第7話 初めての直接対決②
「男だけのカラオケっていいよなー、カイザー!」
マイクのスイッチを入れたまま、
煌は曲を選んでいるにもかかわらず、耳元で大きな声を浴びせられた。
「いいけどさ……。
俺だって、そんな曲を知ってるわけじゃないよ」
「だったら、ロボ部のライバルになった『北欧の勇者ビクトリーヴァイキング』の主題歌!
今にも海に飛び出しそうな、ブレイバーシリーズで一番アゲアゲテンションな曲!
俺様歌うから、今日覚えておきなよ!」
「あぁ……」
隼徒がアニソンも守備範囲だったなんて、俺知らないぞ……?
「カイザー、ひょっとして俺様がこんなの歌えないって思ってた?
ノー、ノー! オタ女にもモテないと、今のDCやってけないって!」
「だから、萌を口説いたんだ。
てか、萌、マジで睦のコンビニに行ったんじゃないよな?
この前隼徒が歩いて30分とか言ってた……」
隼徒が4人で予約した時間は、ホームルームが終わって30分後の夕方4時。
既に10分は過ぎている。
「あっ、俺様としたことが……!」
隼徒が、ポケットからスマホを取り出す。
「どうしたんだ、隼徒!」
「萌に予約した時間言ってなかった」
「はぁ?
てか、最初は萌が睦をカラオケに誘うとかいう話じゃなかった?」
「だよな……」
煌の問いかけに、ほとんど意識が向いてない隼徒。
LINE電話をかけるが、萌は出ない。
「とりあえず、俺様とカイザーがカラオケにいるって、モエピーにはメッセージ入れとく」
「そんな焦るなよ。
もしかしたら、今頃、睦と仲良くなってるかも知れないよ?」
煌は、椅子に座って選曲する。
萌が睦から、未だ二人が知らない情報を聞き出しているとは知らずに。
~~~~~~~~
「儲かってない店を立て直す……?
ウッソー! トレファミ、あれだけ大手なのに儲かってない店があるんだ」
母親の待つ店に向かって歩き続ける睦の歩調に合わせるように、萌もすぐ後ろを歩き続ける。
時折、睦が萌に振り向く。
「コンビニ、日本全国に出し過ぎなんです。
私のママが見ている店も、300m先にたくさん駐車スペースのあるトレファミがオープンして、お客さんを取られたんですから」
「トレファミどうしで客を奪い合ってるんだ」
「そう……。
それで、赤字のお店になったから、ママが3ヵ月スーパーマネージャーで入っているんです。
ママが入った店は、だいたい立ち直ってますから」
「そうなんだ!」
ちょうど信号待ちのところで、萌が睦の横に出てきた。
もうすぐ領家市から都内へと入る。
睦の親が勤めている店と思われる看板を、萌ははっきり見た。
「ママ、ヒーローじゃない!
潰れそうなお店を救ってくれる、すっごいヒーロー!
なんか、アニメのヒーローとは違うカッコよさを感じる!」
「そう言ってくれたの、萌ちゃんが初めてですね」
睦の口元が少しだけ揺らいだ。
「睦、そのお店でバイト……、いや、親の手伝いをしてるんでしょ。
睦だって、学校じゃ大人しいけど、ヒーローを助けるサブキャラ?
そんな感じがする」
「私、コンビニにもいるだけですけど。
本当は、中学生がそこまで働いちゃいけないことになってます」
「まぁ、そうだよね」
長い赤信号が、ようやく青に変わる。
萌は、睦のほうを向きながらすぐ横を歩き続ける。
「睦の親って、レーヴァテインみたいだね」
「あの剣の話、あまりしないで下さい。
ハルトくんが守ってくれるって言ってくれなかったら、北欧神話部にも行かなかったですから」
「ううん。
レーヴァテインって、どんな困難も打ち砕く。そんな力がある。
コンビニが潰れる運命を、守る剣だと思って。
それに剣って、アニメでもゲームでも、持つ人によって出せる力が変わるから!」
萌が天を仰いだ。
かすかに、白い光が輝いたように見えた。
「萌ちゃん……。
私が自信を持てたら……、レーヴァテインは……」
「睦、いま戦える?」
突然言葉を遮った萌が、睦の肩を持つ。
睦も空の異変に気付き、震え上がった。
空を舞っていたのは、プラチナのように輝く銀色のロボット。
その手には、雷のような杖を持つ。
「神崎先生……」
「えっ……、神崎先生……。
もしかして、ハルトくんが倒したいって言ってる……」
「その神崎先生!
