第71話
こうなることは半ば読めていた。眉間を指で揉みながらも足を動かす。
帰り道、ぐでんぐでんの白帆を引きずりながら歩道を歩く。
「しぇんぱい、もう1軒いきましゅか?」
「行くわけねぇだろ」
店を出るまではシャキッとしていた白帆だが、外へ出て数歩でダウン、見事なまでの千鳥足である。
会計の時はあんなにまともな感じだったのに……財布まで出して「せめて自分の分は!」とか言ってたくせにこの様だ。
「ほら、タクシー呼ぶか?ワンメーターで帰れるだろうし」
ここが最寄り駅で本当に良かった。時間的にも距離的にも。
こいつの状態というより、俺が面倒だからタクシー呼びたいんだが。
「い〜や〜です!引っ張ってってください!」
わがままな後輩なことで。これで仕事できるの何かの嘘だろ。
それにしても最近ちょっとガードが緩すぎないか?社畜と言えども男はみんな狼なんだ、他の人と飲む時どうしてんだ。
「他の人とはお酒飲まないですもん。サシなんてもってのほかです!」
「ナチュラルに心の中覗くのやめてくれ」
道端に捨てて行く訳にもいかず、仕方なく彼女の腕を掴んでゆっくりと歩く。
「飲みすぎだろ、1軒目で……まだ21時だぞ」
「時間とか関係ないです!先輩とのめないってなってやけ酒してたから」
「いやまた別日に飲んだらいいだろうが」
「結婚しても急に晩ご飯いらないとか言われたら悲しいじゃないですか」
論理がぶっ飛びすぎだ。
こいつの頭の中はどうなってんだ。
「どう考えたら結婚した時の話になるんだ……」
「え〜実家にも挨拶来たのに〜?」
「あれは仕方なくだな」
やがてよく見る通りへ出る。
この地獄のような時間もあと少し、この腕にしがみつく後輩を家に放り込めばミッションコンプリートだ。
彼女のマンション前まで来ると、腕を引っぺがす。
「ほら、もう歩けるだろ」
こくこくと頷いた彼女は口を開く。
「ありがとうございます……それじゃまた!月曜日ですかね?」
「会えたらな」
白帆は思ったよりもしっかりとした足取りでオートロックの自動ドアを通……らずに戻ってきた。
「あの、、、大変申し上げにくいのですが」
すうっと目を逸らしながら彼女は呟く。
「鍵、会社に忘れて来ちゃったみたいで……」
100人男がいれば99人は落ちるであろう、あのうるうるとした上目遣いで。
「今日だけ泊めていただけませんか?」
両手を合わせてこちらを見ていたのだった。
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