第70話
とりあえず生、つまみは冷やしきゅうりと味玉。注文した串が到着するまで、このあざとい後輩の皿からカツをかっさらう。
「あ〜!頼んでないのにいけないんだ〜!」
目ざとく見つけた白帆は自分側に皿を引きずっていく。良いじゃねぇかもう10本も食ってんだから。
「だめだったか?」
「だ、だめじゃないですけど……」
なんかもじもじしてるが無視してザクザクの衣にかぶりつく。言質はとったからな。
口内を荒らす鋭利な衣、次いでしゃくっと不思議な感触。これは……山芋か!
「お前山芋ってまた酒飲みなつまみを」
「お野菜のカツ美味しいじゃないですか!」
二度漬け禁止、ソースの海に串を潜らせながら彼女は口にする。
確かに。この油っこさと野菜の「許され感」、それに肉には出せないあの甘みが癖になるんだよな。
まだ注文した豚串が来ていないにも関わらず、シシトウや生姜の串を注文してしまう。
「それでせんぱい、どうして突然1人で飲みたいとか言い出したんですか?」
白帆はカウンターに腕をつきながらグラスを眺めている。
まるでどこかの写真集みたいに様になっているその光景は、切り取って持ち帰りたいほど綺麗で、それでいて刹那的なこの瞬間だからこそ心を打つのかもしれないと考え直す。
「あー……なんとなくなんだよ本当に」
「私とお話するのが嫌になったとかじゃなく?」
「ないない」
軽く手を振って応える。
多分今彼女の方を見ると、あのうるうるとした泣きそうな顔に絆されて、よからぬ事を口走ってしまうだろう。
「はぁ〜よかった!」
彼女は大きく息を吐くと、流れるように手を上げる。
たたっと小走りで現れた店員さんに、彼女は注文を告げる。
「生2つで!」
いや、俺の分はまだ残っているんだが。手に持ったジョッキの中で黄金色の液体が楽しげに揺れる。
目線での抵抗虚しくキッチンの奥へと消えていく店員さん。
「まだ残ってるって」
「でも次は一緒に満杯のジョッキで乾杯したいので!先輩が頼んだ串カツも来るだろうし」
……全く無茶を言う。
覚悟を決めて中途半端に残ったビールを喉へと流し込む。
「おぉ〜いい飲みっぷり!」
ぱちぱちと拍手をしながら思ってもないことを口にしてやがる。
「誰のせいだ誰の」
「いつもはベランダに来てくれるのに突然来なくなった先輩を思って1人やけ酒してた白帆ちゃんですかね?」
もう頬に差した赤色は、俺が隣に座った時よりも濃くなっていて。
「よくわかってんじゃねぇか。前半はちょっと意味不明だが」
直後、先程奥へと消えていった店員さんが並々注がれたジョッキと串盛りを持ってこちらへ近づいてくる。
俺は飲み干したジョッキの持ち手部分をカウンターの端に向けて置くと、串盛りのためのスペースを空けるべく、空になった皿たちをまとめ始めた。
◎◎◎
こんにちは、七転です。
祭の時期ですが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。
今日も各地で花火大会やらが開催されるそうで。
クーラーの効いた部屋でぽちぽちスマホをいじってる私にはあまり関係ないですが……。5日間労働の疲れは2日じゃとれない。
作中の季節はそろそろ冬、現実とのギャップで風邪ひきそうです。
こちらの作品でご飯の描写するとぞわぞわしますね、慣れてなくて。
記録的暑さらしいので(毎年言ってない?ボジョレーかよ)どうぞ体調にはお気をつけくださいませ!
ではでは!
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