第3話 破壊の剣を持った私に③

「このゴールドヘルメスに、なんちゅう鳥を出してきたんや。

 このくらいの小ささなら、追い返せますわな!」


 金色に機体を染めた人型の機体、ゴールドヘルメスがフレイムファルコンを睨みつける。

 フレイムファルコンの翼こそ片側10mほどあるものの、頭だけで比べれば全高20mのゴールドヘルメスとは雲泥の差。

 その手には、太い杖が握られていた。

 だが、フレイムファルコンは決して怯んだような目を見せない。



「一気に勝負をつける!」


 翼の先から炎を吹き出し、羽の背後に備えたジェットで飛ぶフレイムファルコン。

 一気に相手に迫る。


「これくらい、止められますがな!」


 フレイムファルコンが翼を羽ばたかせた瞬間、手に持った杖を振り回すゴールドヘルメス。

 あっという間に迫って来たフレイムファルコンが、杖に体当たりする。


「焼き尽くせっ!」


 だが、頭に衝突した杖をスピードで振り切ることができない。

 杖を振ると、フレイムファルコンが弾き返される。



「俺様は……、怯まねぇ!」


 空に弾かれた体の向きを、急旋回で戻すフレイムファルコン。

 再び、炎の翼で相手に迫る。


「無駄や! 無駄!」


 フレイムファルコンが、今度は、スピードで杖をかわす。

 だが、体当たりしようとしたとき、背後から杖を叩きつけられた。


「押されるっ!」



 再び進路を崩されたフレイムファルコン。

 体の向きを戻し、空で止まる。

 眼下に、睦の姿が見える。



「ハヤトくん!」



 睦が震えている。

 ここまで全てスピードを封じられているフレイムファルコンの目が、より一層鋭くなる。



「もっと速く……。

 俺様は空を支配する!」


 翼の先から湧き上がっていたフレイムファルコンの炎。

 いま、翼全体を熱く燃え上がらせる。



「これが……、フレイムファルコンのスピードってやつだあああああああ!」


 だが、飛び立とうとしたとき、ゴールドヘルメスの持っていた杖が突然伸びた。

 逃げ出そうと体を横に向けたとき、その杖の先が何本にも伸びた。

 フレイムファルコンの身に、鋭い衝撃を感じる。


「秘密道具の熊手に刺さっとりまんがな!」


「くっ!」


 翼の炎で、変形した杖に火をつけるフレイムファルコン。

 だが、今度は杖の先が収縮し、体が弾かれた。

 体勢を立て直すところに、再び杖が体に伸びる。


「終わりや!」


 頭を杖で貫かれたフレイムファルコンが、バランスを崩し、地面へと落ちていく。

 両足を何とかアスファルトにつけたものの、すぐ目の前にゴールドヘルメスの体が迫り、翼を再び大きく広げることもできない。


「俺様の最初のバトル……。

 こんな……、弱い魂じゃねぇ……!」


 フレイムファルコンが見上げると、すぐ上でゴールドヘルメスが杖を振り下ろし始めた。

 地上と、そこに立つファルコンを打ち砕くように。


 だがその時、上空に光が差した。



「フレイム……、フィンガアアアアアアア!」


 フレイムファルコンの真横に、炎が描かれた力強い脚が舞い降りた。

 炎に染まった手で、杖を食い止める。


「バーニングカイザー!

 サンキュー!」


 バーニングカイザーが、ゴールドヘルメスの杖を手で止める。

 その隙に、フレイムファルコンも逃げるように飛び上がった。

 だが、相手が頑丈な杖を振り回すなり、バーニングカイザーが弾かれ、よろけながら後退する。


「この杖で、両方のメカを総取りやな!」


 バーニングカイザーとフレイムファルコンが、同時に相手の杖を睨みつける。

 数秒後、バーニングカイザーがうなずいた。


「とどめは、隼徒はやとが刺した方がいい。

 俺は、杖を剣で止める!」


「了解!」


 右手を前に伸ばし、指を軽く丸めるバーニングカイザー。

 きらの力強い声が、響く。



「バーニングソード! ブレイズアップ!」


 バーニングカイザーの左腕を覆う、先の尖った四重の装甲、そして金色のつば

 格納された柄とともに、肩から前に押し出される。

 四重の装甲が、燃え上がるように1段1段前に伸び、1本の長い剣が出現。

 カーブを描きながら、柄がバーニングカイザーの右手に吸い込まれ、炎に満ちたその手でがっしりと掴む。


「燃え上がれえええええええ!」


 手に宿った熱で、鍔から上がる激しい炎。

 ゴールドヘルメスが振り回す杖に向けて振り下ろす。


「この剣は……、燃え上がる俺たちの勇気そのものだっ!」


 振り切ろうとしても、それ以上動かない杖。

 ゴールドヘルメスの表情が、徐々に曇っていく。


 その正面で、フレイムファルコンが再び翼を燃やす。



「ウイング……、ブレイザアアアアアア!」



 激しい炎を纏い、本気のスピードでゴールドヘルメスに迫るフレイムファルコン。

 燃え上がる鋭い翼が、ゴールドヘルメスの体に火をつけ、あっという間に貫いた。


「なんやと……!」


 貫かれた体に、一気に炎が回る。

 爆音とともに、ゴールドヘルメスの体が砕け散る!


