第8話 フライト

 だいぶ混雑しているので、搭乗するにも列を為す。

「グループ4はまだだ。」

と夫が言うので、

「グループ3でしょ。」

と言うと、

「俺は4だよ。」

と言う。え、私は3だ。そうか、私は窓際だから先に搭乗するというわけか。

「もうグループ3は並んでるよ。」

と夫が言うので、並ぶことにした。夫はしばらく一緒にいたが、列が動く時には離れた。後で、同伴者は一緒に入って良いと知ったが、まあ、子供連れならともかく、大人同士ならば一緒に乗り込まなければならない理由はない。自分の席が分かっているのだからね。

 席はいつも大体同じ。翼の少し後ろの窓際。前の方に乗れば後で早く下りられるが、前の方から先に予約が埋まるので、なかなか取れない。窓の外を見たければ、翼の上ではダメだ。翼の上を避け、なるべく前の方にしようとすると、この辺という事になる。

 座席に行くと、背もたれに掛かっているカバーが機体と同じ模様だった。黄色くて機械っぽいグルグルの丸が描いてある。日当たりが良く、暖かい。

 空いてるじゃん、と思ったら、夫が乗って来た後にはけっこういっぱいに。周りが家族連れだったので、皆でグループ4の時に入って来たのだろう。私は空いているからと、着ていたダウンコートを上の荷物棚に入れたのだが、後でCAさんから、

「コートの位置をずらしてもよろしいでしょうか?」

と聞かれた。手荷物棚がいっぱいで、詰め込むのに苦労しているようだった。後で、自分の服にポケットがない事に気づいて、しまったと思った。この間羽田空港で衝突事故があった際、SNSで

「飛行機に乗る時にはポケットのある服を着ていた方が良い」

という情報が出回っていたからだ。シューターで降りる事になった場合、荷物は持っていけない。しかし、せめてスマホだけでも持って出たいではないか。その時、ポケットがあればスマホくらいは入れても大丈夫なのだ。それに、もしこの冬空の元、しかも北海道で外に出なければならなくなった場合に、コートなしでは寒すぎる。コートを着て脱出した方が良い。というわけで、コートを上の棚に乗せたのは失敗だったと思った。

 途中、ドリンクのサービスがあり、りんごジュースをもらった。紙コップも背もたれのカバーと同じ模様だった。それらの写真を家族LINEに送った。夫はヨーダの人形の写真を送って、

「無賃乗車っぽいのおるし」

と送っていた。え、何これ?どこにいた?と聞いたら、入り口にいたじゃん、と。いたか?私が気づかなかっただけ?それとも、入った入り口が違う?いや、きっといたのに気づかなかったのだな。だって、CAさんがいて、私は入ってすぐに右の方へ行ったし。ダメだな、さっきから。目的のもの以外、目に入らない。いくら目が悪いと言ってもねえ。

 なかなか出発しないなあと思ったが、やっと飛び立った。羽田は混んでいるからね。今日は良い天気で、遠くまで良く見えた。夫は、いつも自転車で行く公園が近くにあるはずだと、身を乗り出したが分からず。でも、少し旋回して東京都心を離れたら、

「こっちは、まだだいぶ雪が残ってるね。」

と言った。昨日、お通夜に行った時にも、都内から千葉県に入った辺りにだいぶ雪があった。そもそも、東京よりも千葉の方がたくさん降ったのではないだろうか。飛行機は千葉の方へ旋回し、そのまま北へ向かったようだ。座席の前にモニターがあり、色々な番組が見られるのだが、私はフライトコースを表示させていた。東北は曇っていて、雲の上だったので景色はあまり見られなかった。夏の雲はもくもくとして面白いが、冬の雲はほぼ平らで真っ白。面白くない。

 あ、そういえば。スーツケースに鍵を掛けるのを忘れた。せっかくカードキーを持ってきたのに。

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