第2話 ぶつかり合った二つの正義③

「はぁ?

 俺様がいないのに、アルターソウル持ちが見付かったぁん?」


 翌朝、きらはロボ部の部室に来た陽翔はるとのことを隼徒はやとに話した。

 隼徒は思わず、教室から校庭に目をやった。


「俺と意見が合わなかったから、帰ったけど……。

 でも、スルトって炎の巨人。

 バーニングカイザーのスポットで戦えそうだったんだ」


 煌がうなずくと、隼徒が首を大きく横に振った。



「カイザー、カッコわるっ!

 せっかく部員も仲間も増やせたのに、ついてないなー!」


「隼徒!

 あいつはもう、敵だって。

 俺をヒーローじゃないって言ったんだから」


「まぁ、そんな奴とエンカしたの、運が悪いと思って!

 同じように、アルターソウルで戦いたい人いるんじゃね?」


「そういう人がいてくれると嬉しいけ……」


 煌の言葉が終わらないうちに、隼徒が床を叩きつけ、壁を拳で殴り始めた。


「壁壊れるだろ?」


「ユーと二人だけでロボ部やらなきゃいけない未来に、俺様は怒ってるの!」


 何人かの女子が、隼徒が壁を叩くのを横目で見る。

 その異変に、隼徒自身が気付いた。


「やっべ!」


 突然、隼徒が両手を振って、身を反らした女子に振り向く。


「いやいやいや!

 俺様は何も悪くないよ!

 昨日しくじったカイザーに、根性叩き直してるだけ!

 なっ! 俺様、ユーのことは愛してるから」



「あれ……?」


 ジェスチャーで説得する隼徒の背後に、うっすらシルエットが見えていた。

 力強く空へと羽ばたく、ハヤブサの姿だ。

 煌が怒られていたときには気付かなかったが、女子に慌てている場面でそれがはっきりと見えたのだった。


 煌は、隼徒の腕を引っ張った。


「何引っ張ってるん?

 俺様を怒らせたの、カイザーだからな」


「そうじゃなくて……」


 煌は、隼徒の耳元に口を近づける。


「なにっ……?

 俺様、ファルコン……?」


「そう。

 なんか、ちょっと燃えているような翼も見えたから、俺のスポットで間違いない」


「よっしゃっ!」


 隼徒が、両手を大きく広げて教室内でジャンプ。

 勿論、人間の姿では全く飛べないわけだが。


「まぁ……、ファルコンみたいな形に見えただけだから。

 どういう存在になるか、ソウルスポットまで行かないと分からないよ!」


「そ?

 俺様、気分はもうスーパーヒーロー!

 一日ハイテンショ~ン!」



 はぁ……。

 隼徒に言ったら、こんなことになるだろうと思ってたけどさ……。


 煌が小さくため息をつく。

 そのとき、教室に睦が入ってきた。

 隼徒が、両手を広げて睦を止める。


「むーつみー!

 いまカイザーが言ってた!

 俺様だって、正義のヒーローだって!」


「隼徒!

 そんな自慢しちゃダメだって!」


 煌が隼徒の手を引っ張る前に、睦が下を向いた。


「この学校で言うところのヒーローが、増えるんですね……」


「この学校で言うところの、って、ユー甘く考えすぎ!」


 隼徒の言葉には全く反応せず、睦は自分の席に向かった。

 そこでようやく、煌が隼徒の腕を引っ張り、教室の外に連れ出した。

 再び、耳元で告げる。



「今の睦にアルターソウルの話をしちゃダメだ」


「何で?

 睦は部員かもって言ってたの、カイザーじゃね?」


 煌は、廊下を歩く生徒たちを気にしながら、隼徒と窓際まで連れて行く。


「睦、原石を持ってたんだよ……。

 なのに、自分の力が怖いって言ってる。

 だから……、さっきのスルトの話だって、睦がいたら言えなかった」


「あぁ、そっか……。

 睦が、陽翔に絡まれる可能性があるからな」


「だから……、睦のアルターソウルが何か分かるまで、俺たちは気を付けた方がいいし……。

 できれば、睦の想いを守ってあげたいんだ」


 すっかり登校の生徒が見えなくなり、担任たちが階段を上がってきた。

 煌は階段の方を気にしながら、隼徒の腕を引っ張った。


「隼徒。

 もし本当に仲間になるんだったら、一緒に睦を守ろう。

 ロボ部の最初の目標は、それだと思う」


「できれば、部員にする。

 なーんてね!

