第86話

「ビル断水ですか……?」


 課長の口から重々しく告げられたその言葉は、俺たちの心に火をつけるには十分な熱さだった。

 本来電気工事や断水、ガラスの張替えといった建物関係の工事は土日等の休日に行われることが多い。それがなぜ……。


「いやぁ、うちと業者の調整ミスでな」


 一過性の工事ならば日を改めて指定することもできただろうが、イベントや会議室の使用状況的に平日にやらざるをえなくなったと。

 わいわいとにわかに騒がしくなる社内。そりゃそうだ、会社の設備が使えない、それはつまり……。


「それはつまり……?」


 同僚がにこにこ顔を隠さずに課長へ近づく。


「休みだな、明日は。不本意ながら」


 わぁ!と上がる歓声。いや、実際はリモートで仕事もできなくはないが、せっかく巡ってきたチャンス。

 ここで在宅で働くなんて言い出す人間は、ノリのいいうちの会社にはいないのだ。


 しかも全社休日、他所の課から宿題を投げられることもなければ、回らない稟議にやきもきすることもない。


 そうと決まればさっさと仕事を片付けるに限る。これは昼休み返上で午後休とってもいいな。

 なんて都合のいいことを考えながら、俺はPCに向かった。



 うきうき気分で仕事をすること数時間、昼時を知らせる音が鳴る。

 さてこのまま仕事を進めてさっさと帰るか、ゆっくり昼ごはんを食べるか迷うところだが、今の仕事の進捗は7割といったところ……。このまま昼休みを返上して全部終わらせたとしても、14時くらいに退勤になるだろうか。それならがっつり昼ごはんを食べてもいいな。


 うんうん唸りながらPCと格闘していると、最近よく聞く足音が。

 軽いステップにローファーがとんとんと地面を叩く。くそ、こうなるならさっさと見切りをつけて外に出るんだった。


 一応作業するフリでもしておくか。


「先輩、お昼ですよ!」


 叫ぶな叫ぶな恥ずかしい。

 まぁうちはみんな外に食べに行くから、事務室内にそこまで人がいないのが救いか。

 それでも残った数名がこちらをちらちらと見ている。


「俺仕事中、お前昼休み、OK?」


「いえいえ、私はもう午後休したので私は休日です」


「じゃあなおさら仕事の邪魔すんじゃねぇよ」


 だめだ、やっぱりこいつに何言っても聞かねぇ。その辺に転がってる椅子に座ると、キャスターを滑らせて俺の隣に。

 あれ、それ同僚の椅子じゃね?あいつ喜ぶぞ〜。


 現実逃避も虚しく白帆は身を乗り出して俺のPCと向き合う。


「あ、これあれじゃないですか。週末〆のやつ!そんなん置いといて午後休!午後休!」


 くそ、ばれたか……。

 正直なところ、明日1日来なくたってどうとでもなるのだ。しかしキリのいいところまで終わらせたいというかなんというか。


「あと15分待てるか……?」


「!!」


 驚いた顔で固まる白帆。


「昔なら『先帰ってろ〜』とか言ってたのに」


「それ俺の真似か?似てないからやめろ。あと1人で帰ってくれていいんだぞ」


「一緒に帰ります!あとモノマネは似てると思うんですよ〜だって、」


 既に近い身体を更に寄せて口を耳元へ持ってくる。ふわっと香るのはシャンプーか香水か。

 彼女の垂れた髪が目の前を掠める。


(最近ずっと一緒にいますもんね)






◎◎◎

こんにちは、七転です。

後書きでお会いするのはお久しぶりですね。

今日から秋らしい気温になってきましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。


私は今日、友人の結婚式に行ってきます。友人代表挨拶をさせていただくので、ちょっと緊張しています。

でも今まさに向かってる電車の途中で更新しようと……あれ、緊張とは?


今年も12月くらいにカクヨムコンあるんでしょうか。

昨年、実は参加できていたようなできていなかったような感じでして、詳しくはまた今度お話しますね。



話は変わりまして、新作も少し書こうかなと。

年上同期年下、皆さんはどういうヒロインが好きですか?学生ものもありだなぁなんて。

あと、異世界ファンタジー界隈に殴り込みにいくのも考えてたり考えてなかったり。ラブコメ屋さんなのでどこまで書けるか分かりませんが……。


良かったらコメントとかで教えてくださると嬉しいです。

季節の変わり目ですので、どうぞ健康にはお気をつけください。

ではまた!


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