第52話

 結論から言うと、謝罪は驚くほどスムーズに終わった。やはり白帆を連れてきてよかった。


 先方の会議室に入った瞬間、フレンドリーな雰囲気で近況の話が始まった時には目が点になった。これ俺要らなかったな。


 ずっとおどおどしていた遠峰さんも、最終的には先方とにこやかにコミュニケーションを取れていて安心だ。


「どうです?意外と私、できる子だったでしょ?」


 にへへっと頬を緩めながら彼女はこちらを振り向いた。


 アスファルトには夕陽が差している。ビルの影がゆらゆらと俺たちを覆う。


 ちらほらと視界に映る仕事終わりのサラリーマンたちも足取りが軽い、金曜日だもんな。


「あぁ飲み屋で潰れて先輩を呼び出すくらいポンコツなのにな……今日は助かったわ」


「前半が余計なんですよ!」


 俺たちのやり取りを見て、少し後ろを歩く遠峰さんが微笑む。


「仲良いですね」


「これのどこがよ」


「ほれほれ!こういうこと言ってるんですよ!」


 白帆が脇腹をつついてくる、小学生か。

 こいつパーソナルスペース狭すぎだろ。


「遠峰さんはどうだったよ、初めての謝罪は」


「とっても緊張しました……私が悪いのに他の人が謝るのってこう……」


「思ってるよりも効くよね〜〜」


 腕を組んだ白帆のジャケットが風ではためいている。

 どうにも先輩している後輩を見ると、むず痒くなってしまう。まるで自分の属性が解けて崩れるような。


 はぁ、とため息をつく遠峰さん。

 思わず白帆と顔を見合せて頷く。


(お前今日もう帰れる?)

 

(もちろんです、元々ベランダで飲む約束してましたし!)


(あれは約束とは言わねぇ)


 2人で徐々に歩くペースを落として遠峰さんに並んだ。

 先方と明るく話していたのも空元気だったようで、スーツも少し皺が入っている。


「遠峰ちゃん!今日の仕事はもう終わりです!ね?先輩」


 普段より数段明るく白帆が話し出す。


「そうだな、今から会社戻るのもな」


 わざとらしく腕時計を確認。

 当の遠峰さんはきょとんと目を丸くしている。


「……ごほん、というわけで」


「というわけで、今からラーメンでも食べに行きましょっか!」


 そう言うと白帆は遠峰さんの後ろに回ると背中をぐいぐいと押していく。

 傍から見ると仲のいい姉妹のようだ。


 2人を見ていると、こんな金曜日も悪くないなんて思ってしまう。

 後輩たちに置いていかれないよう、俺は少しだけ革靴を前に進める速度を上げた。

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