第4話 本当の強さ教えてくれた①

「やべっ!

 俺様としたことが、スマホどこかに忘れた?」


 ロボ部の部室に入って、いつものように椅子に座る隼徒はやとは、ポケットに違和感を覚え、スマホを探しだした。

 きらがプレハブ小屋の入口に落ちていないか確かめに行くところで、隼徒がバッグを置いて、ゆっくりとドアに近づく。


「カイザー、俺様しくったぁ……。

 教室でLINE打ってて机の上に置いたな、これ!

 教室行ってくるよ」



 隼徒が慌てて席を立ち、部室のドアが閉まる。

 この日も仮入部の生徒が来ない。

 ゴールデンウィークが終わると同時に入部届の提出期限がやって来るため、このままではロボ部の部員は2年生二人だけになる。


「睦には、声掛けづらいよな……。

 破壊の剣って言ってるし……」


 煌は、窓から校舎を見た。

 煌たちの教室、2年1組の電気はついていた。



~~~~~~~~



「スマホ忘れるなんて、俺様めっちゃカッコ悪!

 モテ男がドジ男になるなんてよ……」


 隼徒が、2年1組の教室に一歩足を踏み入れる。

 教室の隅に誰かがいるような雰囲気だ。


「誰だよ……」


 隼徒の目線では、頭しか見えない。

 床にうずくまっているか、座り込んでいるかのどちらかだ。

 濃い茶髪が、机の間に見え隠れする。


「ひょっとして、睦か……」


 その時、教室の隅で生徒が一瞬振り向き、隼徒と目線が合う。

 睦だった。


 睦が体を震わせながら、教室の床に手を近づける。



「私は……、やるしかない……!」


「あっ……!」


 机の柱に、輝く光が反射した。

 隼徒の持つミラーストーンよりも、はるかに強く輝くものを、睦が持っているように見えた。


「あれ、原石じゃね?」


 睦が、息を飲み込む。

 隼徒は教室を狂ったように駆け出した。


「ユー、やめなって!」


 机の間を縫うように、睦のもとへと駆ける隼徒。

 机をいくつ弾き飛ばしたか分からないほど、隼徒の目は睦しか見ていない。

 睦の手にしたものが、教室の床に着く寸前のところで、隼徒がそれを握りしめた。



「なんで、誰にも言わずに原石をここに置くん?

 スポットでも作るん?」


 隼徒が睦の顔に両手を当て、顔を無理やり隼徒に向けさせた。

 睦の体から、わずかに力が抜ける。

 手に持っていた輝く石を、睦は隼徒に見せた。



「私……、スポットを作らなきゃいけなかったんです……。

 戸畑さんに……、スポットを作りなさいって言われて……、ずっとそのときを待っていたんです……」


「あの戸畑が?

 ……って、睦さぁ、破壊の剣・レーヴァテインって俺様に言ったよな?

 破壊専門のスポットを学校に作ったら、学校終わっちまうって!」



 隼徒が説得するも、睦の目は徐々に下を向き始めた。



「やっぱり、ハヤトくんもキラくんと同じ、正義のヒーローなんですね……。

 私の持っている魂は、それを滅ぼすための力なんです……」



「そ……、それ、マ?

 じゃあさ、俺様とかカイザーとか、敵に……ずっと接してたってわけ?

 めっちゃショック~!」


 隼徒が睦を睨みつけた。

 すぐさま、睦の腕を引っ張る。


「睦、ちょっと来なよ!

 俺様とカイザーが説得してやるから!」



 睦は、原石を握りしめて、隼徒に引っ張られるように立ち上がった。

 特に抵抗することなしに。



