第6話 割れたタイヤ

 家を出て、駅へ歩く。夫がスーツケースを引き、私がその後ろを歩く。8時頃とあって、高校生とたくさんすれ違う。それほど時間がないわけではなかったが、のんびり歩くほど余裕があるわけでもなく、夫はガラガラとすごい音を立ててスーツケースを引っ張っていた。駅に着く直前には特に大きな音が出て、この辺のアスファルトは荒れているな、と思ったものだ。

 改札を通り、夫はズンズンとホームの端っこの方へ歩いて行く。私も付いて行った。やっと立ち止まった時、夫は屈み込んで下の方を見て、

「あ!割れた!」

と言った。少しスーツケースを持ちあげてこちらへ見せる。あら!車輪の1つに裂け目が!びっくり。さっき、すごい音を立てていたから……荒れたアスファルトのせいだろうか。それにしても、まだ出発して間もないというのに。幸先が悪すぎる。

「どうする?」

「修理屋あるかな。」

2人でスマホを使って調べまくる。羽田空港に修理屋さんがある、と夫が言った。

「5千円もするのか。」

とも言った。

「どれくらい時間掛かるかね。」

私も言った。10時のフライトで、9時前に空港に着くから、10分くらいで直るなら修理してもらってもいいかも。そう思ったのだが、電車に遅延があった。京急線に乗り換えたが、そちらも少し遅延。少し予定より早く出てきたのに、結局羽田空港に着いたのは9時ちょうどくらいだった。

「修理屋さん、どこかな。」

私が言うと、

「時間ないよ。無理だ。」

と夫が言う。それで、壊れたまま手荷物預け機へ向かった。

 それにしても、ここに来るまでに感じた事がある。どんどん先を歩く夫。いつだってそうだ。自分が主導権を握れる人は、一人旅をしても、いつもと変わらない。しゃべる人がいないだけ。寂しいだけだ。けれども、私が一人旅をしたらどうだ。分からない事も迷う事も多いが、後について歩く身から、自分が主導権を握って歩く身に変わるのだ。だから、一人旅は楽しいし、たまにはしたいと思う。夫が一人旅を特に好まないのは、こういう事なのかと思った。

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