第32話 すすきの会場

 16時半頃にホテルの部屋を出て、1階のフロントに行った。そして、宅配の手配をお願いした。箱代の220円を払い、箱を出してもらって、その中に送るお土産を入れていった。まだ少し余裕があり、

「お洋服など入れますか?」

と、ホテルの人に聞かれた。それを断り、お土産だけを入れて送った。帰宅した翌日に着くといいと思ったが、もう1日かかるという事だった。つまり、金曜日に帰宅するので、お土産が到着するのは日曜日だそうだ。やはり北海道は遠いな。送料もけっこうする。2千円くらいだ。飛行機代に比べたら全く安いが。

 ホテルを再び出た。JR札幌駅へ向かい、発券機で明日の特急列車の発券をした。あ、夫がね。今朝ほど行列は出来ていなかった。

 それから、買ったばかりのキーホルダー(白い恋人)をカバンに付けた。水色と茶色で構成されたカバンに、そのお菓子(キーホルダー)がとっても似合っていた。けれど、実はそのお菓子はけっこう重さがある。長さもある。カバンにぶら下げて歩いていると、いつの間にか金具のみになっていた、なんて事もありうる。だから、金具で吊るしたうえで、本体をカバンのポケットに入れてチラ見せする感じにしておいた。だが、歩いているといつの間にかポケットから出ていることも。失くすのが怖くて、ちょくちょくキーホルダーを確認しながら歩いていた。

 さて、また2駅分地下鉄に乗り、すすきの駅へ行った。どこの階段を上がればいいのか、イマイチよく分かっていないが、夫に連れられて地上へ出た。

 まだ17時にもなっていない時間だった。辺りは薄暗くなっていて、ライトアップもされている。ここから予約したお店までは遠くない。30分ほど余る。

「どうする?」

と夫が聞くので、

「先に雪まつり、見ちゃおうよ。」

と私は言った。既に氷像が目の前にあるのだ。

「そうだね。」

ということで、早速メインストリートを歩き始めた。

 すすきの会場は、氷像だけ。それを、今まではよく知らなかった。まず、知っている商品をモチーフにした氷像が並んでいた。例えばビール。氷は全て透明なのだが、ジョッキのビール部分には黄色いライトが当ててあり、本当にビールが入っているかのように見えて綺麗だ。もちろんビールはサッポロビールである。白い恋人もあった。宝酒造とか、ニッカおじさんも。そして、本物の魚がたくさん埋め込まれている氷の壁もあった。カニも埋まっている。これは「すしざんまい」だそうだ。

 それから、会社などが出しているようではあるが、商品とは関係ないと思われる氷像が並ぶ。シマエナガとか、ふくろうとか、熊とか……って、つまり北海道にいる動物というわけだな。しかし、ライトアップされているとはいえ、全体的にほんのり光っているだけで、やはり無色透明な氷。周りが暗ければまた違うのだろうが、何だかちょっと見えにくい。細部が判然としない。勿体ない。黒いバックにでもなっていればもっと見えるのだろうが、向こう側には普通に道路にある看板とかネオンなんかがあるし。

 お、乗って写真を撮ってもらえる氷像が出てきたぞ。ボートレースと書いてある。あまり並んでいないし、撮ってもらおう。

 私たちの前には、こう言っては申し訳ないが地味な女性2人連れが写真を撮ってもらっていた。氷のボートは3段くらいの階段の上にあり、彼女たちが撮影を終えて降りてくる時、ここのスタッフの男性が、

「よろしかったらお手をどうぞ。」

と言って、手を差し出した。女性客がその手を軽くつかんで、エスコートしてもらって階段を下りていた。地味な女性でもちゃんとサービスするのだな、と思った。なかなか若くてイケメンなスタッフ。私もこれ、やってもらえるかなーと期待してしまう。

 さて、私たちの番になった。私のスマホをスタッフさんに渡し、氷のボートの上へ。おっとー!滑る。ツルツルよ。そして、当然座ったら濡れるみたいだ。でも、前の人が必死にボートにしがみついているようなポーズをしていて面白かったので(女性2人連れではなく、その前に撮っていた男性)私もそんな感じで。2枚撮ってもらったので、1枚はカメラ目線、1枚は前を向いて撮ってもらった。

