第19話 覗き見したい
オーランドからの、恐怖の公開プロポーズを断った。その結果残るのは、後がない、お相手なし、壁のシミ、という三重苦かと思いきや私には、次から次へと縁談が舞い込むようになった。
その理由は簡単だ。長年に渡る私を哀れむ人々の影なる働きがあり、カミルス殿下の正式な子として私が認められる事が、陛下より公式に発表されたからだ。
そして同時期に、アミラ様とルイス様の婚約も発表された。
いつの間にそこまで?と驚いたけれど、アミラ様からの、リリアナ様と私に対する当たりが弱くなったので、結果オーライとも言えるし、周囲の反応も上場なので、特に私も二人の婚約に異論はない。
つまり私以外は、収まるところに収まったという雰囲気。
自分は何の努力もしていないのに、次男以降の男性から土地付き、コネ付きの、大変魅力的な女性になってしまった私は、空前絶後の状態でグラント伯爵家のタウンハウスに釣書、つまりお見合いの為の履歴書が送られてくるという状況だ。
これには流石の母も、「まさか、釣書を見てうんざりする日が来るなんて思わなかったわ」とこぼしている。
因みに私は正式にグラント伯爵家の者ではなくなる事が確定している。けれど、陛下がカミルス殿下の所有する財産を管理する後継人としてグラント伯爵を選んで下さった。そのお陰で私は書類上だけ家族から抜けはするけれど、表向きの関係性は変わらずそのままでいていいとの事だ。
その点に関し、複雑な思いを抱きつつも、グラント伯爵家の面々が以前と同じように接してくれるので、私も以前通り、みんなを家族と思う気持ちは変わらない。
書類一枚で縁が切れる仲ではなかった。それは五歳で急に現れた私を、家族だと受け入れてくれたグラント伯爵家の皆様の優しさのお陰だ。私は今回の件で改めてその事を知れたし、より一層感謝する気持ちになった。
そして現在私は、王城の独身寮にて母が選別し私に預けて帰った釣書と簡単な肖像画に目を通している所だ。
「この方の見た目は良いけど、趣味が読書か。というか、趣味が読書率が多くない?」
無難ではあるけれど、それ故にその人の個性と人となりが見えてこない。せめてどう言ったジャンルが好きなのか記してあれば興味も湧くかも知れない。けれど、端的に略歴を記すのが常識とされる釣書に、そこまで書く人は逆に怖いような気もする。
そもそも今回のタイミングで私に釣書を送ってくるような人は、財産目当てでしかない。勿論それが結婚の条件として当たり前なのだから仕方がない事は重々承知している。けれど私はどこかで、その事を嫌だと感じているような気もする。
だから趣味が読書という、ごくごく一般的な物にまで、まるで粗探しをするように不満を感じてしまうのだろう。
こんな状態で相手など探せるわけがない。
「どんなに素敵な人だって、会ってみなきゃわからないのに」
会う前から不満をたれているようでは、上手くいくはずがない。
その事に気付いた私は自分にげんなりし、考える事を放棄した。
「今はまだ、誰とも結婚したくはない。それが正しいのかも」
一人結論づけ、釣書を閉じてベッドに身を預ける。
「オーランドに会いたい」
誰ともなく呟く。因みに私が会いたいと懇願するのは昔の可愛いオーランドだ。とは言え、最近のオーランドはまた私を避けるようになってしまった。だから万が一私が願ったとしても、今のオーランドにも会えないという状況だ。
「そりゃそうよね。酷い事したんだし」
私達は確かに血が繋がっていない。けれど姉と弟として育った事は周知の事実だ。その関係性がある上で、あの場で私にプロポーズをするというのは、相当勇気が必要だったはずだ。
それなのに私は一方的に断ってしまった。
自分がオーランドにいつまでも弟でいて欲しかったから。あの時は動揺し、自分の我儘さに気付けなかった。その事を後悔するも、いまさらだ。
それにあの事件以降、リリアナ様が覗き見に関する大きな決断をした。
『ダニエル様は、美しくない私も認めて下さるとそう仰って下さったの。だから私はもう覗きませんわ。堂々とお会いする事にします』
ようやく変態行為をやめてくれるようになり、私はリリアナ様が真っ当な王女殿下に戻ったと、念願叶って嬉しいはずだ。それなのにリリアナ様の決意を残念に思ってしまう自分がいる。
何故ならリリアナ様に付き合う傍ら、オーランドを覗き見出来なくなったから。
そうなると、彼から故意に避けられている私は、自分の生活からオーランドが綺麗さっぱり消え去ってしまうことになる。
今までは避けられていても、こちらから彼を見守る事が出来た。それがどれだけ私の心の安定剤になっていたのか、今まさに思い知らされている。
現在明らかにオーランド不足である私の心には、ぽっかり大きな穴が開いたよう。無性に寂しい気持ちを抱えて辛い。
「オーランドに会いたい。覗き見したい」
私は一人、悶々とした気持ちを抱え、今日もまた寝付きの悪い夜を過ごすのであった。
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