第2話 しぼんでしまった紙風船

 白い天井を見上げながら、美々みみは、しばらく、このうりを落とさないように、姿勢正しくしていなければと思っていた。

 この空気でできた瓜は、何だろう?

 すいかほど大きくはない。マスクメロンのような手触りでもない。

 きゅうりほど細くはない。

 もちろんかぼちゃでもない。

 大きさからいうと小玉すいかぐらいだろうけれど、なかみが白い小玉すいかなんかあった?

 それとも、なかには、もっといろいろな色が混ざらずに詰まっている?

 赤も青も黄色も焦げ茶色も黒も水色も肌色も。

 ジェラートみたいに。

 その瓜を抱いているのが美々の役割だ。

 守っているのが役割。

 だから、体を動かしてはいけないということはないけれど、瓜を落とすようなことはしてはいけない。

 瓜が割れるから。

 たいせつな瓜が体から離れてしまうから。

 そう思ったとき、美々はおなかの上で手を組んでいた。

 右手と左手、それぞれの指に、別の指の感触がある。

 この感覚も「くすぐったい」といううちに入るのかな?

 紙風船のよう……。

 手を組んでいる、ということは、美々は瓜をつぶしてしまった。

 割れたのは感じなかった。

 紙風船から空気を抜くように、しぼませてしまったのだ。

 紙風船なら、なかにいろいろな色が混じっていたのも自然だ。

 むせるようにしつこいフレグランスが入っていたのも、この紙風船。

 紙風船の瓜がしぼんでしまったのなら、もう、左右の均整を崩さずに上を向き続けている必要もない。

 ソファのひじけに載せていた膝を動かして、美々は体を起こした。

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