第5話 圧倒的な神話の力に③
翌朝、
学校の校門の前に降りる歩道橋を上がったところで、スマホが振動する。
「いま起きた……?
完璧遅刻だよな、これ……。
てか、『ブレイバーシリーズ』の本を読んでたら寝落ちしたって……」
煌は、スマホから目を離す。
同時に、学校から白い光が溢れた。
「また、北欧神話部で何かやって……」
煌は、そこで言葉を止めた。
白い光が一気に大きくなり、後者の高さをはるかに超える女神が、煌に背中を向けて降り立ったのだ。
「何が現れた……?」
煌は歩道橋を駆け降り、校門を通り抜けた。
女神は相変わらず煌に背中を向けたまま、弓を構える。
『さぁ……、北欧神話の世界を支配する者、出てきなさい!
そして今すぐ、炎の剣の魂を返すのです!』
女神の声が、校舎に跳ね返って煌にも響く。
矢の先が示すのは、その校舎だ。
「校舎を狙う気かよ……!」
昇降口の前では、何人もの生徒が立ち止まって女神を見つめていた。
生徒が危険を察して、次々と校舎から出てくる。
すぐに校舎の前が人で溢れかえった。
煌は、ポケットからミラーストーンを取り出す。
「学校を狙う奴は、俺が許さない!」
煌が、ミラーストーンを朝の太陽にかざす。
「アルターソウル、
ミラーストーンが眩しい光に包まれ、その光に向かって煌が叫ぶ。
「バーニングカイザー! ゴオオオオオオ・ファイアアアアアアア!!!!」
ミラーストーンの眩しい光が反射した方向へ、煌の体が吸い込まれた。
光の中から、バーニングカイザーのシルエットが現れ、煌の目の前に迫る。
その胸に描かれた炎のエンブレムに、煌の体が正面から衝突。
同時に、金属のようなものに体が突き上げられた。
「ソウルアップ・コンプリート!」
熱き心を胸に燃やし 輝く炎のエンブレム
拳に勇気の火を
燃え上がるは正義の魂 炎の皇帝、ここに立つ!
「灼熱の勇者、バーニングカイザー!」
白い光が上下に弾け、校庭に降り立ったバーニングカイザー。
弓を持つ女神と、校舎のちょうど中間で相手を睨みつける。
だが、女神はバーニングカイザーを見て、薄笑いを浮かべた。
『私は、狩りの女王ハンターアルテミス。
北欧神話部に用があるのです。
炎のスポットになど、用はありません』
「学校を守るのは、この俺だ!」
炎がデザインされた足を、大きく踏み出すバーニングカイザー。
その手を激しく燃やす。
「フレイム……、フィンガアアアアアアア!」
煌の叫びとともに激しく燃え上がる、バーニングカイザーの両手。
ハンターアルテミスの腕を掴みかける。
だが、ハンターアルテミスが右膝を高く上げ、空へと舞い上がった。
「逃げられたっ!」
すぐさま、肩の発射口に炎を集めるバーニングカイザー。
ハンターアルテミスを睨みつける。
ハンターアルテミスは、フレイムバスターの射程では到底届かない上空。
「邪魔する者は、貫かれるのみ」
地上に向けて弓を構えるハンターアルテミス。
地上に向けられた矢の先が、白く輝く。
「ルナライトアロー!」
「こっちに来る!」
落ちてくる矢の軌跡を捕らえ、バーニングカイザーが大きく右にジャンプ。
衝撃音とともに落ちた矢を回避するも、ハンターアルテミスが再び上空で弓を構える。
「くっそ……。
ここから仕留めるしかない……!」
煌の激しい怒りが、勇者の眠っている力を解放させる。
「バーニングエンブレム、ブレイブフォーメーション!」
空気を切り裂く破裂音とともにバーニングカイザーの胸が左右に割れ、中から口径1mの大砲が出現。
胸の一番下で輝く炎のエンブレムが、現れた大砲の口を左右から押さえ込む。
次の瞬間、大砲そのものが炎に包まれ、発射口に莫大なエネルギーが湧き上がった。
バーニングカイザーのパワーの
それがいま、力となり、解き放たれる。
「バーニング……、ブラスタアアアアアアアア!」
大砲から解き放たれた、巨大な火の玉。
上空のハンターアルテミスに襲い掛かる。
だが、巨大な炎を見た瞬間に、ハンターアルテミスの構えた弓が巨大な白い光に包まれた。
その光の向こうには、いくつもの輝く矢。
「ビッグルナライトアロー!」
標的に間近まで迫ったバーニングブラスターを砕く、無数の矢。
全く勢いを弱めることなくバーニングカイザーを狙う。
「くっ……!」
バーニングカイザーが右手を前に伸ばし、指を軽く丸めた。
煌の声が、空気を裂く。
「バーニングソード! ブレイズアップ!」
バーニングカイザーの左腕を覆う、先の尖った四重の装甲、そして金色の
格納された柄とともに、肩から前に押し出される。
四重の装甲が、燃え上がるように1段1段前に伸び、1本の長い剣が出現。
カーブを描きながら、柄がバーニングカイザーの右手に吸い込まれ、炎に満ちたその手でがっしりと掴む。
「燃え上がれえええええええ!」
手に宿った熱で、鍔から上がる激しい炎。
あっという間に、バーニングソードのブレードを炎で包みこんだ。
「俺はこの矢を、打ち砕く!」
