第40話 国立アイヌ民族博物館
11:50くらいだろうか。夫が、そろそろお昼にしようと言う。ちょっと待て、まだお腹空いてないって。だって、9時半過ぎにお腹いっぱいにしてしまったのだもの。いつもよりも朝ごはんが遅かったのだから、お昼も遅くしなくちゃ。
「先に民族博物館を見ようよ。」
と私が言うのに、早く食べたいと夫が言う。えー、腹具合同じにしたんじゃなかったのか?そういえば、夫は10時頃に朝ごはんをガッツリ食べても、12時にちゃんとお昼を食べる人だった。一緒に出掛けた時には、2人が同じだけ食べても先にお腹が空くのは、絶対に夫の方なのだ。私が自分と同じだけ食べると言うけれど、次にお腹が空く時間が全然違う。そりゃね、体重が私の2倍くらいある夫と、同じなわけがないよね。
「お腹空いてから食べたい。」
と私は言い張り、先に民族博物館を回る事にした。それにしても、外から見るとビックリするほどビッグだ。建物が。どれだけ観るものが詰まっているのかと思ったら、意外に展示室は2階だけという。2階へ上がると、大きな窓があった。おお!ポロト湖が一望できる!大パノラマと言っても過言ではない。大きな道の上にだけは雪がないのだが、湖の上も、それ以外も、雪で覆われている。湖の上の向こうの方にはテントがいくつか点在していた。釣りでもしているのだろうか。ワカサギ釣りかな?
展示室へ入ると、提灯を1つ渡された。展示室内は夜をイメージしているということで、この提灯を持って鑑賞するそうなのだ。
提灯を持って通路を通って行くと、壁に人や説明の映像が映し出された。私たちの後を追いかけてくる感じ。いや、少し先を行く感じかな。なるほど、この提灯がセンサーというわけだな。提灯は情緒があって良いが、ずっと持っていなければならないのは、少し邪魔だ。まあ、夫が持っていてくれたのだけれど。
展示室の中に入った。確かに薄暗い。衣装やら色々な展示物がある。まず、人がいて説明してくれたのが、月にいるウサギの話。いや、日本では月にはウサギがいると言われているが、アイヌでは違うという話。ここに提灯を置くと影が出ますよ、と言われて置くと、なんか出た。写真を撮った。よかった、写真を撮っても怒られない事が分かったぞ(後に、映像作品だけは写真NGと書いてあるのを見た)。
アイヌでは、月にいるのは……あれ、何だっけ。子供だったかな。水を汲んでいる?えーと、何か悪い事をするとあそこへ行かされるんだっけ?あー、忘れてしまった。後で調べようと思っても出て来なかった。インターネット、アイヌ文化には弱いぞ。
夫がここへ来る道すがら、
「アイヌの事を全然知らないのに、来てもいいのかな。」
と口にしていた。
「知らないから学びに来たわけでしょ。だからいいんじゃない?」
と私は言った。今ここで、民族衣装や装身具、武具や家の展示などを見て、それなりに知って行く。
「カムイ」という言葉は割とよく知られていると思う。私もかつてドラマだかアニメだかで聞いたことがあった。音も「神」に似ているから、神様の事だろうと思っていた。例の、アニメが実写映画化されたのも「ゴールデンカムイ」だ。そのカムイについての説明もあった。
神とは少し違うようだった。それは、アイヌの死生観、宗教観を表す言葉のように思えた。カムイの世界、人間界、森、それぞれの世界があって、カムイが森の熊の姿になって人間の世界にやってくるのだったかな。そうすると、人間はその熊を食べる事によって、カムイに感謝するとか何とか、図解してあった気がする。これには少し驚いた。神のような存在を食べてしまうのか、と。カムイとは一人とか一体とかという事ではないのだろう。どちらかと言うと、人間以外の森羅万象の事をカムイと称するような感じだろうか。獣は、人間と同じ「生き物」ではないのか、などと疑問は残るものの、何となく理解したように思う。いや、この時は。その後しばらくしたらぼんやりと、になってしまったが。
それにしても、ここの展示はあらゆるところに、
「わたしたちは」
という書き出しでアイヌ文化を説明していた。つまり、アイヌの人が自分たちの文化の紹介をしているという体だ。夫は、もっと和人に虐げられてきた歴史など、私たちが目をそむけたくなるような内容があると思っていた向きがある。しかし、
「今は、私たちも洋服を着て、皆さんと同じような家に住んでいます」
という文言からも分かるように、アイヌ人も和人も同じ日本人だよ、というコンセプトを感じた。これは意外だった。よく、
「日本は単一民族国家だ」
などと言う人がいて、アイヌ民族や沖縄などの先住民族もいるのに、無いものとする発言が批判される。ここは、日本には和人だけでなく、アイヌ人もいるのだよ、という事を知らしめたい施設なのかと思っていたのだ。しかし、どちらかと言うとアイヌ人を差別しないで、同じ日本人として扱ってね、というスタンスだと感じた。
アイヌ人が虐げられたという歴史も、NHKで放送した内容などを映像で流していたりして、学ぶ事が出来た。明治時代には、同化政策やジェノサイドと思えるような政策も取られたようだ。鮭を獲ることを禁止したり、熊を獲るのにアイヌ人が用いていた毒矢を禁止したり。アイヌの人も鉄砲を使うようになったようだが。
ひどいと思ったのは、若い男性を労働力として連れ去り、若い女性を択捉島だったか、どこか島へ移住させたというもの。これがジェノサイドだと思った。アイヌ人が新たに生まれないようにしたという事ではないか。アイヌの人々が、好きで和人と同じような生活をするようになったのならいいが、無理矢理同化させたのは残念でならない。それでも、こうしてアイヌ語が残り、伝えようとしている人がいる事、この施設が出来た事は有意義な事だろう。
アイヌ文化を紹介する施設の歴史というか、年表のような物があった。早速、私がかつて訪れた「ポロトコタン村」の文字を探した。だが、どこにもなかった。今いるこの施設が出来たという話はニュースで見た事があり、建物も新しい事から分かるように、それは最近の事。ポロトコタンはどこへ行ったのだろう。もうないのだろうな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます