第74話
翌朝、目が覚めてリビングに行くとブランケットの上で土下座している白帆が俺を迎えてくれた。
刺激的な朝だな……。
「昨日はほんっっっとうにご迷惑をおかけしました!」
一晩寝て酔いも覚め、しかし記憶は残っていたのだろう。
普通に考えて、会社の先輩の家に金曜晩に転がり込むなんて粗相以外の何物でもないからな。
「いや、鍵忘れてきたなら仕方ないだろ」
「先輩のお家に初めてお邪魔するのがこんなタイミングだなんて……」
今なおソファに伏せてる白帆に近づいて、隣に座る。
「ほら、土下座はもういいから朝ごはんでも食べようぜ」
ちらっと時計を見ると、時刻は7時30分。社畜の朝は休日でも早いのだ……というか身体が勝手に起きてしまう。
ソファでまんまるになっている後輩をぽんぽんと叩く。
「こんな簡単にお邪魔させてもらえるなら、寝室のひとつにでも忍び込めばよかった……」
完全な球体に近づいてきた白帆の奥底から訳の分からん言葉が聞こえてくる。
「もし寝てる間に侵入してたら外に出してたからな」
「うう……こんな寒いのに……先輩の悪魔ぁ」
「むしろ泊めてんだから天使だろうが」
彼女はばっと身を起こすとこちらをまじまじと見てくる。
ん?こいつ、寝起きの割に髪整ってるし、メイクしてないか?
「お前もっと前に起きてたな?」
「うっ……!」
びくんと身体を震わすと、彼女はそろそろと起き上がり玄関へ向かう。
慌ててシャツの裾を掴むと、自分の方に引き寄せる。
「やん!先輩大胆!」
「おいこら誤魔化して逃げるな」
「だって〜!さすがに寝てる先輩を起こすのは忍びなくて〜」
こいつなりに気をつかったんだろう。不器用なところもかわいいとは思うが。
「それで、今日どうすんの?お前」
「社員証はあるので、鍵だけ取りに帰ろうかなぁと……どうせ誰か休日出勤してるでしょうし」
「まじ?」
土日とか会社の最寄り駅にも近寄りたくないだろ。
それなら、
「途中まで行こうか?朝ごはんがてら」
「え!いいんですか!!」
目をきらきらさせる白帆。
こう見ると犬みたいだな、今も尻尾をぶんぶん振っている幻覚が見えそうだ。
「そうと決まれば準備だ準備、コーヒーだけ飲ませてくれ」
ガスコンロに点火しながら欠伸をひとつ。
「わーい私も欲しいです」
キッチンに入ってきた彼女はマグカップを棚から出す。あれ、どうしてそこに入ってるって知ってるんだ。
……ほんとに早起きしたな?こいつ。
やがていい香りが部屋を満たしていく。これだけで脳が起きる気がする。
コーヒーは朝は言わずもがな、夜に飲んでもいいものだ。昨日の夜のように。
個人的には、朝はブラックと決めている。夜は……その日の気分によって変えるが。
「あ、砂糖とミルクどうする?」
冷蔵庫を開けながら彼女に問いかける。
「私ブラック飲めないんですよ〜」
そう言うと白帆は、なんの躊躇も無く真っ黒な液体に角砂糖を落とした。
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