第4話 前日の不幸

 旅行が5日後に迫って来た日、突然友の訃報が届いた。病気を患っていた事は知っていたけれど、つい半年前に会った時にはとても元気そうだったから、まさかこんなに早くお別れが来るとは思わなかった。

 お通夜の連絡をもらったが、旅行出発の前日だった。6日の火曜日だ。そこへ行けば帰りはそれなりに遅くなる。少し戸惑ったが、高校時代にとても仲良くしていた友達との別れを、旅行ごときに阻止できるものではない。旅行の日だったらともかく、かろうじて1日ずれてくれたのだから。

 次男が香川県へ旅行に出かけたのが5日の月曜日だった。初めて独りで飛行機に乗るという事で、始発電車で出かけた次男だが、なんとその電車が止まってしまい、飛行機に間に合わなかったのだとか。諦めて新幹線で出かけたが、そのせいで飛行機代がそのまま損失に。何せ、旅行費を節約するために朝早い時間の、しかも羽田ではなく成田空港発の飛行機を取ったというのに、これでは本末転倒。最初から新幹線にしていれば、学割で行く事も出来ただろうに。ま、それはともかく、その日は東京でも雪が降った。関東南部としては大雪になり、かなり交通に影響があった。それこそ2日ずれていたら私たちも飛行機に乗り損なうところだったかもしれない。

 それで、翌日の火曜日がお通夜だった。喪服はズボンの方にしようと思い、その下に厚いレギンスも履くし、ジャケットの中にはハイネックのセーターも着た。寒さ対策は万全だったのだが、家にいる時には……油断した。後でズボンを上から履くとして、家の中は暖かいからとスカートでいた。レギンスが厚いから大丈夫だと思っていたのだが、座っているととても寒かった。後からひざ掛けを掛けたりしたが、考えてみたら我慢の時間が長かった。

 寒さと言えば、少し前に新宿マラソンのボランティアをやったのだが、これがまた、寒かったのだ。活動場所は国立競技場で、都会中の都会だから寒くないと思っていたのだが、外で立っているともう、寒いのなんのって。札幌に行く為に買ってあった靴下に貼るカイロも、必要ないと高をくくっていた。この時にあまりに寒い思いをしたものだから、札幌はどれだけ寒いかと、多少怯えてもいた。

 お通夜には無事に行って、友との別れをしてきたし、他の友としゃべって笑って、わりとスッキリとして帰って来た。実は、その訃報を聞いた直後は、旅行を楽しみにしていた気持ちが萎えてしまい、どうしようかと思っていた。けれども、ある友達が、

「きっと長い間、病気と闘って大変だったはず。やっと苦しみから解放されたんだと思って、笑顔で送り出してあげよう」

と言ってくれたので、少し気持ちが楽になった。それに、以前にも友達のお通夜に行った事があり、その時の経験から、友達に会えばいっぱいしゃべって、泣いて笑って、すっきりして帰って来るだろう、という予想がついていた。だから、旅行の準備をする時には、あまり暗い事を考えずに、旅行を楽しみにして準備をする事も出来たのだ。

 そういえばこの時は、ハイヒールを履くので厚い靴下を履くわけにもいかない。だから、ストッキングの足裏に、カイロを貼って行った。しかし、ハイヒールがきつくなって大変。実はつま先にインソールを入れていたので、電車の中でそれを取ってみたが、それだと少し緩い気がする。結局インソールを少しかかとの方へずらすようにしてみた。カイロはつま先に貼るので。それでも、あまり温かさを感じなかった。家で貼った時には温かいと感じたのだが、ハイヒールを履いてしまったら、あまり感じないのだ。それをある友達に道すがら話したら、

「私それ、良いと思った事一度もないよ。」

と、一刀両断。やっぱりそうか。せっかく買ったのに。

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