第18話 ホテルへ帰る

 寿司屋の入ったビルを出ると、また雪が降って来た。まだまだ雪が降ると嬉しい。夫が、

「タクシーか?」

とか、

「ラーメン食べに行こう!」

とか、多分私が嫌がると思ってわざと言っているのだと思うが、変な事ばかり言って来る。ラーメンを嫌がるのはお分かりだろう。お腹がいっぱいだからだ。タクシーというのは贅沢だからというのもあるし、私はあまりタクシーに乗るのが好きではない。他に選択肢がない時には使うが、歩ける距離だったり、バスや電車があるならそちらを選ぶ方なのだ。それで、

「じゃあ、電車で帰ろうか。」

と私が言うと、夫はちょっと驚いていた。私が徒歩以外の選択肢を示すとは思わなかったのだろう。夫も電車に乗る事に同意し、すすきの駅に向かう事にした。2駅だけど、全部歩くよりは楽だろう。

 地下道を歩いていると、夫はとても疲れた風に見える。雪まつりに付き合わせたからだな。足がもつれそうだ。どうやら、雪の上を歩く為に買った靴が、大きいので足が動いてしまい、歩きにくいというか、靴擦れになりそうな感じらしい。

「明日はゆっくりしていていいからね。」

と言いながら励ました。明日は別行動をしようと目論んでいた私。夫をホテルでゆっくりさせておいて、一人旅気分を味わおうかと。

 ホテルに着く手前のコンビニに寄った。夫がサッポロクラシックのロング缶を2本も買った。私はミネラルウォーターを1本。部屋に帰り、私が大浴場へ行く支度をしていると、ゴロゴロしながらスマホを見ていた夫が、

「近くにスポーツバーを見つけたから、行って来るね。」

と言い、さっさと出かけてしまった。おいおい、すごく疲れていたのではなかったのか?今から飲むためのビールを買ってきたのではなかったか?

 驚きはしたが、もちろん快く送り出した。夫は1人で夜出かけるのが好きなのだ。普段と同じだ。時間もまだ早いし。そして、私は大浴場へ出かけた。

 なぜこのホテルにしたかって、立地が良い(駅に近い)のに大浴場があるからだ。温泉だろうがなんだろうが、大浴場があるのはありがたい。部屋にあるユニットバスは、どうも入る気になれない。夏ならばシャワーだけでもいいけれど、やっぱり湯船につかりたい。特に歩き疲れた日はね。

 このホテルは、お風呂上りにアイスがもらえるらしい。あまりはっきり書いてなかったけれど、写真は見た。実際大浴場へ行ってみたら、アイスが入った箱というか、お店でアイスが売っているような、上の透明な扉を開けて中から取り出すタイプの冷凍庫がお風呂を出たところに置いてあって、ご自由にどうぞと書いてあった。

 お風呂は空いていて、ゆっくり入れた。タオルで体を洗うのがちょっと。ボディスポンジがあれば良かったのに。もしかして、置いてあったかな。アメニティがロビーに置いてあって、夫が歯ブラシとスティックコーヒーを取って来たが、私に用があるものはないと思ったのだ。歯ブラシにはこだわりがあるので、私は自分の物を持ってきた。歯ブラシというより、歯磨き粉かな。よくホテルに置いてある歯ブラシセットは、付属の歯磨き粉が嫌なのだ。少ないし、泡立たないし。歯磨き粉を持ってくるくらいなら、歯ブラシと歯間ブラシも持ってこようというわけだ。

 お風呂上り、アイスは歯に染みるから飲酒後にしか食べない主義だが、お風呂から上がって暑かったので、やっぱりもらう事にした。シャーベットのアイスバーを1本もらった。その場で食べるのが正解かもしれないが、独りだし、ただ突っ立っているのもなんだから、すぐにエレベーターに乗ってしまった。袋は捨ててきてしまって、むき出しのアイスバーを持ってエレベーターに乗ると、中国人と思われる女性2人と一緒になった。で、アイスをどうするか……と迷ったが、食べた。食べながら部屋に戻った。彼女たち、アイスを咥えた私を見て、にっこりしていた。8階で降りる際、開くボタンを押してもらったので、会釈して降りた。英語でお礼を言えば良かったかな。それとも中国語で言えば良かったかな。まあ、そうやって迷ったから言葉が出なかったのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る