第2話
はぁ~。
私は大きなため息をつく。
この世界に転生してひと月が過ぎていた。
今日も妹と畑作業をしている。
「お姉ちゃん!サボってないでちゃんと作業してよね!?」
妹に怒られてしまった。
名前はリリア、私の双子の妹である。
「サボってない休憩してただけ」
「それをサボってるっていうんじゃないの...かな?」
リリアの眉間にしわが寄っていたので作業を再開する。
私の担当は草むしりだ。
スコップで根こそぎ草を掘り返していく。
草むしりをしながら今までわかったことを整理していく。
まず、転生したのはラウドシリーズが始まる5年前であり
私が住んでいるのはトリスタン王国のレド村というところだ。
(ゲームマップは覚えているんだけど、レド村って記憶にないんだよね。
トリスタン王国はわかるけど。)
トリスタン王国はラウドシリーズ始まりの地である。
5年後、魔族の国から攻められ物語がはじまる。
主人公ラウドが魔族を退け英雄と呼ばれるまでが1作目の内容だ。
ちなみに最後のおかずに使用したティア王女はトリスタン王国の王女です。
(ティアたん、あってみたいな。年齢的には今の私と同じぐらいのはず)
私たちはそこで妹・母の三人で野菜を売って生計を立てている。
父親は王国で衛兵として働いており決まった時期にしか帰ってこないそうだ。
もちろん、私は一度も会ったことはない。
(父親、どんな人なのかな)
前の世界での父親は不仲だったので少し不安である。
ただ、母や妹を見ているとその心配は杞憂なのかもしれない。
次にステータスなのだが、これにかなり問題がある。
ラウドシリーズはレベルという概念が存在しない。
よって、戦闘のたびに適性ランク[A~E]に応じた数値がランダムで決定する。
最大値は999でありランクによって大きな数値が選択されやすくなる。
あくまで”選択されやすくなるだけ”である。
そのため、下手したら序盤の雑魚敵にすら負けてしまう。
だからこそすべての戦闘に緊張感があり没入できたのだ。
(運要素がかなり大きいのよね。まあ、それも含めて面白かったのだけど)
そんな仕様のため、スキルと装備が非常に重要になってくる。
武器・防具・装飾品を装備することで固定値で数値に補正をかけ、
スキルでさらに補助していくというのが多くのプレイヤーにとっての常識なのだ。
そんな重要なスキルの一つが翻訳という意味のないスキルで占有されている。
極めつけはユニークスキルである。
「神様とお茶会って」
「ん、何か言った?お姉ちゃん。」
思わず愚痴が漏れてしまう。
正直あの神様と話していると疲れるのであまり会話したくない。
それに本来ユニークスキルは各キャラに与えられる強スキルのはずなのだ。
また、一度覚えたスキルは消すことができない。
そのためユニークスキルとスキル一つを無意味なスキルで埋めてしまっている
私自身のステータス評価はは
(ゲームと同じ仕様でないことを祈っておこう。)
(今後のためにもどこかで戦闘は経験しておくべきかな。)
(育成の方針も決めないといけない、適性的に魔法職しか......。)
なんだかんだと考えていると見える範囲の雑草は取り終わっていた。
「リリア、こっちは終わった」
「じゃあ、ごはんにしよ」
用水路で手を洗って二人で並んで畑の横のベンチに腰掛ける。
少し待っていると見慣れた女性が近づいてくる。
彼女は畑を見渡して私たちに声をかける。
「あら、意外にきれいになってるじゃない。二人に任せてよかったわ」
「お姉ちゃんはほとんど何もしてないけどね。」
「リリムちゃん、ほんと?」
この人は私の母親のエレナである。
私たちと同じプラチナブロンドの髪をロングではなくショートにしていた。
性格はリリアに似ていて真面目だ。
「わ、私もちゃんと手伝ったし。それよりもご飯なに?
お母さんの料理はなんでもおいしいから楽しみだわ~。」
笑顔なのだが妙な威圧感を感じ話題をそらす。
なぜなら、怒られると滅茶苦茶怖いからである。
「あらあら、そんなに褒めなくてもいいのよ。じゃあ、ご飯にしましょうか。」
「ママはお姉ちゃんに甘いんだから。」
(大体、いい感じにほめておけば怒られないのよね)
かなりチョロい、いやなんて優しい母親なのだろうか。
エレナもベンチに座ると手に持った籠からサンドイッチを取り出して手渡す。
今日のお昼はオレンジジャムのサンドイッチだ。
家族三人で談笑しながら仲良くランチタイムを過ごすのだった。
◇◇◇
「はぁ、はぁ。幼女になんて過酷な作業をさせるの......。」
お昼明け、サボっていたことがばれてしまい追加の仕事を頼まれた。
リヤカーに今日集めた雑草をのせて焼却所まで運ぶのだが、
タイヤが木製なのでかなりの力仕事になっている。
「こうなったのもリリアのせいなんだから。」
手がだんだんとしびれてきたが、あともう少しの道のりだ。
帰ったら絶対に仕返しをしてやると心に誓いながら重いリヤカーを引くのであった。
(やっと着いた。なんでこんなに村から離れているのよ)
焼却所は村からから1.5kmほど離れている、
燃え移りのリスクを考えれば当然ではあるのだが。
乗せてあった雑草を決められた区画に投げていく。
すべての雑草を捨て終わった時だった。
カーン、カーン、カーン
村のほうから鐘の音が響き渡る。
打鐘3回、厳重警戒である。
(何かあったのかな。たいしたことないといいんだけど。)
厳重警戒ではあるのだが私はそこまで心配はしていなかった。
なぜなら、転生してから何度か鳴ることがあったが特に何もなかったからだ。
(たいてい、村の柵の近くにモンスターが出現したとかなのよね)
村の周りにいるモンスターは強くはないので村人でも十分に対処できる。
本当に緊急性がある場合は打鐘4回のため今回もきっと大丈夫だろう。
「帰ったら、何をしようかな」
独り言をつぶやきながら帰路につこうとする。
カーン、カーン、カーン、カーン
打鐘4回
ドゴーン
次の瞬間とてつもなく大きな爆発音がした。
爆風が私のいる場所まで届くほどである。
「なにがあったの!!?」
村のほうから大きな黒煙が上がっていた。
妹たちが心配なのでリヤカーを置いて走り出す。
私は、この後知ることになるレド村がどういう場所であったのかを――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます