6. 退城
「私、学園に行きます」
それを聞いた王様は嬉しそうに体を揺らす。
「ハハハッ、決断が早くて何よりだ。そうと決まれば時間が勿体ないのでな、明日より教師を派遣するとしよう。それでいいな、アル」
「はっ、お気遣い感謝いたします」
「うむ。では話も纏まったところで......アカリよ、アルからある程度のことは聞いているが、改めて話を聞かせてくれんかの?」
私は王様に聞かれるままに今までのことを話した。
地球という星の日本という国から転移したこと。
2ヶ月後には高校に入学だったのに、寝て起きたら裸で倒れていたこと。
そこをアルに保護されていろいろ世話を焼いてもらったこと。
話していると、やっぱり寂しくて涙が滲みそうになる。
「.......この世界に転移する直前、何らかの干渉はなかったか?」
真正面にいる王様は多分気づいてるけど、見て見ぬふりをして質問をする。
そういえば、よくある神様とか女神様とかに会ってチートもらうとか無かったな。
チート欲しかった......
「いえ、特にそういうことは無かったです。いつも通りに寝て起きたら路地にいました」
「そうか......サイ」
「はい、既に調査を開始しております」
「あの、調査って......?」
王様はそうだったという風に手を叩き、説明してくれた。
「アルから報告を受けた後、王族のみが閲覧可能な文献を漁ってみたのだ。そこに残っている情報によると、全ての稀人が神のような存在と出会い、何かしらの恩恵を受けている。それに殆どの稀人が転生で、転移はごく少数。アカリは極めて特殊な状態なのだよ」
「えっと、裸で転移したっていうのも特殊なんでしょうか?」
「いや、転移した稀人は全員裸だったとの記述が残っている。異世界の物質はこちらへ持ってこれないんだろう」
いやデフォルトなのかよ!
とはいえ、寝て起きたら異世界転移☆はかなり特異なようだ。
それに今までの稀人は、誰かに拾われるということもなく、自力で適応してらしい。
カミングアウトもごく少数の信頼できる人だけか、亡くなる直前が多かったので、最初から稀人だと判明しているのは初めてっぽい。
それで学園に通わせて、この国に留めさせようっていう魂胆かな?
王政ぽいし、忠誠心の教育?みたいのもありそうだもんね。
まぁ私からしても、学校に通うのは願ってもない話だから全然いいけどね。
もともと稀人の研究機関があったみたいなんだけど、全然こないし手記の解読難しすぎて年々規模が縮小されてたみたい。
今まで分かってる情報は、ほとんどが伝聞か稀人と親しかった人による手記から解明したもの。
稀人本人の手記はほぼお手上げ状態なんだけど、私が来たことでちょっと規模が大きくなるみたい。
(私が解読できるかもって思われてるっぽい)
「そういう訳で、アカリには学校に通いつつ調査も手伝って欲しいのだが、やってくれるか?」
うん、まぁ王様のお願いなんて普通断れるはずもなし。
それに稀人の手記っていうのも気になるし、調べてく内に帰る方法とかも書かれてるかも!
「はい、私でよければ......ただ入試までの2ヶ月間は勉強に集中したいので、入学後でもいいですか?」
「おぉ、もちろんだ。そうだな、慣れる時間も必要だろうから5ヶ月後はどうだ?」
そういえばこの国、暦は地球とほぼ変わんないだよな。
1ヶ月30日(年間360日)で時間や日の数え方も一緒。
四季はあるが、起伏はあまり無いらしく2月の今もそこまで寒くはない。
日本の四季が懐かしくはあるけど、だからこそ裸でも無事だったんだろう。
「はい、それでお願いします」
「詳細は日が近くなってから、私からご連絡しますね」
最初、陛下とのやり取りとは?って思ってたけど、サイとは長い付き合いになりそうだ。
「うん、サイありがと」
「うむ、ワシが聞きたいのはこれくらいだの。アカリは何か聞いておきたいことはあるかな?」
あれ、私が脅威にならないかとか聞かなくて大丈夫なのかな。
「あの、アルからは私が国の脅威にならないかを見極めるための謁見と聞いていたのですが、そのような質問は無かったように思いました。私は陛下のお眼鏡に適ったということなんでしょうか?」
「ワシは王族として、人を見る眼には自信がある。アカリよ、主の瞳は気持ちが良いくらいに澄んでいる。尋問なぞしなくとも分かる。それに、アカリにはこの国を気に入ってもらいたいしの」
王様はワハハと笑った後、そう言ってウインクしてきた。
意外と可愛い人だ。
「そうですか、それを聞いて安心しました」
私はホッと息をつくと、そう言った。
「ではこれからは口裏合わせといこうかの」