 そして、夫が先に階段を降り、次に私が下りる時、誰も手を出してくれなかった!逆に、階段の途中でスマホをちょうだい、と私が手を出した。氷の上は滑るけれど、階段は別に滑らない。でも、やっぱり男連れだとエスコートしてくれないのだね。昔、ディズニーランドで船に乗った際には、降りる時にスタッフの男性が手を貸してくれたものだが。夫が一緒にいても。

 コートのお尻のところがちょっと濡れた。それにしても、寒い!今までにないくらい。夫は、ここまで割と暑かったからと、手袋やマフラーをホテルに置いてきてしまっていた。ところが今、風もけっこう吹いている。氷の傍で風に吹かれるとどうなる?よく、暑さ対策というか、省エネしつつ熱中症を防ぐという話で、扇風機の前に氷を置いておくと涼しい風が来て良い、などと言うではないか。今、そんな状態なのだ。氷がたくさんあって、そこへ風が吹く。寒い。

 私は今回、外でスマホをいじる時に、手袋を外さなくてもいいようにと、タッチペンを持ってきていた。だが、嵌めている手袋はスキー用のグローブだ。ごつい。写真を撮ろうという時には、どうもね。もちろん、シャッターを押すのはタッチペンさえいらない。音量ボタンを押せばシャッターを押せるのだから、手袋のままで大丈夫。だけれども、角度とか色々と、なんとなーくグローブの手ではダメな気がして、外して写真を撮ったのだった。マフラーはしていたけれど。

 次は、面白い題名というのかな、抽象的な表題のついた作品が並ぶ。「破壊と創造」とか「虫の囁き」とか「輪廻転生」とか。あ、破壊と創造のところに「最優秀賞」という札が置いてある。翼の生えたライオンの像だ。躍動感あふれる、素晴らしい氷像だ。

 ウポポイもあった。アイヌの民族衣装を着た男女の氷像が立っている。

 おっと、そこへ妙な物が目に入った。通りの向こう側へちょっと入ったところ。自動販売機だと思われるものに「シマエナガ」とでっかく縦に書いてある。なんだ?何の自販機なのだ?

 あまりに気になって、そちらへ行ってみた。近づくと、シマエナガという文字の上に「北海道限定」とも書いてあった。それは自販機の側面である。さて、前面に回る。何が売っている?

 シマエナガだ。ん?売っているのは……スイーツ缶だ。缶、なのかな。白くて丸くて、目・鼻・足が描いてある入れ物。上部は蓋。なになに、オレオクッキー、チョコケーキ、チーズケーキ。一緒にシマエナガグッズが出たら大当たり、だそうだ。770円。一番下には500円の、プラスティックカップのスイーツも。よく考えたら、缶は買って持って帰っても良かったのかもしれないが、私はこれを見て、要冷蔵だと思った。これを今買っても困ると思ってしまった。ちなみに、大当たりのシマエナガグッズというのは、一番上にぶら下がっているシマエナガのマスコットだと思われる。あのマスコットを770円で買うのなら、買ったかもしれなかった。今思えば、チーズケーキ缶を買えば良かった。

 一時脇道に反れたが、また戻ろう。コンクールが行われ、先ほどのが最優秀賞だったが、他に優秀賞がいくつか、準優秀賞もいくつかあった。大きい氷像で、竜や鳳凰、ヤタガラスなどの動物系が並んでいた。どれも細かい。どの作品も素敵。ただ、向こう側のカラフルな看板が写真に写り込むのが残念至極。

 おっと、また会ったね「太田胃散」。今度は、四角い氷に太田胃散の缶がいくつも埋まっていた。

「横着だな。」

と夫が呟いた。まあ、そうね。商品を埋めただけ、だものね。

 そうそう、途中で折り返していた。最優秀賞の先辺りだったかな。氷像群を右に見ながら歩いて来て、折り返してまた右に見ながら最初の地点へ戻っていく。また商業的なエリアに戻ってきて、こちら側にはひな祭りの氷像があり、ニッカおじさんのライトアップがあり、最初のサッポロビールの裏側にはアサヒビールのジョッキ缶があった。ビールだけは、氷に埋まっていると美味しそうね。今は寒いから、それを飲みたいとは思わないけれど。


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