5. 入城②
リリちゃんに顔がゲスいと言われてしまった私は、かなり落ち込んでいた。
私にケモミミがあったら、しなりと垂れていただろう。
クスクス
そんな私を太陽のような笑みが包み込んでくれたのは、サイだ。
あ、私のこと好き?偶然だね、私も好きだよ。
※誇大表現が含まれています
「アカリ様は面白いですね。このような方とは初めて出会いました」
あぁ、結婚しよう。
「アカリ様......」
リリちゃん、そんな目で見ないで!悲しいから!
ーー彼女とは、私が大号泣したあの日から距離が縮まったように思う。ちょっと恥ずかしいけど、仲良くなれたから結果オーライだ。
「もうそろそろ応接間に着きます。部屋には軽食もご用意しているので、お好きに召し上がってください。私は皆さんを送り届けた後、陛下を呼んでまいります」
軽食!ここのご飯は結構私の口に合うので、楽しみだ。
まぁ和食はものすごく恋しいけど。
そうこうしている内に、吹き抜けのような場所に着いた。
真ん中に大きな螺旋階段があり、天井から刺す光も相まって幻想的だ。
廊下も今いる場所も全部真っ白でつるりとしているのに、よく見ると紋様が刻まれているので眺めるのが楽しい。
背景が白のせいか、遠くから見ると調度品が浮いているようだ。
それに、いくつかの扉がとんでもなく大きくて天井に届きそう。
私たちは、そのうち右側にある扉の前にきた。
「アカリ様、失礼いたします」
サイは私の手を離すと、扉に近づき手を当てた。
そしてスゥッと短く呼吸を整えると、口を開いた。
『開け』
瞬間、ブワァッとサイを取り巻くように光が立ち上り、扉がズズズと開き始めた。
既にサイは扉に当たらないように飛びのいている。
身のこなし軽すぎ。異世界すご。
「ねぇこれも魔法なの?」
「いえ、これは『ギミック』というものです。オールドファクトは今の技術では作ることの出来ない遺産ですが、そういった物には大抵仕掛けが施されているんです。魔力を媒介に発動するものが主ですね」
「緊急時はどうするの?」
「そのような場合は、部屋に繋がっている伝声菅を使用します。伝声室と部屋の前、どちらからでも使用できますよ。緊急時でなくても、ちょっとした文言を伝えるときに使ったりします。」
地球では厨二病と勘違いされるワードに胸が高鳴る。
この世界、もう好きかも。
サイはそのままスマートにエスコートを終えると、颯爽と去ってしまった。
かっこかわいい。
応接間も白が基調になっており、ソファやミニテーブルなどの家具やよく分からん壺、多分王族の肖像画がある。
家具とかの色はなんか薄い?けど、それが白の壁や床と調和してホテルみたい。
ミニテーブルにはサイの言った通り、一口サイズの軽食やケーキが乗っている。アフヌンみたいで可愛い。
セーズさんの鬼畜マナー講座で教わったが、こういう場合は主が来る前に手をつけた方が良いんだそう。
あなたのことを信頼していますよというアピールになるんだって。
そういうことなら遠慮なく頂こう。
そろそろお昼時なので、小腹が空いてきた頃だ。
まずはパイのような物を頬張る。
あこれ、惣菜パンだ。こっちにもその概念あるんだ。
甘辛いタレに包まれたホロホロのお肉がパイ生地によく絡んで美味しい。
これレシピ教えて欲しい。
次はデザートを食べてみるか。
手元にあるフォークで小さなケーキを口に放り込む。
滑らかな生クリームと酸味のあるフルーツ、ふわふわのシフォンが美味い!美味い!美味い!
