第1話 炎の勇者を目の前にして③

「どうしたんだよ、睦」


 学ランの裾を引っ張ってきた睦に、きらは思わず睦の表情を見つめる。


「キラくん……。

 バーニングカイザーで戦うのって、大変ですか……?」


「大変に決まってるよ。

 負けたら、平和な日常が守れないし……」


「そうなんだ……。

 キラくんが、なんか羨ましいです」



 睦の目は、煌をじっと見つめている。

 煌も、睦から目を離せないまま、待つしかない。

 プレハブ小屋の窓が、南風でかすかに揺れた。


 睦が、口を開いた。



「私は、自分の持ってる力が怖い……」



 え……?

 いま、なんかゾクッってきたんだけど……?



「アルターソウル……?

 睦も持ってるんだ」



 煌はスポットリーダーとして、睦の持っている魂を確かめようとした。

 スポットに合った魂があれば、煌の目に見えるはずだ。

 だが、それを見ることはできなかった。



「キラくん。

 私の力、見えますか……?」


 煌は、首を横に振る。


「やっぱり、正義のヒーローだからですよね……」


「そうだからとは限らないよ。

 睦のは、このスポットとは合わない魂かも知れないし。

 それに、アルターソウルが出てくるのって、なんかこう……、感情とか想いとか……」


 初めて他人にアルターソウルを見つける方法を、煌は自分で言葉を考えながら説明する。

 当然、しどろもどろだ。

 時折、睦の表情や体の震えまで気にしていた。


 そこで、煌の目は白い光を捕らえた。


「えっ……」


 煌は言葉を止めた。

 睦のポケットから、かすかに光がこぼれていた。

 煌の目は、その光を追っていく。


 ……って、ミラーストーンの原石じゃねぇか、これ。



「ちょっと待って、睦。

 あの……、ポケットにミラーストーンの原石……、持ってない?」


「渡されたんです。

 だから、自分が怖い……」



 いやいやいやいや!

 このおとなしい転校生が、そもそも新しいスポットを作れるような存在だって、信じられないって。

 でも、本人怖がってるみたいだし……、どう接すればいいんだろ。



「早まらない方がいいし、焦らない方がいいよ。

 睦の使いたいときに……、その石で世界を作ればいい……」


 煌は睦の両肩を持とうとして、手を止めた。

 むしろ、煌のほうが焦っていることなど、本人が気付くはずもない。



「俺だって……、普通の中学生活を送りたかったかって言われたら、送りたかったって言うよ」


 煌は、プレハブ小屋に置いたばかりの光のサークルに目を落とした。

 その光は、この日も輝いていた。


 輝かざるを得なかった。



「なっ!」


 突然、プレハブ小屋の脇から人の身長ほどの大きなトウモロコシがジャンプした。

 そのトウモロコシに手足が付いて、プレハブ小屋の窓にへばりついている。


「この中学校、トウモロコシを栽培してるんですね」


「栽培してないって!

 てか……」


 校庭の中央に、巨大な女神が舞い降り、プレハブ小屋を睨みつけていた。

 サッカー部員や野球部員が、降り立った足で投げ飛ばされる。



『地面と大地をけがすことなど許しません。

 栽培の女神、マザーデメテルのもとにひざまずきなさい!』



「こっちこそ……、学校で悪さすることなんて、許さない!」


 煌は、学ランのポケットからミラーストーンを取り出し、窓から差し込む太陽の光にかざした。



「アルターソウル、解放リベレーション!」



 ミラーストーンが眩しい光に包まれ、その光に向かって煌が叫ぶ。



「バーニングカイザー! ゴオオオオオオ・ファイアアアアアアア!!!!」



 ミラーストーンの眩しい光が反射した方向へ、煌の体が吸い込まれた。

 光の中から、バーニングカイザーのシルエットが現れ、煌の目の前に迫る。

 その胸に描かれた炎のエンブレムに、煌の体が正面から衝突。

 同時に、金属のようなものに体が突き上げられた。



「ソウルアップ・コンプリート!」



 熱き心を胸に燃やし 輝く炎のエンブレム

 拳に勇気の火をまとい 燃えるやいばで悪を斬る

 燃え上がるは正義の魂 炎の皇帝、ここに立つ!



