2. ファンタジー
「家、ですか」
「その格好で行けるところと言ったら、俺の実家くらいだ。すまんな」
初対面で家はちょっと怖いけど、確かに裸マントで行ける場所なんて限られてる。
ケモミミ男に頼るしかなさそう。
「じゃあ、お願いします?」
「任された。あぁ、言いそびれてたが俺の名前はアルだ。どのくらいの付き合いになるか分からんが、よろしくな。
タメ口でいいぞ」
さっきの視線に気圧されて敬語になってた。
いや初対面なんだから敬語が当たり前か、寝起きの頭じゃそこまで考えられなかった。
「アルね、よろしく。私は
「アカリが名前か?よし、じゃあそろそろ行くぞ。立てるか?」
私は頷くと、よいこらせと立ち上がった。ちょっと足が痺れた。
ほぼ同時にアルも立ち上がる。
座っている時は気づかなかったが、背が高いし体に厚みがある。
つまりは迫力がある。
この図体が一緒なら、変な虫は寄り付かなそう。
私は裸なので当然裸足だが、おぶってくれる甲斐性はないようだ。
心配してくれてるのは伝わるけど、多分付き合ったことないんだな。
と失礼な分析しながら歩いてると、突然目に光が突き刺さった。
その瞬間遠くにあった喧騒が、鼓膜を叩いてくる。
出店のようなものが横一面に立ち並び、呼び込みの声が競うように聞こえてくる。
食べ物がほとんどだが、目を凝らすと小物を売っているらしい屋台もちらほらと見える。
それに頭がカラフルだ。ケモミミもいる。ほんとに異世界なんだなぁ。
「うわっ、すごい喧騒」
「あぁ、あの路地はちょっと特殊でな。すまない、びっくりさせたか?」
「いや、おかげで完全に目が覚めた。ありがと。
それで家はどこなの?」
「あっちに馬車があるから、そこまで歩くぞ!」
喧騒に負けじと声を張るが、それでも聞こえづらい。
それに、この人だかりじゃ足踏まれそう。爪先立ちなうだけど、絶対痛いよ。ただでさえマントの前がはだけないように、必死に抑えてるってのに。
「ねえ!足踏まれそう!」
アルが少し苛立ったように振り返る。
人だかりは得意じゃないみたい。
「あぁ!?じゃあ抱えていく!それでいいな!」
「ぅわっっっ!!」
アルは言いながらズカズカと人混みを掻き分け、私の腰に手を回し一瞬で抱え上げた。
片手肩車のような体勢で、人より頭突き抜けた私の目は周りがよく見える。
「わぁ〜海外映画で出てきそう。綺麗〜」
キョロキョロと見渡したところ、多分この街は扇形だ。
大きく緩やかな丘の中腹より上の方に、白亜の城が建っていて緑によく映える。
その下には白い家が秩序正しく並んでいる。多分貴族の家だ。
そして、グラデーションを描くように今いるこの街まで雑多な色が増えている。
肩の上で揺られながら、お上りさんのような気持ちでいると
「おい、アカリ!もうすぐ着くからな!あとちょっとの我慢だ!」
その大声に視線を元に戻すと、いつの間にか白が多くなっていた。
食べ物の匂いから獣の匂いが強くなっていく。
少し見渡すと小綺麗な馬小屋がいくつか立ち並び、いろんな馬と馬車が見えて楽しい。
さっきいた下町とは別の活気がある。
アルの馬車はどれなんだろう。
と、急に視線が下がった。
「よし、ここまで来れば大丈夫だろう。ここらでは担いでる方が目立つからな」
「うん、ありがと。それでアルの馬車はどこ?」
「あれだよ」
アルが指さしたのは、質素な馬車だった。
でも安っぽくはない。特に色を塗られているわけでもないが、木にニス?を塗ったような質感で重厚感がある。
それに馬車全体が複雑な模様で彫られている。
扉の部分だけ色が塗られていて、それが紋のように見える。
「ねぇ、アルっていい服着てるなーって思ってたけど、思ってるよりお金持ち?」
