第29話 白い妖怪展

 白い恋人パークの門の辺りにはあんなにたくさんの観光客がいるのに、左側に行く人は誰もいない。白い妖怪、人気ないのか。私は1人、左へと進んだ。信号を渡ってすぐ隣。そこには洋館があった。

 チラシと同じ看板がある。「白い妖怪展」という看板だ。そこには1体の妖怪の絵が描かれている。それは、まさに白い恋人の妖怪。四角くて、白っぽくて、周りに少し焼き色が付いていて、ホワイトチョコが外側にはみ出しているものに、手足が生え、1つ目が付いている。これが白い妖怪という事なのだろう。

 門の中へ入り、洋館の外階段へと歩みを進める。とてもきれいな建物だ。しかし、外階段の上り口にはまた白い妖怪の看板があって、左に矢印が書いてある。ちょっと待て。階段を上るのではないのか。階段の横を入って行けと?

 外階段を上った先にある立派な入り口ではなく、なんだかお勝手口?というような地味な扉から入るらしい。でも、これ勝手に開けていいやつ?お勝手口だからいいのか、なんて。

 思い扉をギギッと開けると、スタッフさんたちがいて、小さな受付のテーブルがあった。そこでチラシを見せ、元々600円の入館料を100円引きにしてもらい、ペイペイで支払った。いや、支払うと言った。すると、機械の調子が悪いのか使い方が違うのか、しばらく待たされた。別に他の支払い方法でも良かったのだが、かといって急ぐわけでもないので、待っていた。

 やっと支払いが完了し、白い妖怪のステッカー(シール)をもらった。中へ進むと、若干客がいるようだが、空いている。若いスタッフが何人かいる。ひょっとするとスタッフの方が多いかもしれない。まあ、平日だしね。木曜日の13時過ぎだから。

 洋館らしい階段が中央にある。そこを上ると、展示室には4コマ漫画が描かれた看板が並ぶ。白い妖怪の4コマ漫画。文字のない漫画は、まあ、それほど面白くはない。笑えるほどではない。だが、可愛い。何が一番可愛いって、4コマ漫画が描いてあるコマの1つ1つが、白い恋人なのだ。まるで美味しそうなお菓子に描かれている絵なのだ。思わず全ての写真を撮ってしまった。スタッフさんに、

「4コマ漫画、お気に召したようですね。」

と言われてしまった。

 さて、なんだか学校の下駄箱みたいな物が置いてあるが、1つ1つは扉ではなく目が彫ってある。その目は、私が移動すると変わるのだ。ゾゾッ。

 いや、CGとか映像とか、そういうのではない。下駄箱の目は動いていない。だが、見る角度によって、目の向いている方が違って見える。そういう芸術だ。言い方を替えれば、どこに行ってもこっちを見ているように見える目だ。そんな目が54個並んでいる。怖い。

 目と言えば、白い妖怪の真ん中に1つ描かれている。なんか、その目の拡大版が置いてあって、触って良いというので触ってみた。

 遅ればせながら、ここに展示してあるのは「谷村紀明」というアーティストの作品である。私も追々分かって行ったのだ。私がここに来ようと思ったのは、この展示の看板にちらっと書いてあった「天ぷら妖怪」という物が気になったから。次にその天ぷら妖怪の展示室が出てきた。

 色紙(しきし)が並んでいた。そこに、かぼちゃ、しいたけ、れんこん、といった食材の天ぷらをモチーフにした妖怪が描かれていた。スタッフさんが、

「これ、キッチンペーパーに描かれているんですよ。」

と言ってきた。特殊な絵の具で描いているらしい。何となく、思ったのと違う。確かに天ぷらだし、妖怪だけど……なーんか、食べた事ないような天ぷらが多いし、それっぽく見えない物が多くて。トマトとか、チーズとか。それでも、その絵を元に3Dプリンタで立体的に作ったという天ぷら妖怪には惹かれた。けっこう大きい。そこにはガチャガチャがいくつか置いてあり、そこでガチャガチャとやっている女の子が。

「シソ(紫蘇)?欲しいのゲットしたんだ、すごいね。」

と、スタッフさんが言っている。母娘で来ているらしいその娘さんは、ガチャガチャをやって「シソ妖怪」を当てたようだ。

 早速私もやってみた。さっきまでは、展示室にいたスタッフさんたちが意気揚々と私に話しかけてきてくれたが、ここのスタッフさん、さっきの女の子に対するテンションと比べて、私にはだいぶ低め。いや、いいんだけど。