 俺様は、カイザーの決断に従うだけだから、ロボ部では」


 隼徒は、にやけながら教室に戻っていった。



~~~~~~~~



「で、俺様のアルターソウル、どこで見れるん?」


 帰りのホームルームが終わった途端、隼徒が煌の席に近づき、学ランの裾を思い切り引っ張る。


「いてっ……。

 早まるなって!」


「いーじゃな~い!

 俺様がヒーローだって、クラスじゅう知ってるんだから!

 4時からロボ部の部室でファルコン生誕祭みたいなこと、周りにどんどん言ってやったから!」


 煌は、首を横に振りながらバッグを肩に掛ける。


「ファルコンは、たぶん俺たちにしか見えない。

 てか、隼徒が白い光に飲まれるから、外からじゃ見えないんだ」


「それ、マ?

 焦るわっ!

 20人くらい来そうだったのに、プチ謝罪しなきゃだ!」



 てか、ロボ部だとほとんど呼べないのに、隼徒のアルターソウル披露だと20人呼べるって、なんなんだ。



~~~~~~~~



 職員室にプレハブ小屋の鍵を借りに行き、煌は隼徒と二人で校庭に出る。


「なっ、間違ってなかっただろ?」


「おっしゃる通りです……」


 プレハブ小屋の前には、既に女子が20人ほど並んでいた。

 その中には、先輩ロボの模型を持って来た萌や、2年生になって他のクラスになった元1年3組の女子たちなど、明らかにクラスを超えてアピールされたとしか思えない面々もいた。

 煌が鍵を開ける横で、隼徒が大きく手を上げた。


「はーい!

 みんな、今日は俺様のためにロボ部に来てくれて、ありがとう――!

 今日が、俺様の第二の生誕祭!」



 勇斗先輩や沙羅先輩のアルターソウルを解放したときは、こんな雰囲気じゃねぇよ。

 少なくとも、イベントじゃなかったって!



「入るよ、隼徒。

 あと、部屋の中はそんなに入らないって……」


 煌は、ビクトリーヴァイキングの模型が載った机を隅に立てかける。

 それでも、20人以上集まったプレハブ小屋は、キツキツの状態だ。

 数年前なら、密がどうのとか換気がどうのとか言われるレベルだ。


「とりあえず、隼徒のやつを作って……」


 煌はスポットの前で中腰になり、ミラーストーンを白く輝くサークルに乗せる。

 瞬く間に、白い光の中にもう一つ、ミラーストーンが生まれた。

 それを、隼徒に渡す。


「えっ、もう終わり?

 ショボくね?

 ファルコンの姿、見えた?」


「これから!」


 煌は隼徒を手招き、煌の横で中腰にさせた。


「今渡したミラーストーンを、この光の上に置いてみようよ」


「そういうこと?

 じゃ、みんな! まばたきせずに見てくれよ!」



 隼徒の手とミラーストーンが、光のサークルに触れた。

 同時に、先程よりもより強い光がサークルの中から輝きだし、隼徒の体を飲み込んでいく。

 低い声が、光の中でこだました。



『燃える隼の魂を突き動かそうとする、輝いた心を持つ少年。

 いま、我が魂は、ミラーストーンのもとに解き放たれた……』



 白い光の中に、炎をまとった翼を力強く羽ばたかせる、褐色かっしょくのファルコン。

 出せる限りのスピードで隼徒に迫り、姿が一気に大きくなる。

 標的を絶対に逃がさない鋭い目を持つ、光が輝くような頭。

 炎とともにける鳥の力を、隼徒ははっきりと感じた。



「すげぇ……。

 ゼロ距離ファルコン来るんか!」


 隼徒が叫んだとき、ファルコンの姿が隼徒の視界を貫いていった。

 声が、響く。



『我が名は、フレイムファルコン。

 炎とともに空を舞い、妥協を許さぬ最速の鳥。

 いま、我が魂は、お前の魂と融合した――』



 その声が隼徒の耳からフェードアウトするとともに、眩しい光が消えていった。



「すげぇ!

 これで、俺、ヒーローだ!」



 プレハブ小屋の中で、集まった女子たちが一斉にはやし立てる。

 ミラーストーンを手にしたまま隼徒は立ち上がり、頭を撫でた。


「俺様のもう一つの姿、みんな見てくれよな!

 あれ……? みんな……?」


「どうやら、集まった女子は隼徒じゃなくてファルコンを見たかったようだね」


「そんなはずは……、ないっ!」


 隼徒は思わず煌に振り返った。

 そして、ミラーストーンをポケットにしまい、手を差し出した。



「これで、俺様はガチでロボ部決定だな。

 カイザー、今日からよろしくな!」


「うんっ!」



 煌は、白い光の余韻が残るような隼徒の手を握りしめた。

 その手が、少し熱くなっているように感じた。



~~~~~~~~



【今週のアルターソウル】


なし



【次回予告】


俺様、赤木 隼徒!

睦の趣味を聞こうと好きなことビンゴを作ったら、ビンゴできずに睦がテンション爆下げ。

推しのコンビニはあるみたいだから、悪いと思って、俺様、睦に付いて行った。

そこで睦が会いたくない奴とエンカするし、敵も出てきたし!

睦のアルターソウル、破壊の剣って言ってるし!


次回、灼熱の勇者バーニングカイザーMAX。

「破壊の剣を持った私に」

俺様のバトル、見てくれよなっ!!!!

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