第5話 圧倒的な神話の力に②
放課後。
1年生や転校生が本入部となる最初の部活動が始まった。
「はい、ロボ部はやっぱり俺たち2人!」
「炎の力で世界を救うヒーロー、たった2人。
俺様、すっごく寂しい。
やっと、フレイムファルコンを学校で見せたから、俺様に憧れて人が入ってくるかと思ったのにさ」
「俺がソウルアップした初日以外は、仮入部の生徒が帰った時間に変身してるからね。
それにしても、2人っていうのは1年生の時より少ないよ」
煌が1年生の時には、3人で戦っていた。
一人ぼっちだけは回避できたものの、人数の少なさは戦力に直結してしまう。
そこに、隼徒が再び手を叩いた。
「てか、気にならね?
ライバルの北欧神話部が何をやってるか。
睦を取られたって思ってるんだったら、カイザーは行った方がいいって!」
「仮入部が終わってるのに、他の部を見学しに行っていいのかよ」
立ち上がらない煌の前に、隼徒が顔を近づける。
「ロボ部は自由だろ?
戦うとき以外はやることないんだし、鍵だけかけて行っちゃお!
なっ!」
隼徒の手が煌の腕を掴み、引っ張った。
運動神経で、煌は勝つことができない。
てか、この前までバスケ部だったんだよな、隼徒。
~~~~~~~~
「俺たちよりも部活公認が遅いのに、部屋があるって羨ましくね?」
部活動掲示板に突然貼られた北欧神話部の案内を頼りに、煌と隼徒が部室となる社会科準備室へと進む。
社会科準備室のドアは開いていて、廊下でその前を通るたびに中の様子が少しだけ見られるようだ。
勿論、廊下から見た時に正面になる窓側にホワイトボードを置いて大出が授業をしているので、立ち止まれば即大出にバレるわけだが。
煌は、いくつか並んだ棚の間から、白い光がこぼれていることに気が付いた。
「隼徒、もうソウルスポットが作られてるよ……。
去年、スポットが置かれた数学科準備室と同じような場所に」
「でも、机を並べているだけ、数学科準備室よりは明るい部屋なんじゃね?」
「いや。
これだけ備品が置かれているのに、生徒いっぱいいたら、明かりが遮られるって」
煌と隼徒が話す声は、必然的にヒソヒソ声に鳴らざるを得ない。
二人は壁にもたれかかって、中で何が話されているかを聞いた。
『北欧神話では、世界は全部で9個の世界に分かれている、と言われます。
アニメやゲームなんかでヴァルハラという言葉を聞いたことがある人もいるかも知れません。
それは世界ではなく神々の集う宮殿なんですね。
その宮殿は、メインとなるアースガルズに属しています。
これも、名前だけは聞いたことがあると思いますが、オーディンが住まう国です。
他にも、炎の国だったり、霧の国だったり、もちろん人間の国だったり。
いろんな世界が、北欧神話にはあります。
いくつにも分かれた世界を結びつけるのは、いま線で結んだ世界樹、ユグドラシルというものです』
「うわぁ……。
カイザーさ、うちのクラスの社会の授業、こんなペラペラしゃべってなくね?」
「大出先生、北欧神話オタクだからしょうがないって。
それにしても、ホワイトボード見てなくてもどういう板書してるか分かるよ」
隼徒がたまらず、顔を半分ドアから覗き込む。
幸い、大出が北欧神話の世界を説明する板書を消しているところだったので、気付かれずに済んだ。
「てか、これ毎日北欧神話のことを勉強するってなると、辛くね?
俺様が調べたけど、神話で語られてる量がガチでパネェって!」
「でも、向こうもアルターソウルで戦うんだよね。
勉強だけじゃないと思う」
「そりゃ、カイザーの言う通りだけどさ。
でも、睦以外に戦う目的ってあるん?」
ないな……。
うん……。
「ソルフレア教の司祭・八木と戦うんだったら、神崎先生と組んでるはずだし。
そうじゃないってことは、やっぱり違うのか……」
「
何を見てるんですか!」
突然、中から大出の靴音が響いた。
腕を引っ張ろうとする隼徒の手を、煌は振り切った。
「どうしたんだよ。
逃げようって、カイザー!」
「名指しされたんだから、怒られようよ。
悪いことしたの、俺たちだから」
そこで、大出が廊下に顔を出した。
隼徒だけは体を震わせていた。
「北欧神話のことに興味を持ってるんだったら、そんな廊下でこっそり見てるんじゃなくて、中に入りなさい。
アルターソウルって聞いて、おそらく神門と
腕を組む大出に、煌が頭を下げた。
「すいません。
こっそり見ようとしていたこと、俺たちは反省しています」
「素直でいいじゃないか。
さすが、正義のヒーローと呼ばれる生徒。
敵に関する知識を調べたいんなら、入ってきなさい」
大出は特に手招きすることなく、ただ声だけで外の二人を誘った。
だが、その時には隼徒の足が階段へと向いていた。
「いえ……、結構です。
すいません」
煌と隼徒は、急いで北欧神話部の部室の前から離れた。
~~~~~~~~
「やっぱり怒られたね、隼徒」
「まぁ、俺様はそんなもんだろうと思ってたし」
隼徒はロボ部の部室に戻るなり、足を組んで椅子に座った。
「北欧神話部の部室に行こうって言ったの、隼徒だろ……。
一緒に行った俺だって、そりゃ悪くなるけど……。
……って、隼徒?」
隼徒の組んだ足の方が煌には目立ち過ぎて、その横で隼徒の手がバッグから何かを取り出していることまでは気付かなかった。
「ジャーン!
