第82話
「白帆先輩、ありがとうございました……」
シャワー浴びてリビングへと続く扉の前で立ち止まる。
なんだか出ていき辛いというか、白帆がどこまで説明してるんだろうか、とか。
頭の中を余計な思考がぐるぐる飛び回る。
「いいってことよ!かわいい後輩だからね!」
すりガラス1枚挟んで聴こえる会話は新鮮だ。そうか、白帆もずっと後輩ってわけじゃないもんな。
「ところで先輩、いつまでそこにいるつもりですか?」
思考にふけっていると、突然開かれる扉。いたずらっぽい、でもいつもよりは少し大人しい顔をした白帆がいつの間にか目の前に立っていた。
やんちゃしないのは、やっぱり自分の後輩がいるからだろうか。
「ばれてたか」
「ほらほらこっち来てください」
そのまま俺の腕を自分の胸に抱えると、遠峰さんの前に引きずり出される。
前言撤回、やんちゃし放題じゃねぇか。
「先輩、大変ご迷惑をおかけしました……」
そこには小さくなった遠峰さんがちょこんと丸まっていた。
なんかこの光景、つい最近も見た気がする。
……そうか、俺の家でか。
「全然、まぁ飲み会になると気持ち抜けちゃうよね」
おい、口笛吹いてるけどお前もだぞ白帆。
「それで先輩がここまで運んでくれたって……あれ、なんで白帆先輩の家知ってるんですか?」
くそ、この流れで誤魔化せると思ったのに。優秀過ぎるのも考えものだな。
「それはね、遠峰ちゃん」
「はい!」
得意げに人差し指を立てながら話し始める白帆。
「私とせんぱいが付き合っ……」
容赦なく彼女の頭にチョップを振り下ろす。何嘘を吹き込もうとしてるんだ。
油断も隙もない。
「違うだろ?」
「でもでも、外堀を埋めるのも大事だし……」
おろおろとする白帆。
「嘘はだめだよな?」
「うぅ……はい」
遠峰さんは俺たちのやり取りを珍しいものでも見るかのように眺めている。
どうしてこんな状態で落ち着いていられるんだ、というか酒は抜けたのか?
「なんとなく分かっちゃいました!先輩と白帆先輩のこと」
彼女はくすくすと笑いながら立ち上がる。
少しよろめいたのはずっと座っていたからか、それともアルコールのせいか。
「ちゃんと説明するから!……先輩とはご近所さんでね、」
そう言うと白帆は遠峰さんの手を取ってベランダへ向かう。
「どれくらい近いかと言うと」
彼女は意気揚々とベランダへ歩いていく。
これから起こることを考えて、思わず眉間に手をやった俺はおかしくないはずだ。
まったく、プライベートが無いのか俺には。
遂に白帆はカーテンを開け放ってベランダへ出る。
そして自慢げな顔で俺の部屋を指差しながら口にした。
「ここ、せんぱいの家!」
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