第34話 ライトアップされた雪像

 「口の中にラムがいる~。」

と言う夫。確かに、と思ってさっぱりしたいと言うと、

「えー、幸せじゃん。」

だそうだ。

 目の前には市電の線路があった。札幌に来て初めてこれを見た。

「さて、どうやって帰る?」

と言うので、

「ホテルはどの辺?」

と聞くと、

「まっすぐ行って、ちょい左くらい。」

と言う。

「じゃあさ、大通公園まで歩いて、ちょっと左の方へ行ってみようよ。ライトアップされた雪像も見てみたいから。」

と私が言い、夫も賛成してくれた。なので、歩く。空は晴れているようなのに、また雪がちらほらと降って来た。綺麗だな。

 札幌は信号が多い。いくつも信号を越えた。市電が走っているのも見た。これに乗って、日本新三大夜景の1つ、もいわ山へも行きたかったのだけれど、どうにも組み込めなかった。やはり一度で全て回るのは無理だ。雪まつりではない時に来ないと。

 大通り公園に着いた。おお、なんだかすごい人だかりだ。もちろん、溜まっているのではなく、流れている。まるで初詣のような人並み。我々もそこへ飛び込む。

 ちょうど太田胃散の雪像のところだった。青く光っている。また、ガンダムには動く光が当たっていて、赤い光、青い光、そして白い光がピコピコと動く。

 その次はドイツのノイシュバンシュタイン城が!最初は黄緑、緑、紫に染められていたのが、次はピンク、オレンジ、黄緑に染められる。カラーがローテーションしているのかな。

 混んでいて、足元もあまりよく見えないのに、誰も階段や坂で転ばないのが不思議だ。誰かが転べば大勢が巻き込まれそうだが。

「もうすぐプロジェクションマッピングが始まりまーす!」

と言っている人たちがいた。ちょうど19時だった。観て行こう。そこは、自衛隊さんが作った雪像のところだった。旧札幌停車場の大雪像。けっこう前の方には人が固まっていて、その後ろから観るしかない。

 始まった。音楽が始まると同時に、雪像に次々と光が当たる。

 す、素晴らしい!ただの色付けではない。プロジェクションマッピングは、これほどまでに進化したのか。

 駅舎には窓がいくつもあるのだが、パチパチっと瞬いて電気が点く様子や、電車が動く様子、その上電車が遠ざかる様子まで映し出される。物語になっているようで、ある女性の半生といったところか。台詞などはないのだが、喧嘩したり、別れたり、再開したり、結婚して、子供が生まれて。時々、白いはずの雪の駅舎が、赤い屋根になり、凹凸に影ができ、ああ、なんて美しいのだ。

 なんか、途中泣いた。物語に感動したのか、美しさに感動したのか、よく分からないが。夫は、あれをやるには超正確に雪像を作る必要がある、と言っていた。自衛隊さん、字が綺麗だなんて言っていたけれど、そんなもんじゃなかったのだな。

 はあ、良い物を見た。さて、もう帰ろう。あまり向こうへ行くとホテルから遠ざかってしまう。ということで、北海道大学植物園の横を通ってホテルへ向かう事にした。

 途中、シマエナガの氷像を見かけた。さっきのすすきの会場のシマエナガと同じデザインだと思われる。この会社があのシマエナガの出展者だったのかな。

「練習したんじゃない?」

と夫が言っていた。そう……なのかな。

 また、車道と歩道の間の雪に、足跡が付けられていないのが不思議だった。この辺には子供はいないのか?つい、うず高く積まれた雪の壁を見ると、つま先でつついてみたりする私。だって、珍しいんだもん。本当はあの車道と歩道の間の雪の上を、ガシガシと歩きたかった。

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