第51話
金曜日、俺は遠峰さんのどんよりした顔と対面していた。
「先輩、申し訳ございません。」
なんだなんだと話を聞くと、どうやら仕事でミスして先方に迷惑をかけてしまったとのこと。
「ちゃんと報告できてえらい、ちょっと待ってな」
遠峰さんを席に残して部屋の奥へ。
課長に経緯を説明する。聞いてるところ別に先方そこまで怒ってるわけじゃ無さそうなんだよな。
課長が出るまでもない。
「白帆さんを連れて行くといい」
頭に疑問符を浮かべながらも課長の言葉に頷き、自席に戻ると内線を押す。
『はい、企画課白帆です』
『お疲れ様です、総務の、』
名乗ろうとした瞬間、彼女の声が俺の息を遮る。
『ふむ、その声は先輩ですね?ご用件をお伺いしましょう!』
最初に受話器から流れた声よりも明るいトーンで彼女は話し出す。
「すまん、俺にもちょっとよくわかってないんだが、遠峰さんの……」
『およ?先輩も来てくれるんです?謝罪ですよね謝罪!課長から聞いてますよ〜』
こんなにテンション高く謝罪に行くやつがあるか。
「おう、なんでか分からんがうちの課長がお前連れてけって」
『あぁ〜!あそこ、私が前にかな〜り便宜図ったところなんでね、任せてくださいよ』
思わず頭の中に力こぶを作る白帆が現れる。
首を振って幻想を消すと、素直に感謝する。
「正直助かるが、いいのかほんとに。言ってしまえばお前の功績じゃん」
『いいですか先輩、こんなものは相手が恩を覚えてるうちにさっさと使った方がいいんですよ!ましてや後輩の遠峰ちゃんのためとあらば!』
そこまで言ってもらえるなら。
「んじゃ今回はお前の言葉に甘えさせてもらうわ」
未だにどんよりと沈んでいる遠峰さんが視界の端に映る。
周りの他の先輩から次々お菓子が飛んでくる、みんなどこからそんなに甘いものがでてくるんだよ。
課長までちょっといい洋菓子をそっと机にお供えしている。やはり新入りはかわいいのだ。
『今回だけじゃなくていつでも甘えていいんですよ、白帆ちゃんのここ、空いてるので』
「職場でいらんこと言うな。聞かれたらどうすんだ」
『うーん、その時は私の勝ちってことで!では!15分後エントランスとかでいいです?』
何が勝ちで何が負けなのか分からなくなってきた。
俺が1回も勝てないということだけは確かだが。
受話器を置いて遠峰さんに声をかける。
「よし、じゃあ行こうか」
ジャケットを羽織って鞄を持つ。
外に出る前に課長に報告する。一言二言交わすと、今度こそ総務課の外へ。
社会人も数年してると慣れたもんだ。
普段よりも少し歩きづらい革靴を鳴らして、俺はエレベーターホールへと向かった。
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