誰が◯獄さんや。
私が軽食を楽しんでいると、伝声菅から声がした。
「アカリ様、国王陛下がお見えです」
私は慌ててソファから飛び上がると、扉の近くまで行き膝を折る。
いわゆるカーテシーだ。
付け焼き刃だけど、綺麗に見えることを祈ろう。
ズズズ
扉が開いている。やばい緊張してきた。何聞かれるんだろ。
目も伏せているので、どこに王様がいるのか分からない。
手汗が滲む。この時間早く終われ〜!と思っていると
「おぉ、この子が例の子か」
と野太い声が聞こえてきた。私がチラリと前を見ると、大きなおじいちゃんがいた。
その後ろにはアルとセーズさん、サイもいる。
セーズさんが小さく立っていいよとジャスチャーしてくれたので、私は一度顔をあげ、練習した挨拶をする。
「アレシア王国の偉大なる守護神にご挨拶申し上げます。木下燈と申します。本日はお時間頂き、恐悦至極に存じます」
王様はかなり高齢のようではあるが、服の上からでも分かるムキムキの筋肉で覆われていた。
後でかい。それに覇気というか生命力に溢れてて、迫力のあるおじいちゃんだ。
紫の髪に白髪が混じっていて、でもそれがかっこいい。
灰色の瞳は鋭く光っていて、ライオンのようだ。
めっちゃ元気そう。
「良い良い、非公式の場だ。それに稀人なのだ。堅苦しいのは疲れるだけだろう」
この人地球人のことをよく分かってらっしゃる。
促されるままにソファに腰掛け、王様と対面する。
アルとセーズさんは私の後ろに留まり、王様にはサイが控える。
私がソワソワしていると、王様は口を開いた。
「アカリ、この世界はどうかな?」
「あ......まだ分からないことだらけですが、優しい人ばっかりで好きになれそうです」
「そうか、それはよかった。ところでアカリよ、主は向こうの世界で学生だったと聞いた。
こちらの学園に通う気はないか?」
王様は優しく微笑みながら、そう言ったのだった。
「その学園というのは、どういったところなんですか?」
「アルお主、まだ説明しとらんのか」
「すみません、根回しがあったもので中々時間が取れず......」
王様はびっくりした顔でそう言うと、私に説明してくれた。
学園、正式名称は王立ミネル高等学園。やっと知れたよ......
この国を作ったとされる女神の名前らしい。
名前の通り王国が設立した完全寮の学校で、15歳から4年間通うことになる。
身分に関係なく通うことができ、授業料なども税金に加えOBOGからの支援があるため、ほぼ掛からないんだそう。
最初の1年間は体力作りや基本的な学力向上が目的で、残りの3年は戦闘学部、商業学部、論理学部の3つに分かれて専門的に学ぶらしい。
それぞれの学部には学科があり、例えば戦闘学部は冒険者学科、士官学科、騎士学科がある。
ただ入試が厄介で、筆記試験と実技試験、面接をクリアしなければならない。
ほぼ無料で通うことのできるため平民の応募が毎年殺到するんだそうで、倍率がとんでもないらしい。
筆記では振るわなくても、実技で実力や可能性を見せると合格する場合もあるらしく、平民、特に生活の貧しい者には一発逆転の賭けなんだろう。
他の領にも学校はあるが、学園と名のつく学校は王立ミネル高等学園のみで、ここに入れば一生安泰と言われている。
「だからみんな学園としか言わないんですね」
「あぁ、我が国で最高峰の教育を受けられると自負しておる。教員も生徒も優秀なんでの。突然この世界にきて混乱しているだろうが、学園に通い、知識や生き抜く力を身に付ければ、やりたいことも見つかると思ってな」
気前よすぎ......国王ってみんなこうなの?
「アカリよ、今すぐに決めなくとも良い。もし入りたいと願うのならば、すぐに教師を派遣しよう。せっかくこの国へ来てくれたのだ。それくらいはせんとな。だが、入学は自分の力で掴み取るんだ。主なら出来る」
ちなみに入試は2ヶ月後らしい。大丈夫かな......
けど、心はもう決まってる。
「陛下のお心遣い、誠にありがとうございます。私、学園に行きます」
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