8. 屋敷探検②






2階は1階と同じで、階段を囲むように扉が並んでいる。

先ほどと同じように、私の客間の上にある部屋から時計回りに案内してくれるみたい。


セーズさんが扉を開くと、何人かのメイドさんがいた。

何やら机に向かってカリカリと記入している。

机は1つだけじゃなくていくつかあり、各々が好きなところで作業してるみたい。

それに今気づいたんだけど、それぞれのメイドさんで制服が違うみたい。


「ここは使用人の仕事部屋です。ここで事務処理や簡単な裁縫を行ったりもするんですよ。使用人の部屋には机がありませんから、ここが唯一書き物をできる場所なんです」


「ねぇ、なんでみんな着てる服が違うの?」


メイドさんたちは集中しているので、一度部屋を出てセーズさんに聞く。


「そういえば説明がまだでしたね。うちの屋敷では、就いてる役職ごとに服装が違うのですよ」


そもそもメイドといっても、いろんな職種があるらしい。

ハウスメイド、パーラーメイド、レディーズメイド、キッチンメイド、ランドリーメイド、メイド長って種類があるんだって。

で、それに応じて制服が違うんだと。

意外と奥が深いんだねぇ。

ちなみにリリちゃんは元々ハウスメイドで、レディーズメイドに昇格したらしい。



次はその隣の部屋だ。

この部屋を、これからは私が使うことになるらしい。

2ヶ月だけだけどね。


ここはアルが結婚した時の奥さんの部屋になる予定らしい。

今んとこは全くその予定はないので、安心だ。

客間に似た間取りだけど、家具だったりが薄ピンクでめちゃくちゃ可愛い。

この部屋整えた人センス良すぎるわ。

少なくともアルではないと思う。


それに裏庭が見える窓があって、それがあまりにも最高すぎる。

窓を開けて庭を眺めると、右奥の方には温室のような建物がある。

周りは木々が聳え立っているが、左奥にはぽっかりと穴が空いている。


「ねぇあの左奥にあるぽっかりした空間って何があるの?」


「あそこは訓練場です。まぁ訓練場といっても、何か設備があるわけではなくただの更地ですが......

旦那様はストレスが溜まると、ピアノか訓練に長時間没頭なさるのですよ」


なるほど、運動場的な感じかな?

裏庭が綺麗だから、荒らされなくて何よりだ。

なんかめちゃ強いらしいし。


この部屋も隣に使用人部屋があって、リリちゃんが常駐することになるらしい。


お次はアルの部屋だ。

応接間のちょうど上にある部屋で、半円形のテラスまである。

ここも寝室とリビングで分かれてるんだけど、客間よりかなり広めだ。

アルの髪色そっくりな濃紺の家具が所々に配置されていて、白と木の色と調和している。

センスいいな。

アルの部屋は入っちゃダメらしいので、寝室までは見れなかった。

隠し部屋とかありそうだってばよ......


次は右側の部屋だ。

厨房の上にある部屋は書庫だった。

この部屋は天窓が一つあるだけで、少し薄暗い。

本好きには最高の空間だ。

座り心地の良さそうな一人がけのソファが2脚あり、壁際には机が二つ置いてある。

あとは全部本棚だ。

本好きな私には最高の空間だ。

そう思いながら本を眺めていると、私は最悪の事実に今更ながら気づいた。


「セーズさん.......私、文字読めないかも.......」


震える声でそう言う。

そういえば、私ずっと日本語話してるのになんで通じてんのさ!

今思い返すと、日本語で話しかけられたことなんて一度もない。

おそらくこの国の言語で話しかけられているのに、通じてる。

ドン引きとか、意訳までされてるし。


入試まであと2ヶ月なのに、読み書きすら出来ないってやばすぎるよね.......

どうしようどうしようどうしようああああああ


「アカリ様、大丈夫です。心配だとは思いますが、今日はとにかく休んで、明日から勉強頑張りましょう。」


セーズさんの微笑みに癒される〜。

セーズさんは私のカミングアウトに動じる様子も見せず、励ましてくれた。

確かに今から出来ることなんて勉強くらいだし、選択肢は残されてないんだよね......

「私、学園行きます」とか言っちゃったし。

この3日間鬼畜マナー講座で勉強づけだったし、最後の休日だと思って屋敷探検楽しむかぁ。

てかそうさせて。今日だけは現実逃避したい。


「セーズさん、ありがとう。最後の部屋はアルの書斎?」


「そして私の仕事場でもあります」


そういって、書庫にあるもう一つの扉を開くと、厳かな雰囲気の部屋があった。

大きな机が二つあって、真ん中にはソファとミニテーブルが置いてある。

内密の話とかはここでするらしい。

それから書庫もそうだったんだけど、この部屋もカーペットが敷いてある。

まぁこの屋敷の素材だとコツコツうるさいもんね。


アルは騎士団の仕事でほとんど外にいるから、大体の書類仕事はセーズさんが請け負ってるらしい。

二人とも本当に忙しいんだね......

もちろんセーズさんだけじゃなくて、メイド長とも協力して仕事をこなしてるんだって。

そいえばメイド長会ったことないや。


「私、メイド長とか会ったことない気がする」


「メイド長は良い方ではあるんですが、初めは少し怖い印象を与えてしまうタチでして.......