誰彼お構いなしに私のことを異世界出身と言う訳にはいかないので、取り敢えずアルの遠い親戚が家族を事故で亡くして身寄りを寄せているという設定になった。
まぁもっかい会える可能性は限りなく低いから、事実とも言える。ぐすん。
アルは異国の地から一人流れ着いたらしいので、特に違和感なく受け入れられるだろうってさ。
あと名字。学園では聞かれることはないものの、入学書類には必ず記載されるので決めないとダメみたい。
特にこだわりはないので、みんなにお任せすることにした。
それから、事実を知る人物の選定だ。
ここにいる王様・サイ・アル・セーズさん・リリちゃんは事実を知っているが、この人数だと動ける範囲も限られてくる。
ということで、新たに宰相と騎士団の総団長、ミネル学園の学長と研究機関の人が追加されることになった。
研究機関って聞くと多そうだけど、今は2人しかいないみたい。
全然知らない人ばかりなので、ここら辺もお任せだ。
満場一致で決まったので、それぞれ信頼があるんだろう。
あとは臨機応変に判断しろって感じ。
私は優柔不断だからクヨクヨ悩んでる内に寿命迎えそうだよ。
「ふむ、これくらいかの」
「えぇ、そろそろ公務の時間が迫っていますので、このくらいで」
サイって親衛隊というより秘書みたいだよなぁ。
私と同い年くらいに見えるのに、優秀なんだな。
「では今日はこのくらいでお開きにしよう。次に会う時が楽しみだな」
「本日は貴重なお時間を割いていただき、心より御礼申し上げます。王国の偉大なる守護神の加護が続きますように」
王様がそう言って立ち上がったので、私も慌てて立ち上がり付け焼き刃のカーテシーを披露する。
「ワハハ、そう畏まるな。ではな」
王様は私の横まで歩み寄り、肩に手を置きそう言うとサイと共に去っていった。
「騎士団総副団長様、アカリ様はこちらへ」
扉の外にはいつの間にか使用人らしき人が立っていた。
城の外まで案内してくれるみたい。
ていうかあの人部屋の中にいた人だよね、いつの間に捌けてたの?
私思ったより緊張してたんだな。
私たちはそのまま使用人についていき、帰路についたのだった。
✳︎ ✳︎
「ふぁ〜!緊張したぁ」
「ご立派でしたよ」
セーズさんの微笑みが沁みる......
「アカリ様っ、果実水はいかがですかっ」
「確かに喉乾いたかも。リリちゃんお願いできる?」
「はいっすぐにお出ししますねっ」
そう言われてすぐに出てきた果実水は、一見普通の水に見える。
よく冷えたそれを口に含むと、ほんのり甘い果物の香りが鼻を抜けて美味しい。
日本のより自然な味で、こっちの方が好きかも。
「リリちゃん、これ美味しい!ありがとね」
「これっ実は私が作ったんですっ。お気に召したようでなによりですっ」
リリちゃんは頬を染めて嬉しそうにしてる。
犬耳がピコピコと動き、髪はふわふわ揺れて可愛い。撫で回したい。
ある程度落ち着いた時、ずっと黙っていたアルが口を開いた。
「今日話した通りだが、これからは俺と家族になる。何かあればすぐに頼るといい」
それはありがたいんだけどさ、ずっと気になってたことがあるんだよね。
「アル、ありがとう。お世話になります。だけどさ、なんでそこまでしてくれるの?やっぱり稀人だからってこと?」
アルは少し迷うように腕を組んでいたが、ずっと待っていると観念したように話し出した。
「勿論、稀人だというのも理由の一つだ。どっちにしろ誰かが保護しなければならないしな。だが俺もこの国に流れ着き、拾われた恩があるんだ。この国に住み始めてまだ5年くらいだが......その恩返しをしたいと思うのは自然なことだろ」
なーるほど。私と昔の自分を重ねてたって訳だ。
ちょっと照れ臭そうに話すから、思わず口角が上がる。
「あいだっ!?」
「気持ち悪い笑みを浮かべるな」
ニヨニヨしてたら怒られた。ぴえん。
「俺はまだ仕事が残っているから出るが、セーズは残るから屋敷の中を案内してもらえ。まだ客間しか知らないだろ。迷子になられても困るからな」
アルさん優しいやん。っと、またニヨニヨしてたら怒られるので、慌てて顔を引き締める。
「アカリ様、顔が面白いことになってますよ」
するとセーズさんがククッと笑ってそう言ってきた。
声だして笑うの初めて見た。いつもかっこいいけど、なんか幼くて可愛い。
「セーズさん、結婚しましょう」
「フフフ、私はもう執事という仕事と結婚しているのですよ」
セーズさんはあっという間に執事モードに戻って、サラリとかわしてきた。
ちぇっ。
でも屋敷探検か。楽しみだ!
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