いちロボ部員として、俺様買っちゃった!
『ブレイバーシリーズ・アルティメットユナイト』って本!」
「えっ……。
そんな本が売ってるんだ!」
コンビニで売られている雑誌と同じサイズのフルカラーの本を、隼徒が机に置く。
煌はそれに食い入るように体を伸ばした。
「メ〇カリで出してたの、俺様が買ったんだ。
20年前にシリーズが打ち切られた後にひっそりと出た本だから、レア中のレア!」
「レアどころじゃないって。
俺、バーニングカイザー1年やってても、誰からもこの本の話をされなかったんだからさ」
てか、陽キャの隼徒がこんなアニメ本に手を出すなんてイメージ、ハナからねぇけどさ。
「というわけで、カイザー。
向こうが向こうで北欧神話のこと勉強してるんだから、こっちもこっちでブレイバーシリーズのこと、勉強したほうがいい。
俺様はそう思うけど、カイザーはどう?」
「たしかに。
悪くはないよね!」
煌がバーニングカイザー以外で知った作品と言えば、ブレイバーシリーズの初代作品『超光の勇者シャイニングブレイブ』ぐらいなもの。
それも、半年ほど前にオタク街でその魂と戦うことになったからだ。
つまり、煌はブレイバーシリーズ最後の作品のロボに1年間変身し続けて、先輩となるヒーローのことをほとんど知らなかったのだ。
「バーニングカイザー入れて、15作品あるんだ……。
1990年から2004年まで。
それだけ多くの勇者が、世界の平和を守ってたってことなんだ」
「そっ!
今でいうところのプ〇キュアみたく、毎年タイトルは変わっても、勇者と名のつくロボットが戦い続ける!
俺様が子供の頃にやってたら、テレビから離れられなかったって!」
「俺も、ハマりそうだね」
そう言いながら、煌はページを次々とめくる。
1994年と大きく書かれたページで、煌の手が止まった。
「なんか、この『精霊の勇者エレメントアイテール』、山村先生が操っていそう……」
「1年生の時にカイザーが戦ってた、あの山村?」
東領家中学校には、この春まで山村という数学科教師がいた。
煌と同じように神崎からミラーストーンの原石を手にして、担任をしている3年2組の生徒を巻き込んで、精霊の世界を作ろうとしたが、煌たちに止められたのだった。
「おそらく、そう。
ほら、この前まで校庭に浮かんでたの、こんな形の天使だっただろ」
「俺様も見た事あるな……。
てか、ブレイバーシリーズのロボットなのに、足が頑丈じゃなくね?」
「たしかに……。
もともと精霊だから、足ががっしりしているイメージがなさそうだけど」
気が付くと、煌と隼徒は二人並んでブレイバーシリーズの解説本を読んでいた。
1995年、1996年と、二人の知らない世界観のロボットが次々と現れる。
そして、1999年――
「はいはい、ここ注目――っ!」
ページを開いた瞬間、隼徒が本を両側から引っ張り、大きく広げる。
部室の机が動いた。
「急になんだよ、隼徒!」
「だから、タイトル見な!
カイザーが絶対反応するって!」
煌は、隼徒の広げたページに目をやる。
大きく書かれた『北欧の勇者ビクトリーヴァイキング』の文字に、煌は思わず息を飲み込む。
「これだよ、俺が探してた作品!」
「だろ?
ブレイバーシリーズで北欧って言ったら、これしかないし!
キャラとかロボとか、名前それっぽくね?」
「たしかに……!
ロキもいるし、スルトもいる……。
で、スルトがレーヴァテインを持って……、何だよこの名前!」
合体というより、単にスルトが武器を持った形態は、メラセイバーと書いてあった。
説明文も、「合体によって誕生した炎の戦士」としか書かれておらず、特に重要なキャラというわけではなさそうだ。
「スルトもレーヴァテインも名前から消えるって、イメージできないよ」
「そこ、そこ!
この作品、変なネーミングが多いの!
主役のオーディンだって自分の名前名乗ってないから!」
「隼徒、オーディンいた?」
煌は、隼徒に言われてページの左側を見た。
ロボ部が誕生して間もない頃、萌にフィギュアを置かれたビクトリーヴァイキングが、ページの3分の1ほどを使って力強く立っていた。
「これかよ……。
オーディンも自分の名前を名乗ってない」
「なっ!
子供向けのアニメだったから、難しい説明全部抜いた結果!
アニメでそうしなきゃいけないくらい……」
そこで、隼徒が体を傾け、煌にもたれかかった。
「北欧神話の世界は複雑なことが多いっ!」
「倒れてくるなって!
隼徒の肩、重いんだからさ!」
煌は、プレハブ小屋の外が一瞬白く輝くのを感じた。
「また何かが襲ってくる……?」
ポケットから出したミラーストーンを手に持って、煌は部室の外に出た。
一瞬輝いた光は既に上空にでは見えず、周辺に特段の巨大生物も見えない。
「アニメ本の見過ぎか……」
煌がプレハブ小屋に戻ろうとしたとき、先程まで煌がいた社会科準備室の窓から白い光が溢れ、再び消えた。
「やっぱりか……。
あそこに集まった生徒のアルターソウルを解放してる……!」
煌は、2回、3回と白く輝く部屋をこの目で見た。
そのスポットに宿る魂の目的を知ることなしに。
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