混乱してるであろうアカリ様に引き合わせるのは時期尚早だと判断し、本日までご挨拶を控えていたんです」


めっちゃ気遣われてる......!

私が客間から出ずに食事をしていたのも、下手に刺激しないようにするためだったらしい。

いや過保護か。ありがてぇです。

みんなの気遣いのおかげで、取り敢えず持ち直したわけだしね。


「そうだったんだ......ありがとう。アルとリリちゃんにもお礼言わなきゃね」


「フフ、お二人ともきっと喜んでくださいますよ。メイド長はまだ買い出し中のようなので、後ほど挨拶に伺わせます」


私はコクリと頷き、書庫を出た。

次はいよいよ屋根裏だ!




✳︎ ✳︎




3階は使用人の部屋が集まってるらしい。

地下同様、階段を挟むように扉が並んでいる。

全部で10部屋、かな?

2人1部屋で、全部で18人が住んでるんだとさ。

いや20人じゃないの?って思ったんだけど、裏庭に面している2つの角部屋はセーズさんとメイド長が1人で使ってるらしい。


セーズさんの部屋見せてもらったけど、めっちゃシンプルだった。

天井は屋根裏らしく傾いてて、そこにベットが収まってる。

オープンクローゼットにかかっているスーツに、タンス。

あとは机と椅子だけ。

自由にカスタムできるらしいんだけど、興味ないって。

仕事人なセーズさんらしい。


他の部屋は毎年1回、じゃんけんで部屋替えがある。

セーズさんたち2人の部屋と、それぞれの列の真ん中の部屋だけ普通の窓がついてるから真ん中の部屋はとっても人気らしい。

残りは小さな明かり取りの窓しかないから争奪戦なんだとさ。

ちょっと覗いたけど、普通のメイド部屋は狭かった。

2段ベッドに、机が2つと棚が1つ。

綺麗だし、劣悪ってわけではないんだけど、狭すぎて頭おかしくなりそう。

でもセーズさんによると、これが普通どころかめっちゃいい方だって。

カルチャーショックだわさ.......



「これで全部見終わりましたね。そうだ、裏庭に馬小屋と洗濯小屋、温室があるのですが見に行きますか?」


セーズさんがなんでもない風に言うので、無理矢理飲み込む。

屋敷に隠し部屋はなかったけど、一応全部見て回りたいな。

長くデートできるしね。うひひ。


ニヨニヨしてもセーズさんが華麗なるスルースキルを発動してくるので、ちょっと恥ずかしい。


1階についた私たちは、応接間を通って裏庭に出た。

上から見ても綺麗だったけど、こうして見てもとっても綺麗だ。

庭師の仕事がいいんだろうな。


左手には馬小屋があって、馬が3頭とその世話をしている人がいた。

めちゃ集中してるし、あとで挨拶する時間も取ってくれるみたいだから今はそっとしておこう。


右手には煙がもくもく出ている大きめの小屋がある。

ここで全員分の洗濯をしているらしい。

魔法があるから多少は楽みたいだけど、毎日20人くらい洗濯するってえぐいよなぁ。

今ちょうど洗濯中で、入っても煙であんまり見えないらしいのでここもスルー。


そのまま少し奥に入ると、綺麗な温室が出てきた。


「貴族にはその一族を象徴する花があり、その花だけは一年中飾っておかないといけないんです。来客があった際に飾られていないと、とても恥ずかしいとされるんですよ」


紋章もその花を象ったものらしい。

ジークハイド家の花は『ダリア』なんだって。

翻訳機能が意訳してくれたんだろな。

.......もしかして私のチートって翻訳だったりする?

いや、今は考えないでおこ。


温室の中には色とりどりの花が咲いている。

これがダリアかぁ。丸っこい感じで可愛い。

いくら気温の起伏が少ないといっても、それなりに寒くなったりするので温室で育てるのは必須らしい。


「でも象徴する花って誰が決めたの?」


「それはもちろん国王陛下ですよ」


ダリアのいい匂いに包まれながら、セーズさんはその後もいろんなことを教えてくれた。

使用人のトイレは地下の使用人ホールにあって、お風呂は浴びずに井戸の水で清めるらしい。

たまに大衆浴場行くんだって。


あとこの温室を管理しているのは、ドワーフ。

ドワーフ族は鍛治が得意なんだけど、ここの世話してるオーリさんは花が大好きだったから馴染めなかったみたい。

それで故郷を出たは良いものの、世間知らずだったオーリさんは詐欺師に騙されて行き倒れ寸前だった。

そこにたまたまアルが通って、拾われたらしい。

この屋敷は私と似た境遇の人が多いみたい。

アルの運どうなってんのよ。


だから私が来た時も、セーズさん以外は「また来たか......」くらいにしか思わなかったって。

セーズさんは責任者として、事の詳細をちゃんと聞かないといけないもんね。


オーリさんは今料理長とメイド長と3人で買い出しに行ってるんだと。


「おっと、みなさん帰ってきたようですね。旦那様も一緒です」


いやタイミング良すぎだろ






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週間ランキングで1312位になっていました!!!

いや4桁やろがいって感じですが、数多くの物語が投稿されてる中で数字がついたと言う事実がめちゃんこ嬉しいです滝涙


あわよくばこのまま1位になっちゃったりしちゃいたいので、是非評価☆・⊂( ・ω・)⊃ の絵文字で応援お願いいたします!!!!!!!

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