第50話
『有給使って帰る実家さいこう!!!』
夕方、スマホを確認するとメッセージが入っていた。あいつ……。思わず舌打ちをしてしまう。
送信者はもちろんあざとい後輩代表、白帆選手。
近くに居たらデコピンの1つでもお見舞いしているところだ。
ご丁寧に、実家と思しき広いリビングで大きな犬が寝転んでいる写真まで送ってきている。
『まじでかわいい』
『私が?』
『どうやったらこの流れでそうなるんだよ。わんこよわんこ』
『ん゛ぁ〜飼い犬に負けた……』
こんなんでもやり手だからな。仕事に手は抜かない、納得いくまで自分のデザインを諦めないって聞くと嘘みたいだ。
そりゃあ同期や後輩だけでなく、先輩や上司にも頼りにされるわけだ。
……普段の言動を見ていると少し首を傾げてしまうのは間違っていないはず。
『今もう帰りです?』
『いや、今日は残業の予定』
目の前のPCに映る積み上がったタスクがらんらんと輝いている。
休日ゆっくりするためにも片付けなければ。
『ふぁいとです!』
適当にスタンプを返してPCに向き直る。
ーーーーー
時刻は22時と少し、もう総務の事務室には誰もいない。
声が聞こえるあたり、隣の企画には誰か残っているんだろう。よく考えれば白帆が遅くまで残業しているのを見たことない気がする。
眠気覚ましに買ったブラックコーヒーのペットボトルも空、夕方にはこんもりあったタスクも今では砂場の山くらいになっている。
帰り支度をしてスマホを見ると通知の光。
『さっき聞き忘れてたんですけど、今週金曜夜って空いてますか?』
『俺にはゆっくり寝るという予定が……』
『ってことは家にはいるんですね、ありがとうございます!』
何に感謝されているんだ俺は。
『外には行きたくないんだが』
『いつものベランダで少しだけ、いいですか?』
最近そういえばベランダでゆっくりもしてないな。
涼しくなってきたし外で飲むにはいい季節。
後輩からの突然のお誘いにも最近は慣れてきた。これが絆されるってことか。
『お土産買ってくので!もし嫌だったらちゃんと断ってくださいね』
そう言われて考える。
嫌かと言われればそうではない、彼女がかわいいから?人気者だから?そんなわけが無い。
社会に放流されて早数年。自分の生活と密接に関わる人間なんて今までいなかったのだ。
何の因果か彼女のお陰で騒がしいながらも楽しい毎日を過ごせているのには変わりない。
『いや、待ってるわ』
それだけ返してスマホを閉じる。
さっきコーヒーを買いに行った時よりも幾分、足取りが軽い気がした。
◎◎◎
仕事帰りの電車からこんばんは、七転です。えぇ、終電です。
この作品ももう50話、早いものですね。
ここまで読んでくださったみなさま、本当にありがとうございます。
インターネットで無限に時間を潰せる現代で私の作品に辿り着いてくださり、あまつさえ読み続けてくださり、感謝しかありません。
せっかくの50話ですのでキリよくいこうかなとも思いましたが、まだまだ続けるぞの意味を込めてこんな感じで。
いつかみなさんにいい報告ができればなんてふんわり思う次第です。
引き続きよろしくお願いします。
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