「まぁそうだな、この国で5本の指には入るんじゃないか?」
「いやすごすぎ。護衛とかいないの?」
「あぁ、今日は単独調査だからな。いつもは2人以上で行動してるさ」
「へぇ〜」
とアルが言いつつ馬車の扉を開けると、そこは部屋だった。
意味わかんないよね、私も意味わかんない。
えなんで馬車の狭さで扉開けたら寛げそうなソファとテーブルとついでにベッドまであんの?(息切れ)
しかも全部上品な質感のものだ。本物のお金持ちが持ってそうな家具ばっかり。
「いやハリポタかよ」
「はりぽた?」
「あ、いえこちらの話デス」
夢ありすぎ。早速ソファに腰掛け、ソワソワしている私を見てアルが口角を上げたような気がした。
「笑った?」
「いや」
「素直じゃないなぁ。幼女のように瞳を輝かせた私に父性くすぐられましたって、素直に言えばいいのに」
ニヨニヨしながら普段表情筋氷河期であろうアルに言うと
「あだっ!?」
「訳分からんこと言うな」
怒られた。
とハリポタ馬車に驚いていると、出発したようだ。
「ねぇ、そろそろこの世界について説明してくれる?多分私、ここの出身じゃないからさ」
「あぁ、そうだったな。こちらも色々聞きたいことはあるが、改めて初めからこの国について説明しよう」
向かいのソファに腰掛け、アルが説明してくれたのは、こうだ。
ここはアレシア王国の首都、レシアス。
緩やかな丘に街が広がっている。
左右は魔物の森があって、名前の通り魔物がゴロゴロいるらしい。
「正式名称は他にあるが、まぁみんな魔物の森としか言わん」
とはアル談である。
丘の上に行くほど富裕層が住んでいて、白い家も増えるそうだ。
白が裕福な証だとか。
王様が頂上で、そこから貴族→富裕層→下町って感じの層になってる。
確かに色もグラデーションぽくなってたな。
で、アルは首都に住む偉い騎士らしい。
総副団長。若そうなのに凄い。
ちなみに騎士団のアジト?は貴族街と商人街(富裕層)の間にあるらしい。
王様には別で護衛がいるってさ。そりゃそうか。
丘を上から見てずっと右側には学園があって、今はその入試時期が迫っているから下町もかなり賑わってるんだと。
街以外は森で覆われているが、弱い魔物は学園の生徒さんとかが狩ってくれるんだって。
街から学園に向かう道には結界で覆われてて、よっぽど強い魔物じゃないと破れないから安全。
生徒は平民から富裕層まで幅広く受け入れてる。中で差別とかありそうで怖い......知らんけど。
今は下町から富裕層の住む区画に向かって丘を登っている途中。
アルの家は結構上の方にあるらしい。
ざっとこんな感じ?
あまりにもファンタジーしてて凄い。
学校かーいいな。
そういえば私、制服採寸の前日に寝てそのままこっちに来たんだ。
後2週間で入学式だったのに......制服可愛かったのに......
「お前、学生なのか?」
「え?」
「制服とか入学式とか声に出てたぞ」
「まぁ、一応2ヶ月後に入学する予定だったよ。寝て起きたらあの路地にいたけど」
スッとアルの目が細くなる。
「今度は俺の番だ。お前、どこから来た?」
うーん迷うな。
正直に言っていいのかな。こういうのって、あんまり話さない方がいいと思うんだけど。
多分アルはいい人だけど、まだ会って1時間も経ってないし。
ああああ迷う......こういう時に優柔不断にあるのが私の悪い癖だ。
うーーーーん。言おう。それで処刑だー!とかなったらもう知らん。来世に託す。
ここまでコンマ1秒(多分)。
私は意を決して口を開いた。
「私、異世界から来たっぽい」
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