「これが、俺様の力だ!」


 炎の残像を見せ、上空で振り向くフレイムファルコン。

 狩りを終えた天空のファイターが、薄笑いとともに翼を閉じた。



~~~~~~~~



「ハヤトくん、ありがとうございます!」


「睦もいたんだ……」


 バーニングカイザーが、駐車場に立っていた睦の姿に気付く。

 一足先にソウルアップを解いた隼徒が、睦に駆け寄った。

 隼徒は、睦の表情を見てうなずくと、すぐにバーニングカイザーへと向きを変える。


「カイザーさ。

 なんか、このトレファミに用があるんだって」


「えっ……。

 歩けないことはないけど、学校から遠くない?」



 そこに、睦が隼徒の隣に立ち、バーニングカイザーを見上げた。

 隼徒に対しては少し喜んだ表情を見せる睦だったが、バーニングカイザーには目を細めている。



「どうして、私を助けてくれたのですか……」


「それは……」


 バーニングカイザーが、一瞬隼徒の目を見る。

 それを受けた隼徒が、代わりに睦に告げた。


「平和を壊すような魂が出て来たら、戦う!

 それが、俺様やカイザーの役目だから!」


 それから、隼徒は膝をやや傾けて、睦と目線を合わせた。


「バーニングカイザーとフレイムファルコンは、正義のヒーロー!

 そう信じなよ! 怖がらずにさ!」



 隼徒が睦の肩に手を掛けると、睦は静かにうなずいた。

 その目には、涙が映っていた。



「私、羨ましいです……。

 正義のヒーローって言えるの……」


「どうしてさ!

 睦だって、ほら、アルターソウルの力で世界を変えられるんじゃね?」


 睦が、下を向いたまま首を横に振る。



「私、アルターソウルを見られたんです。

 さっきの……、戸畑さんに……」


「戸畑って奴に、アルターソウルを見られた?」


「はい……」


 睦が、大きく息を飲み込む。

 バーニングカイザーも、二人を見守る。



「言われました。

 私のアルターソウルが、破壊の剣、レーヴァテインだって……」



――私は、自分の持ってる力が怖い……。



「マジかよ……」


 睦の言葉と言葉がリンクし、煌は息を飲み込んだ。

 これまで、空想上の生き物や精霊、神といったアルターソウルと戦ってきたが、最初から破壊の力を叩きこまれたアルターソウルなど見たことがなかった。


「ハヤトくん。すいません……。

 もうコンビニに入らせてください」


「分かった。

 自分の持ってる力、気にするな!

 アルターソウルで戦うの、ロボ部がやるから!」


「うんっ!」


 睦は、24ファミリーの中に入っていった。

 バーニングカイザーの目が、それを追う。



『レーヴァテイン、伝説では相当なパワーがありそうだ……。

 我が剣をはるかに上回るような……』


 バーニングカイザーの低い声に、煌はすぐ反応する。


「そうかな……。

 勇気で燃やすバーニングソードのほうが、俺は強いと思う」


『そうか……。

 今のところは我が力の証だものな』



 そこから、わずか50m。

 24ファミリーの営業車を止め、戸畑がバトルに見入っていた。

 パワーウインドウを閉める。


「隼徒……。

 ソルフレア教の野望を止めるその名前、私は忘れませんよ」


 夕日が差し込む街に、戸畑の薄笑いがこぼれた。



~~~~~~~~



【今週のアルターソウル】


ゴールドヘルメス

 全身を金色に染めた、人型のロボット。

 ギリシア神話に登場する商売の神が巨大化した姿。

 杖であらゆる攻撃を砕くほか、その杖を熊手のように伸ばし相手を掴み取ることも。



【次回予告】


俺、神門 煌!

睦がレーヴァテインのソウルスポットを作ろうとしたのを、隼徒が止めた。

俺たちや学校を滅ぼすような破壊の剣を、使って欲しくないから。

でも、オタクの輝がレーヴァテインは破壊の剣じゃないって言うんだ。

レーヴァテインがどういう剣なのか、睦を前にして徹底討論?


次回、灼熱の勇者バーニングカイザーMAX。

「本当の強さ教えてくれた」

平和な世界へ、ゴオオオオオオ・ファイアアアアアアア!!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る