 ガチャガチャは何種類かあって、私が目を付けたのは、エビ、かぼちゃ、しいたけなど、欲しいと思う物が揃っているやつ。どれでもいい、と思って回したら「エビ天妖怪」が当たった。そうか……どれでもいいとは思っていたが、出来ればエビじゃない方が良かった。人生はそんなもの。このエビ天妖怪は、ほとんど金のシャチホコだった。

 次の部屋は、塗り絵のワークショップをやる場所だとか。お高いペンを自由に使って、白い妖怪の塗り絵をすると。塗ったら持って帰ってもいいし、ここに貼って帰ってもいいそうだ。実際、たくさんの塗り絵がホワイトボードや壁に貼られていた。

 自信ない、といいつつも、そのお高いペンとやらを使ってみたくなった。先ほどの母娘も塗り始めている。女の子は小学校の高学年くらいかと思われるが、スタッフさんの接するテンションが違う。若いって羨ましい。

 でも、私は私で椅子に座り、塗り始めた。ざっと貼ってある塗り絵を見て、あまり使われていない色を使って塗ってみた。紫の生地に、チョコ部分は黄色。手足は青、指先は赤で。確かに良いペンだった。なんと、ペンで塗った上から塗ってもよくて、絵の具のように色が混ざってくれる。グラデーションに出来たりするのだ。

 白い妖怪を塗ったら背景が寂しい感じがしたので、妖怪の周りを緑で塗った。スタッフさんがそれを見て、背景を塗ってる人っていなかったかも、なんて言ってくれて、目立っていいですね、と言っていた。これは、若い男性のスタッフさんで、女の子にテンションが高かったのとは違うスタッフさんだ。

 塗った絵を持ち帰るかどうか聞かれ、貼って帰ると言った。自分の塗ったものの写真を撮り、貼ってもらってからホワイトボード全体の写真も撮った。目立つか?いや、大して目立ってないな。お世辞を言ってくれたのね。

 更に進むと、谷村氏の初期の作品などの展示があった。そして、撮影スポットも。スタッフさんが写真を撮ってくれるというので、天ぷら妖怪に囲まれて撮ってもらった。そして、スタッフさんが言う。

「谷村さんの作品は、一切売られていないんですよ。なので、価値が分からないんです。保険を掛けようにも、金額が分からないから、掛けられないんです。」

だそうだ。更に、ウルトラマンの怪獣絵巻の展示もあった。

「あ、これ知ってる。」

と言って1つの怪獣を指さしたら、

「バルタン星人ですね。」

と言われた。なるほど、多分ちょー有名なやつだね。それ以外は知らないみたいだ、私。

「この巻物はすごく長いので、展示しきれなくて折ってるんです。」

という事だった。これ、好きな人にはたまらないだろうな、と思った。ここでも写真を撮らせてもらった。

 他の作品も見る。天ぷら妖怪や白い妖怪につられて来てみたけれど、その他の作品の方がより好きになった。谷村氏は「もののけアーティスト」だという事だが、その作品はおどろおどろしくも、芸術性の高いものと見受けられる。よく、月岡芳年が最後の浮世絵師などと言われるが、ひょっとするとまだ浮世絵師は生きているのではないか、と思った。そう、谷村紀明氏は月岡芳年や河鍋暁斎のような、浮世絵師なのではないか。少なくとも、流れを汲んでいるのではないか。

 最後にミュージアムショップが現れた。クリアファイルがある。ああ、ウルトラマンの怪獣絵巻、全てが載っているではないか。好きな人は絶対買うでしょうね。天ぷら妖怪のクリアファイルも良かったが、例によってクリアファイルはいっぱいあり過ぎて要らないのよ。先ほどのお高いペンも売っていた。なるほど、すごく高い。普通のペンの10倍だ。

 アンケートを求められた。QRコードでも、紙に書くのでもいいと言われ、紙に書く方を選んだ。アンケートは、この展覧会に対するものというより、札幌でどのくらいお金を使ったかとか、そういう質問が多かった。そして、雪の結晶のシールとポケットティッシュをもらった。雪の結晶は虹色に輝いている。このシールは何だろう、とその時は不思議だったのだが、後で書いてある英文字をよく読んでみると、札幌国際アート展2024の記念品のようだった。ポケットティッシュはありがたい。カバンに入れてあるけれど、それとは別にコートのポケットにも入れておく。昨日ももらったけれど。何しろしょっちゅう鼻水が出てくるものでね。

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