~~~~~~~~



「睦、俺たちを倒すスポットを作ろうとしてたんだ」


 隼徒に手を握られたままロボ部の部室に連れられた睦は、何も言わずにうなずいた。

 その横で、隼徒が右の人差し指を立て、煌に差し出す。


「そっ。

 破壊の剣が支配するスポットを教室に作られたら、2年1組終わるって。

 だから、俺様が正義を貫いて止めたんだ」


「でもさ……、隼徒。

 睦を止めるの、俺はかわいそうだと思う」


「えっ……?」


 隼徒が煌に目を細める中、煌は睦の前に立つ。


「きっと思い詰めてたよね。

 自分の力、レーヴァテインを使いたくないのに……、使うのが怖いのに、周りから使えって言われてたの……。

 そうだよね」


「キラくん……。

 戸畑さんに追いかけられてるみたいで……、24トウェンティフォーファミリーで怒られるかも知れないって思ってました」


「やっぱりね……。

 俺、隼徒からその話を聞いただけだけど、そう思ったよ」



 煌がうなずくと、睦も一緒にうなずいた。



「睦は、毎日学校で不安そうにしている。辛そうにしている。

 だから、リーダーになって仲間をまとめていくのは大変だと思うよ。

 それでも、睦がレーヴァテインの魂を持ってリーダーになりたいなら、俺は止めない」


「うん……」


 睦は、ようやく原石をポケットにしまった。

 敵だと言われたはずの煌の目を見つめながら。



~~~~~~~~



 翌朝。

 煌が昇降口で靴を履き替えていると、遠くから笑い声が聞こえた。



――よっ、レーヴァテイン!


――あだ名、レーヴァでいいんじゃね?


――いや、おとなしいデストロイヤーでいいよ!



「どこかから、漏れたか……。

 睦のアルターソウル」


 2年1組の教室に向かう煌は、睦につけられるあだ名を何度となく聞いた。

 やや早足で階段を上がると、2年生のフロアへの最後の1段を上がろうとした睦が固まっていた。


「睦、おはよう!」


「キラくん……。

 今日、私の名前呼んでくれたの、キラくんが初めてかも知れないです……。

 もう、全員からレーヴァテインとか、破壊とか言われそうに思えました」


「そうなんだ……。

 でもさ、剣になりたくないんだったら、ならなくていいよ。

 そうしたら、レーヴァテインって言われることももうない」


 煌が、睦の背中を押す。

 睦は、自分の足で2年1組の教室へと入っていった。

 そこまで、煌は睦の後をついて行った。


「睦は、睦だから……」


 そう言い聞かせて、煌は席に座った。

 その時、隣の席のオタク、てるが突然立ち上がり、煌ではなく隼徒に振り向いた。


「隼徒、ちょっと来て!」


 煌は嫌な予感を覚え、輝に体を向ける。

 輝が、煌との間に隼徒を立たせた。



「レーヴァテインは破壊の剣じゃないから!

 ファンタジーを変えちゃダメ!」



 いやいやいや、睦ははっきりと「破壊の剣」って言ったんだし。

 まぁ、今更睦に確認するわけにいかねぇけどさ。



「俺様も……、言われただけで何も知らねぇ。

 レーヴァテインが何の剣か。

 リアじゅうとオタク君の認識の差じゃね?」


 隼徒に言われた途端、輝が煌のほうを向く。


「てか、カイザーが無反応なの、おかしくね?

 レーヴァテインって、全てを焼き尽くす炎の剣。

 そんな設定、アニメやゲームで見なかった?」


「俺、そっち詳しくないし……。

 でも、さ……」


 煌が、一瞬隼徒に目を向ける。

 コンビニの前でバトルした時のことを、ぼんやりと思い出す。


「バーニングカイザーが反応してたんだ。

 強そうな剣だって……」


「だろ?

 バーニングカイザーの強化パーツになるかも知れないって!

 ただでさえ創作の世界では、最強の炎の剣みたいなところあるし!」


「そうは言ってもさ。

 焼き尽くす、イコール、全てを破壊するっていうイメージかも知れない。

 どういう意味で言ったか、俺には分からなかったんだ」



 煌は、何気なく睦の表情を見た。

 睦は、自分の席で小さくなっていた。


 そこで、隼徒が煌の肩を叩いた。


「みんなさ!

 いま、ロボ部初のイベント思いついちゃった!

 夕方まで生ロボ部!

 テーマ、レーヴァテインは本当に破壊の剣なのか!」



 元ネタは、到底中学生が金曜の夜に夜更かしして見るような番組ではない。



「さっ!

 言い出しっぺの輝は、もちろん参加だよな?

 カイザーと俺様は、当然参加!

 睦もさ……」


 隼徒が、睦の席に行って口説きだす。

 最も正体を知って欲しい人物へのアポは、何とか取れたようだ。


「じゃあ、隼徒さ!

 俺も、オタ友連れてくるよ!

 オタ2人、非オタ2人、本人。

 これで中立だなっ!」


「決まり!

 今日の放課後、討論開始!」



 煌は、隼徒と輝がバチバチ火花を散らしている横でため息をついた。


「こんなことで争わなくていいのに……。

 気にはなるけど……」


 煌はスマホを取り出し、検索ボックスに「レーヴァテイン」と入れた。

 その一番上に表示された文字を見て息を飲み込んだ。


「北欧神話に登場する武器……。

 くっそ、また北欧神話かよ……」



 ビクトリーヴァイキング、スルト、レーヴァテイン。

 4月だけで次々と北欧神話に関係する言葉がロボ部周辺に飛び交っていることに、煌はさらに違和感を覚えずにはいられなかった。

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