカイザーがバリアの外に弾き出される。

 すぐに体勢を立て直し、炎に染まった翼を軽く羽ばたかせた。


 そこに、低い声が耳を貫く。



『王なる勇者よ……。

 その卓越した二つの力を見せつける準備は整った……』



「パワーと……」


「スピード……」



 2人はその意味を悟った。

 キングバーニングカイザーそのものを高速飛行させることだと。



「キングバーニングカイザー……、ウイングフォーム!」



 キングバーニングカイザーの左右の足が、激しい音を立てて接着。

 手に剣を持ったまま、体の向きを水平に変える。

 肩から突き出した炎の翼が、空中で燃え上がった。

 その姿は、まさに巨大な火の鳥!



「うおおおおおおおおおっ!」


 より強くなったバリアを鋭い目で見つめるキングバーニングカイザー。

 炎に満ちた巨大な翼を羽ばたかせる。


「バリアの中で消え散りなさい!」



 神崎の声が響く空を、炎の王者が熱く燃やす。

 翼、そして尾翼へと変わった足裏から次々と炎を噴射し、一気に高速飛行に入ったキングバーニングカイザー。

 正面に突き出した剣で、バリアを割る。


「俺たちの実力を甘く見るなあああああああ!」


 内側から湧き上がる力さえも、スピードで切り裂いていく。

 そして、グランゼウスの目の前に迫り、二人は叫んだ。



「「スーパースピード……、スラアアアアアアッシュ!」」



 加速の付いたキングバーニングソード。

 グランゼウスの機体を高速で真っ二つ。


「スピードが……、追いつかない……!」


 裂かれた体を炎が駆け抜け、爆音とともにグランゼウスが砕け散った。


 キングバーニングカイザーが、爆発した相手に振り向くことなく、空中で静止する。

 翼に凱旋がいせんの炎を燃やす王者の姿、ここにあり。



~~~~~~~~



「お待たせ!」


 予約していたカラオケに萌がやって来たのは、バトルが終わって1時間以上経った頃だった。

 部屋の中は、神崎に勝ったことを記念して、という理由で隼徒のワンマンライブ状態になっていた。


「モエピー。

 忘れてたよ」


 突然マイクを離して震え上がる隼徒。

 萌が入口で止まる。


「は?

 LINEで呼び出したでしょ?

 てか、カラオケって最初に言ったの私だからね!」


「今のはまずいって、隼徒」


 隼徒のカラオケの横で宿題をやっていた煌が、二人の間に割って入る。

 デンモクを萌に差し出した。


「ありがとっ、神門みかどくん!

 じゃあ、歌う前に私からドキッってくる情報を教えてあげるね!」



 いや、ドキッとくる情報がいきなりすぎて、心の準備ができてねぇって……。



「モエピー、ひょっとして睦のこと?」


「そうそう!

 私、店の中まで入っちゃったし!」


「トレファミの中に……?

 モエピーにできて、俺様がやらなかったのはずっ!」



 隼徒が力なく椅子に腰かけると、萌は煌と隼徒の間に立った。

 背後で、カラオケルーム用のMVが流れ始めるが、その音を気にせずに萌は告げた。



「まず睦の親、トレファミのスーパーマネージャーだって。

 しかも、みどりっていう名前らしい。

 なんか、優しそうだった」


「顔を見たのかよ」


「もっちろん!

 睦を出迎えてたのがスーパーマネージャーの名札を付けた翠だったから、それで確定!」



 そこで萌が笑う。

 煌と隼徒が顔を見合わせる。



「出迎えてた……、だと?

 やっぱり、睦はあのトレファミで働いてたことになるんだな!」


「それしか考えられないよ」


「てか、あそこに住んでるんじゃね?」


 隼徒の憶測に、萌がすぐに首を横に振った。


「ハヤト、あそこ都内だし。

 あのコンビニの上とかが住所だったら、東領家中に通えないって!」


「たしかに、それはあるな……。

 俺様、またしても恥っ!」



 隼徒が頭を撫でると、萌が少しだけ二人に顔を近づけた。


「でも、スタッフオンリーの中に睦が入っていったのはガチ!

 トレファミでお母さんの手伝いをしてるのもガチ!

 ていうか、『今日の弁当は何になりそう?』とか言ってたし」


「えっ……?」


 煌は、萌が口を閉じたところで固まった。

 そこに萌が突っ込んだ。


「神門くんは分かったみたいだね。

 この話の怖いところ」



 10秒ほど沈黙が続いたのち、煌は口元を震わせた。



「売れ残りそうな弁当……、ってことだよな。

 なんか、隼徒のアンケートの『おにぎり』も意味が変わってきそう……」



「そういうこと。

 睦のお母さんは、売り上げの悪いコンビニを立て直すために店に来る、スーパーマネージャー。

 見た目は、コンビニのヒーローでしょ?

 でも、生活はすっごく底辺のように見えた」



 煌と隼徒は、再び顔を見合わせた。

 煌が時折、息を飲み込む。



「かわいそうだけど……、コンビニの店員ってそういうものなのかな。

 売れ残ったものを食べなきゃいけないって。

 賞味期限の切れたものはお店に出せないし」


「そっ!

 だから、決めたの。

 睦はもう普通の女子じゃないなって。

 友達もゼロとか言ってたし」


「モエピーが友達に一番近いんじゃね?」


 隼徒のツッコミに、萌が首を横に振る。


「読んでるマンガも、コンビニの売れ残り。

 少年誌はだいたい毎週売れるから読んでないって!

 趣味合わなそう」


 そこまで言い切ると、萌が隼徒の前に顔を近づけた。


「だから、睦にはもうレーヴァテイン以外残ってないの。

 持ってる力を考えると、怖いけどね!

 それがあるから、私はそんな女子なのに手を出せない!」



 これ、ますます睦がレーヴァテインの力を使わないといけないシチュエーションになるよな……。



「ところで……」


 萌が「これで睦の話いいね」と素早く口にした時、逆に隼徒が話を切り出した。


「どうしたん、ハヤト」


「俺様、この部屋何人で予約したっけ……、って思ってさ!

 やらかしちったかも知れね!」



 隼徒は伝票バインダーを手に取って、今度こそ本当に固まった。

 そこには4人という数字が載っていた。

 部屋を使える時間は、残り30分もない。


「4人だったら、聖名せいな連れてくればよかったなー。

 私と睦がトレファミ着いたら、速攻チャリで出てくところだったし」


「モエピー、連れてくればよかったんじゃね?」


「はぁ?

 4人って予約したのはそっちでしょ?」



 盛り上がる萌と隼徒の前で、煌は心から笑うことができなかった。


 レーヴァテインの魂次第では、この先が思いやられる……。



~~~~~~~~



【今週のアルターソウル】


グランゼウス

 ギリシア神話の天空神で、神々の頂点。無印「バーニングカイザー」19話で登場したが、実戦は初。

 全身に光を纏い、光のバリア・スフィアユーフォリアで攻撃を弾き返す。

 雷を象った杖から放たれる電撃も、かなりの破壊力あり。



【次回予告】


俺、神門 煌!

体育祭、睦にとって初めてのクラス全員リレー、遅かった睦がみんなに叩かれる。

追い詰められた睦は、これしかできないとレーヴァテインの魂を解放。

でも、剣神テュールが弱い剣と言って、校庭に投げ捨てたんだ。

剣を粗末に扱う奴は許さねぇ!


次回、灼熱の勇者バーニングカイザーMAX。

「レーヴァテインは目覚めることなく」

平和な世界へ、ゴオオオオオオ・ファイアアアアアアア!!!!

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