炎の剣を高く掲げ、大きく振ったバーニングカイザー。
光の矢が、すぐ上で粉々になる。
「まだ落ちてくるのか!」
時間差で迫って来る光の矢。
バーニングカイザーが、再び空を剣で斬り、打ち砕く。
それでも、さらに襲ってくる無数の矢。
「俺は、諦めねぇ!」
さらにもう一度、バーニングソードを振ろうとしたとき。
「どこ見てるんですか」
背後から鋭く突き刺さるような衝撃が、バーニングカイザーの機体に走る。
背後に振り返った先に、矢よりも早く地上に降り立っていたハンターアルテミスの姿。
そして、間近に迫った2本目の矢。
「くっ……!」
背中に2本目の矢が突き刺さり、ついにバランスを崩したバーニングカイザー。
同時に、上空からも貫かれる。
矢が突き刺さったところから次々と爆発。
装甲が飛び散る。
左足を前に出して踏ん張るも、立っているのがやっとだ。
「俺は……、負けねぇ……!」
何とか離さず持っていたバーニングソードを両手で掴み、激しい炎に包み込む。
だが、ついに左足も耐えられなくなり、左膝をついた。
「終わりのようね、バーニングカイザー」
「くっ……」
もはや、ハンターアルテミスを睨みつけることしかできない勇者。
相手は、笑っていた。
そこに、突然上空が暗くなった。
「まだ何か来るのかよ……!」
「今度こそ、お遊びはここまでです!」
上空から、漆黒のロボットが地上を見下ろす。
胸の中心だけが、金色に輝いていた。
ハンターアルテミスが、その漆黒の機体を睨みつける。
「誰ですか!」
「私は、ライトニングトール。
「雷……。
そんなもの、この矢で貫きます!」
ハンターアルテミスが、光り輝く矢を上空に解き放つ。
だが、ライトニングトールの右手が、空を掴んだ。
「サンダー……、ブレイクスマッシュ!」
上空から幾重にも解き放たれた、鋭い稲妻。
迫りくる光の矢をあっという間に粉砕し、ハンターアルテミスの前に力強い雷が落ちた。
ピシャーンと高い音を上げ、校庭の土を突き上げる。
「な……、何なの。
このパワーは……!」
再び弓を構えるハンターアルテミス。
だが、矢を放つ前に漆黒の機体が再び雷を手に持った。
「サンダー……、ブレイクスマッシュ!」
今度は、弓を持ったまま上空へと逃げるハンターアルテミス。
だが、その軌跡を狙うように、3本目の雷が上空から落ちる。
「ぐっ……」
雷の直撃を受けたハンターアルテミス。
首を下に向けたまま、荒い息を空にこぼす。
だが、ライトニングトールは息つく隙すら与えない。
背中から工具のようなものを掴むと、その姿を巨大なハンマーへと変えた。
「クラッシュハンマー!」
瞬く間に、相手のすぐ上に舞い降りたライトニングトール。
逃げることもできないハンターアルテミスの頭に、鉄のハンマーを叩きつけた。
「……っ!」
体ごとハンマーに打ち砕かれたハンターアルテミス。
その体は力尽き、すぐに白い光に消えていった。
ライトニングトールが、ゆっくりと地上に降り立ち、膝をついて動けないバーニングカイザーの前に立つ。
「ありがとうございます……。
学校の平和を守ってくれて……」
バーニングカイザーが、ライトニングトールを見上げる。
ライトニングトールは、首を横に振った。
「北欧神話部を狙っていたようですので、当然私が出るしかありませんよ。
何と言っても、私は北欧神話の雷の神、トールの魂を持っていますから」
「そうだったんですね……」
バーニングカイザーがようやく立ち上がって、ライトニングトールに頭を下げる。
その声で、煌は気付いた。
「もしかして、ライトニングトールは稲妻先生ですか……」
「そうですよ」
「やっぱり……」
漆黒の機体、ライトニングトールの口元が笑う。
それは技術科の先生、稲妻徹が授業中に見せる笑い方と全く同じだった。
~~~~~~~~
【今週のアルターソウル】
ハンターアルテミス
ギリシア神話の月と狩猟の女神が巨大化した姿。
爆発力のある無数の光の矢を解き放ち、相手にダメージを与える。
矢の落下より速く上空から地上に移動できるスピードも自慢。
ライトニングトール
北欧神話の雷と農耕の神が巨大化した姿。
一気に地上に叩きつける雷・サンダーブレイクスマッシュが得意技。
また、技術科教師の稲妻が操る魂のため、ハンマーを武器に相手を叩くことも。
【次回予告】
俺、神門 煌!
一緒にロボで戦おうと北欧神話部の部室に行ったら、バーニングカイザーはいらないとか弱いとか言ってくる。
そこに、稲妻先生が俺たちとの直接対決を申し込んできた。
見せてやる、俺たちの強さと燃え上がる心を!
俺たちの新たな魂、キングバーニングカイザーで立ち向かえ!
次回、灼熱の勇者バーニングカイザーMAX。
「王者のプライド見せつけた」
平和な世界へ、ゴオオオオオオ・ファイアアアアアアア!!!!
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