第3話 夫は初の一人旅に

 夫が3日間の休みを取れるのか、なんて心配していたのに、何と2週間の休みを取って来た。ここ2年、夏休みを取っていなかったから、2年分の夏休みだと思えばいいのか。秋には土日さえ休みが取れずにいたから、もう何の代わりだかよく分からないが。

 それで、それほど休みが長いなら、札幌に行く他にも、スキーか温泉旅行にでも行こうかなと言う。ぜひ行っておいでと言った。

「一人旅はいいよ~。楽しいよ~。」

と言って。私も一緒に行くと言うと思ったのか、どうなのか。でも、私が旅行に行くとなると色々と大変なのだ。2週間のうちに2回も行けない。それに、夫は一人旅をした事がないと言う。私はもう2回も行かせてもらったのだから、ぜひ行って来たらいいと思ったのだ。

 それで、夫は休みに入る前日に、

「明日から箱根に行く」

と昼間メッセージをよこした。宿を予約したらしい。暖かい日だった。雪の心配もなさそうだ。2泊する事にして、当日の朝起きてから準備をしていた。何時でもいいのだと言って。

 午前中に家を出た。リュックを背負って行った。家を出る直前に、キャリーケースでも良かったのか、と夫が呟いていたが、箱根はほとんど坂道というか山道だから、リュックで正解だったと、後で聞いた。

 それはそうと、家を出たのにすぐ戻ってきて、頭が寒いかもしれないからキャップを取ってきて、と玄関で言われた。キャップを渡して今度こそ送り出したのだが、少ししたらまた連絡が来た。

「財布忘れた」

と。駅に着いて気づいたらしい。財布を駅までの道の途中まで届けに行ってやったのだが……本当に大丈夫か?後々、財布に現金がほとんど入っていなかったから、駅前のATMでお金を下したとも言っていた。そこで気づいて良かったのだけれど、現金なら家にあったのに。

 やれやれ、やっと出かけたと思って安心していたら、お昼頃になって、

「本読んでたら、乗り換えの駅をスルーした」

とまた連絡が。次の乗り換え可能な駅でトライするという事だったが。最近の家族旅行では、私が予定を立てておく事が多かったから……先が思いやられた。

 とはいえ、無事に夫は箱根に行って帰って来た。だが、帰ってきて話を聞くと、やたらと歩き回ってしまったと言っていた。分るー!私も一人旅だと、歩き過ぎるくらい歩いてしまう。いや、家族旅行でも歩いたか。でも、誰かが疲れたと言ったり、言わなくても疲れているだろうと気を使ったりする事がない分、1人だとひたすら次を目指して歩いてしまうのだ。夫もそうだったらしい。それで、一言。

「一人旅は、やっぱり寂しいな。しゃべれないから。」

と。

 この事は、後で私が思い出す事になる。夫が何故、一人旅が良いと思わなかったのか、後で分かるのだ。

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