「灼熱の勇者、バーニングカイザー!」



 草のような髪を生やすマザーデメテルと、校庭に力強く降り立ったバーニングカイザーが対峙する。

 マザーデメテルの口が、静かに開く。


「無数の我が子を前に、押しつぶされなさい!」


 マザーデメテルの指示のもと、いつ植えたか分からないような無数のトウモロコシが地中から吐き出され、寄ってたかってバーニングカイザーにジャンプする。


「学校は、お前らの畑じゃねええええええええ!」


 炎のエンブレムが描かれた胸の内部で起こる、核融合。

 そのエネルギーが、両腕を一気に駆け抜けていく。


「フレイム……、フィンガアアアアアアア!」


 煌の叫びとともに激しく燃え上がる、バーニングカイザーの両手。

 体当たりしてくる巨大トウモロコシを、熱き手で掴み取る。

 瞬く間に、バーニングカイザーの手の中で、生きたトウモロコシが灰へと変わっていく。



「こんなあっさり焼いてしまうの!」


 熱と炎で次々と焼かれ続ける子供・・を、両手の拳を丸めて見つめるマザーデメテル。

 一度、校庭の土を強く踏みつけた。


「サンドストーム!」


「なんだ……っ!」


 校庭の中央で巨大な竜巻が起こり、バーニングカイザーへと迫る。

 間近で解き放たれた攻撃に、一瞬の判断しかできない。


「よけるしかねぇ!」


 竜巻をジャンプでよけたバーニングカイザー。

 すぐに体の向きを、竜巻が向かったほうに向ける。


「避難した生徒が、みんなあっちにいる!」


 バーニングカイザーが両肩に力を入れ、両肩に刻まれた三つの発射口を熱く燃やした。


「フレイム……、バスタアアアアアアア!」


 左右の発射口から同時に解き放たれた火炎砲。

 激しく燃える炎の一撃が、巨大な砂嵐を猛追する。

 炎がぶつかった砂嵐が音を上げて、四方に分散した。


「今度は、こっちの番だ!」


 体の向きをマザーデメテルに戻すバーニングカイザー。

 右手を前に伸ばし、指を軽く丸めた。

 煌の声が、空気を裂く。


「バーニングソード! ブレイズアップ!」


 バーニングカイザーの左腕を覆う、先の尖った四重の装甲、そして金色のつば

 格納された柄とともに、肩から前に押し出される。

 四重の装甲が、燃え上がるように1段1段前に伸び、1本の長い剣が出現。

 カーブを描きながら、柄がバーニングカイザーの右手に吸い込まれ、炎に満ちたその手でがっしりと掴む。


「燃え上がれえええええええ!」


 手に宿った熱で、鍔から上がる激しい炎。

 あっという間に、バーニングソードのブレードを炎で包みこんだ。


「もう一度食い止めなさい!」


 マザーデメテルが、巨大トウモロコシを地上に再び突き上げた。

 だが、燃える剣を持つ皇帝は、足裏のブースターを噴射させトウモロコシを蹴散らし、一気に本体に迫る。


「バースト……、ブレイカアアアアアアアアア!」


 力強い叫びとともに、炎が唸りを上げるバーニングソード。

 両手でがっしりと構えたバーニングカイザーが、一気にマザーデメテルに迫る。

 激しく燃える剣が、正面からその体を真っ二つ!


「大地は、焼かれるのですか……!」


 斬り裂かれた体に、一気に火が回る。

 そして、激しい爆音を立てて、マザーデメテルの体が砕け散った!


 バーニングカイザーが、爆発した相手に剣先を降ろす。

 剣の炎は、まだ燃え上がっていた。



~~~~~~~~



 白い光がロボ部の部室に輝き、戦いを終えた煌が戻ってきた。

 すぐに異変に気が付く。


「あれ……、睦……」


 プレハブ小屋のドアを開けて体を乗り出すも、濃い茶髪の女子の姿は見えなかった。


「踏まれたはずなかったと思うけど……」


 煌は、自分の目で校庭の端から端まで見渡した。

 睦のような体格の女子が、校門から出ていくところだった。


「まぁ……、俺のこと気になってたし、バーニングカイザーのバトルを見て満足したのかな。

 てか、睦は何の力を持ってるんだ……」



 時同じくして、睦は校門の前で立ち止まる。


「強い……。

 思っていた以上に、バーニングカイザーは強い……」


 睦は、ロボ部のプレハブ小屋をもう一度だけ見た。

 そして、首を横に振った。


「こんな強敵に立ち向かうために、力を使うことになる……」


 睦は、静かに歩き出した。

 その睦の脳裏に、ミラーストーンを渡した人物の声が蘇る。



――君には、この戦いを終わらせる力がある。



~~~~~~~~



【今週のアルターソウル】


マザーデメテル

 ギリシア神話に登場する栽培の女神が巨大化した姿。

 地面からトウモロコシを出すなど、敵の足元を狙う攻撃が得意。



【次回予告】


俺、神門 煌!

ロボ部の仮入部に、1年生が来ない!

来たのは、2年生の陽翔はると。北欧神話の炎の巨人・スルトの魂を持っている。

でも、新しいヒーローになりたいとか、バーニングカイザーは弱いとか言ってくるんだ。

そんな奴と、仲間になりたくなんかない!


次回、灼熱の勇者バーニングカイザーMAX。

「ぶつかり合った二つの正義」

平和な世界へ、ゴオオオオオオ・ファイアアアアアアア!!!!

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