グランゼウスっていうロボ。
去年、学園祭でバーニングカイザーが負けた時に、空から降りてきたの!」
睦と萌が、ゆっくりと空から降りてくるグランゼウスを見上げる。
ロボの鋭い目が、輝く。
「さぁ……、牧島。
私は神の頂点、グランゼウス。
我に、世界の安定をもたらす最強の力を
「嫌です!
今はまだ……、力を使いたくないです!」
空に向かって叫ぶ睦。
グランゼウスが薄笑いを浮かべると、杖の先に白い光を集め始めた。
この世の全ての光が、杖に少しずつ集まってくる。
「剣の姿になったら、取られるかも知れない。
いい、私が睦を守る!」
萌が、睦に手のひらを差し出す。
「睦はミラーストーン、持ってるよね」
「持ってます!」
萌は、睦からミラーストーンを受け取ると、太陽の光にかざす。
「私が……、本当は睦を守れる力のはずだから!」
睦が路地に隠れる中、萌は叫んだ。
「アルターソウル、
反応はなかった。
「えっ……、ウソ……」
再び萌がミラーストーンを空にかざすも、ミラーストーンは全く輝かない。
「なんで……。
私、ヒーローじゃないの?」
地上で一人じたばたしている萌を、上空のグランゼウスが睨みつけ、笑う。
「そこにいるのは、
この石に反応できるアルターソウルは持っていないか、未だ見つかっていないか……」
「あ……、そうだ……」
萌は、自分のミラーストーンを渡されていないことの意味を、ここでようやく気付いた。
急いで、睦のいる路地へと隠れた。
「どうしよう……。
北欧神話部の仲間を呼ぶしか……」
萌は、無意識にスマホを取り出した。
LINEで着信とメッセージの通知が見える。
だが萌は、名前を見ることなく、こちらからLINE電話をかけた。
『ハロー!
俺様だよ!』
スマホの向こうから、ハイテンションな声がガンガンに響いてきた。
その半分くらいの音量で、煌が数分前に聞いたばかりの「ビクトリーヴァイキング」の主題歌を、何とか音を追いながら歌っている。
「えっ、ハヤト?
ハヤトが珍しく電話くれたの?」
『そっ!
カラオケ、4時に予約してたこと伝え忘れててさ!』
「もう4時半近いんだけど!
てか、いま……、睦のコンビニの近くに神崎先生のロボがいて、睦を襲おうとしてる!
レーヴァテインの魂、欲しいみたい!」
『はぁ?』
隼徒がスマホを持ったままデンモクを取り、演奏停止ボタンを押した。
煌がマイクを持ったまま隼徒に迫る足音が、萌にもはっきり響く。
「お願い。
バーニングカイザーでもいいから、すぐ来て!」
LINE通話は、そこで切れた。
~~~~~~~~
「カイザー、ヤバいって。
グランゼウスが睦のアルターソウルを奪いに来たみたい!」
「マジかよ……」
隼徒がデンモクをテーブルに置くよりも早く、煌が息を飲み込んだ。
「カイザー、たしか戦ったことないよな」
「見たことはあるけど……、あの時は俺が戦えなかった。
ギリシア神話のトップで天空神って、前に勇斗先輩から言われてたし……、なんか強い光を放とうとしてた」
煌は、そう言いながら部屋のカーテンを開けた。
部屋に差し込んできた夕日とは真逆の方向に萌たちが向かっていたにもかかわらず、白っぽい光が空を覆っている。
「だったら、最初からキングだな!
ある意味、ラスボスみたいな存在だし!」
「オリジンのアルターソウルだから、いくら倒したって復活するけどさ。
こっちはユナイトになったら、勝つしかない!」
「さすが、前向きな皇帝さま!」
煌と隼徒が同時に、部屋の窓から差し込む光にミラーストーンをかざした。
「「アルターソウル、
煌の持つミラーストーンに、勇ましきバーニングカイザーの魂。
隼徒の持つミラーストーンに、空を素早く舞うフレイムファルコンの魂。
二つの解き放たれた光に向かって、2人が叫ぶ。
「「キングバーニングカイザー! ブレイズ・ザ・プライド」」
白い光の中に、2機の機体が吸い込まれた。
ファルコンの翼が、バーニングカイザーの背中に激突。
先端に炎を燃やし、天空を駆け抜ける力となる。
バーニングカイザーの胸部に突き刺さる、炎と一体化したファルコンの頭。
十字に輝く金色の光が、空に映える。
「「ユナイト・コンプリート!」」
勇気に燃える
二つの頂点その身に背負う 烈火に満ちた王者の姿
熱き闘志をむき出しにして 輝く翼で天翔ける
炎の王者に焦がせぬものなし キングのプライド燃え上がる
「烈火の帝王、キングバーニングカイザー!」
白い光が上下に弾け、キングバーニングカイザーがグランゼウスと同じ高さに舞い降りた。
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